7話 フィオとのデート
ソフィア様との婚約と屋敷贈呈の約束をされた翌日。俺は自室にてフィオとお茶会をしていた。ソフィア様との婚約について話すためだ。
「フィオは良かったのか?俺がソフィア様と婚約しても?」
「正直に言うと、何も感じなかった訳ではないんですよ」
ではどうしてソフィア様との婚約を了承したのだろうか?
「実は使者に来たのはソフィア様だったんですよ」
まさかソフィア様本人が使者として来ているとは思わなかった。
「ソフィア様を見て確信しました。ソフィア様もルーク君に恋をしているのだと。もし、ルーク君と結ばれる事が絶対に出来ないなんて状況になったら私なら耐えられません。それにルーク君はソフィア様と婚約したとしても私を愛してくれますよね」
「ああ。あの日誓った時、それを違えた時は死ぬ覚悟をしている」
あの時アンナ夫人の前でエトワール神に誓ったんだ。それくらいの覚悟はできている。
「愛してくれるのは嬉しいんですが、ルーク君が死んでしまったら私泣いちゃいますからね!」
「フィオには涙より笑顔の方が合う」
「……そう言う事を恥ずかしげもなく言えるのはずるいです」
「本当の事しか言っていないからな」
実際にフィオは泣いている姿より笑っている姿の方が断然俺は好きだ。
「ルーク君、愛しています」
「フィオ、愛してる」
互いに愛を囁いた後は、お茶会の続きを楽しんだ。途中でふと気づいた。
「そういえばフィオと王都でデートした事無いな」
「そう言われるとそうですね」
「折角だし今からデートに行かないか?」
「行きます!」
フィオがすごい剣幕で賛成してきたのでデートに行くことになった。
「いつもは慣れ親しんだ王都もルーク君とのデートでは何故だか新鮮な感じがしますね」
「そうだな。フィオとなら何処でも楽しいだろうが」
「……ルーク君は女性の扱いに慣れすぎでは」
「そんな事は無いんだが」
フィオは顔を赤くしながら言う。やはり天使か。
「あ、見てくださいルーク君!美味しそうな氷菓子です!」
「そうだな。せっかくだし買ってきて食べてみるか?」
「はい!」
「じゃあ一緒に買いに行くか」
そう言い俺とフィオは氷菓子を売っている店に歩を進める。メニューを見るとかなりの種類があるようだ。
「……沢山あって選べません」
「折角だ、お互いに食べたいのを選んで分け合わないか?」
「いいですね!そうしましょう!」
それぞれ食べたい味を頼む。俺は甘酸っぱいのが特徴なローズベリー味を。フィオは爽やかな風味が特徴なリーフミント味を。頼んですぐに氷菓子が届く。一口食べると口の中に甘酸っぱい香りが広がる。美味いな。氷菓子の甘さとローズベリーの甘酸っぱさが良い味を出している。配合的にはローズベリーを少し多めにしているのか?
「美味しいです!」
「そうだな。これは何度も通いたくなる味だ」
フィオも満足そうな表情で氷菓子を食べている。それぞれの氷菓子を交換して一口食べる。こちらも爽やかな甘さが氷菓子によく合う。そんな様子を好ましく思ったのか店主が声をかけてくる
「美味しそうに食べてくれるじゃねぇか嬢ちゃん達。恋人同士か?」
「ああ。彼女は俺の婚約者だ」
「お似合いだねー。美味そうに食ってくれたし今回のお代はいいぜ」
「そ、それは悪いですよ!」
「んじゃあまた今度他の子達も連れて食べに来てくれ。それが今回のお代ってことで」
お代と称してちゃっかり宣伝を促すとは、この店主抜け目がないな。
「分かった。今度また来させてもらおう。勿論他の奴らもつれてな」
「頼んだぜ」
話している内も氷菓子を食べ進めていたので食べ終えてしまった。フィオのほうも食べ終えたようだ。店主に別れを告げ、王都巡りを続ける。
「親切な店主さんでしたね」
「そうだな。まあちゃっかり宣伝を頼んでいるあたりはやり手だろうが」
「ふふっ。今度はソフィア様も連れて行ってみましょうか」
「そうしよう」
こうして街をめぐるのもいいものだな。”ジーク”だった時はよくアリスに連れまわされていた記憶がある。転生してからはこうしてゆっくり街をめぐることなどした事がなかったからな。もう少し鍛錬だけでなくこういう風に町巡りをするのもいいかもしれないな。勿論鍛錬をおろそかにするつもりはないが。
