第4話<万古長青>



「時間の流れって不思議だと思わないか?」

「急ね…。」


放課後。時間を持て余した私は中庭の花を眺めつつ千紗が戻ってくるのを待っていた。


が、この男がふらりと現れてはまた不思議なお題を投げかけてきた。


「アインシュタインの相対性理論的な話?」

「んー…。似てるか?」

「知らないよ。」


気まぐれにメガネを掛けているが、メガネってキャラじゃないからか異質に感じる。まあ異物ではあるか?人体から自然発生したものでは無いし…。


などと考えていると、またなにか言っているので意識をそちらへと向けた。


というか大人は仕事をした方がいいのでは、と、まともな私が言っている。


「2年後って、どう感じる?」

「どう…って、遠い未来に感じるかな。」

「じゃあ2年前は?」

「もうそんな前かって。てかなんの話よ。」

「じゃあ2年前から今日までを振り返った体感時間は?」

「あっという間的な感覚?」

「それ!変な話だよなー。」


一番の変人はあんたじゃ?だとは思うけど敢えて言わずに同じく考えてみる。


確かに変な感覚だ。同じく時間と言う概念に軸を置いているのに2年後は遠く感じて、2年前は近く感じる。挙句経過についてはあっという間?変だな。


「もっと言おう。歴史に関してもそうじゃないか?明治とか大正とか言われると“昔だな”と思うけど西暦で言われると“え、割と最近じゃね?”みたいな」

「それはなんか違う気がする。」


花にも時間を感じる能力あるのか?とかぶつくさ言いながらモゾモゾとしている。

てか本当になんなの。そんなことを急に。


「年取るのって年々早いのはそういう事だよなあ。」

「なにも辻褄合わないのだけど。」


結局のところ何が言いたいかは不明だった。

が、夏の風が気持ちよく吹き抜けていたのは覚えている。


いつかこの日を思い出した時に、遠い過去のように思い出すのかな。


横顔が影に落ちる。ふと気になって見つめているけど、どうにもざわつく。少し困ったように笑って、目も合わさずにこっそりと零した。


「あんま見るなよ。照れる。」

「うわぁ…。」


そう言われて、私だって照れくさくなった。

くだらなく、突拍子もないことを言っているようだけど、悩みにそっと差し込むような事を言い出すのはいつもの事だった。


「ごめん!待ったー?」


千紗の声が響く。チラリと時間を確認すると、15分程経っていたようだった。


そうでもなさそうね、とニタリ笑う。居心地が悪くて視線を逸らした。


そうね。少し満喫していたから、待っていた感覚が薄れていたかも。


「じゃあまた明日。」

「結局なんの話だったかは教えてくれないのね。」


また今度言います。と、先生ぶって手をヒラヒラとさせた。


「ねえなんの話してたの…!」

「…ナイショ。」

「なにそれー!」



この日のこの気持ちを忘れることがないよう、目に焼きつけるように見渡す。

大切にしようとしたことがあったか不明瞭な空間を大事に思えた瞬間、空は青から紫へ傾きかける。


ふわふわと揺れる花が、時間とはなにかこっそり教えてくれている気がした。





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