「ルーク君?どうかしましたか?」
「いや。よく考えてみたらこうしてゆっくりと王都をめぐる事をした事がなかったなと思ってな。今回のデートだけでなく、もう少し王都をめぐる機会を増やすのもいいなと思ってな」
「私もあまりルーク君と婚約するまではあまり外に出たことはありませんでしたし、婚約してからもルーク君に会いに行くために通ったりはしていますが、こんな風に店などを見て回るということはした事がなかったので何だかとても新鮮です」
「フィオが楽しめたのなら良かった。これからはデートの時間も増やすとするか」
「私は嬉しいですけど、ちゃんとソフィア様もとの時間も作ってあげて下さいね」
「もちろんだ」
デートの回数も増やそうと思った時、目の前から身なりの整った男が近づいてくる。
「君すごく可愛いね! そんなやつより僕と一緒にデートしないかい」
……何なんだこの状況は。いきなり見知らぬ男が近づいて来たと思ったらいきなりフィオをデートに誘ってきたんだが。フィオはお前の彼女ではないし誰がそんな奴だ。初対面の人間に対して失礼すぎるだろう。
「何でしょう貴方は? いきなり現れて人の婚約者をデートに誘われても困るのですが」
「君には聞いていないんだけどな。僕は彼女に言っているんだ。関係ないものは引っ込んでいてくれないか」
……この男は何を言っているんだろう? 俺は婚約者といったはずだが。婚約者が関係者でないならなんだというのだろうか?
「それでどうかな?一緒にデートしてくれるかな?」
俺はフィオの方を見る。そして気付いてしまった。……フィオが物凄く怒っていることに。何故かって? ……凄い笑顔だからだよ。先ほどまでの楽しそうな笑顔と違って圧がものすごい笑顔だ。
「お断りします」
「そうかそうか、デートしてくれ……今何て?」
男は言われた言葉が信じられないと言わんばかりに驚いている。
「お断りしますと言いました。大体いきなり出てきて何なのでしょうか?ルーク君は私の婚約者です。そんなルーク君に『関係ないものは引っ込んでくれ』?ふざけないでください!私の大切な婚約者にそんなことを言った人とデートするなど本気で思っているのですか!そもそも例えそんなことを言っていないとしても私がデートするのは後にも先にもルーク君ただ一人です!」
……フィオ、嬉しいんだけどこれ周りに気づいていなさそうだな。周りには街の人達がニヤニヤしながら俺たちの事を見ている。少し恥ずかしくなってきたな。
「くっ!こっちが下手に出ていれば生意気な!お前は俺とデートすればいいんだよ!」
「きゃっ」
男は怒りフィオの腕を掴む。それを見過ごすことは出来ないな。
俺は男の腕を掴む。男は急に腕を掴まれた事に驚くが、すぐにこちらを睨む。
「その手を離せ。汚い手で俺の婚約者に触れることは許さん」
「邪魔なんだよ!」
男は俺の手を振りほどき殴りかかってくる。
「ルーク君!」
「大丈夫だ」
ただ一直線に殴ってくるだけのやつに負ける道理はない。スピードもないしな。
俺はそのパンチを軽く横に動き避ける。そのまま相手の腕を掴み背負い投げる。男は地面にたたきつけられる。
「ぐあっ!」
男が苦悶の声を漏らす。俺を殴りたいならもっとスピードがないとな。それこそ剣聖クレア並みのスピードが。身体に衝撃が走る。見るとフィオが抱き着いてきていた。
「ルーク君!お怪我はないですか?」
「大丈夫だ。あの程度の輩に遅れは取らないよ」
「良かったです。ルーク君の強さは知っていましたがそれでも少し心配だったんですよ」
「フィオに心配をかけてしまうようでは婚約者失格だな」
「もう!いやですからね。ルーク君以外の婚約者は」
本当に俺にはもったいないくらいの婚約者だ。だからといって婚約破棄などするわけないが。そのまま男を衛兵を引き渡した。いい時間だったのでフィオを送り届け王都最初のデートは終わった。
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