5話 盗賊と魔法の実験

魔法の訓練の続きをやろうかとも思ったが、既にもう家を出てから2時間は経っている。これ以上は父上達に心配をかけてしまうため、今日の訓練はここまでにして家に帰ることにした。



「もう大分遅くなってしまったな。シエル、これから家に帰るが、普段は姿を隠しておけよ」



「分かっているわ。私も騒がれたら敵わないしね」



シエルの存在は可能な限り隠しておきたい。そもそも動物型の精霊ですら珍しい。人型の高位精霊なんて、現在2体しか確認されていない。

シエルが精霊女王とバレた日にはどうなるかなんて考えたくも無いな。



「霊体化っと。これで契約者の貴方以外には見えないわ」



霊体化とは精霊達が普段姿を隠している方法だ。なおあくまで姿を消しているだけなので、魔力感知能力に優れた人なんかには魔力を抑えていないと気付かれる。



「なら、早く帰るぞ。これ以上遅くなると主に母上が暴れそうだ」



「貴方も色々大変なのね」



急いで門のところまで向かう。門の前に着いたところで丁度馬車と入れ違いになった。護衛も無しなんて珍しいな。



「こんな時間に馬車が王都の外に出て行くのは珍しいな」



だがただ珍しいと言うだけなので、特に気にせず王都の中に入ろうとしたが、シエルが気になる事を言った。



「今の馬車何か気になるわね。一瞬しか見えなかったけど荷物らしい荷物は無かったし、馬車の中に黒い袋があって少し動いたのよね。加えてそれを囲む様に数人が乗っていたわ」



「なに?」



貴族の馬車と言う可能性は無いだろう。明らかに貴族が使う様な派手さも無いし、かなりボロボロだ。かと言って商人の馬車、しかも王都から出る商人が商品

を仕入れないで帰るのはかなり不自然だ。全く無いと言うわけでは無いが、王都の商品は地方の方でかなり人気だ。それを仕入れないとなると余程何かあるのか?


あまりにも不自然なので無属性初級魔法“サーチ”を使う。“サーチ”の効果は範囲内の対象物を調べる事が出来る。また対象物の分類が細かいほどより正確に探知する事が出来る。集中すれば範囲内の景色を見る事も可能だ。



「(対象は人間、範囲は俺を中心に半径3キロ………!?)」



すぐさま、俺は馬車を追いかける。まだそう遠くには行っていないはずだ!



「どうしたのよ、急に?」



シエルも追いかけながら何故走り出したのかを聞いてくる。



「あの馬車を“サーチ”で調べた。対象は人間でな。お前が言っていた様に数人が馬車に乗っていた。だが、袋にも“サーチ”が反応した」



「なるほどね。あの中にも人が入っていると」



「袋に人を入れる奴らだ。まともな奴らだと思うか?」



「十中八九、盗賊の類いでしょうね」



「そう言う事だ」



「ならもういっその事アジトまで行って壊滅させちゃえば?」



「……それもありだな」



アジトのほうにも誘拐された人達がいるかもしれない。人数もその分増えるだろうが、今の俺ならそうそう遅れをとることもないだろう。それに多対1の練習にもなる。



「丁度いい。魔法の実験台になってもらうとするか」



「……久しぶりに貴方の悪そうな顔を見たわ」



失礼な。そんな悪い顔をしているつもりはないんだが。

しばらく追いかけ続け、やがて何処かの洞窟までたどり着いた。

木の裏に身を隠し、盗賊たちが洞窟内に入って行くのを確認して俺も中に入る。

やがて1つの部屋の前にたどり着いた。中から少し声が聞こえたので聞き耳を立てることに。



「にしても今回の獲物はやけに綺麗な格好をしていたな。ボスは深く詮索するなっていってたけど、何処かの貴族確定だよなあの嬢ちゃん」



「いずれにしろボスが帰ってくるまで少しかかる。あの嬢ちゃんには手を出すなって言われてるしな。他に女がいればよかったんだけどな」



「ボスが『邪魔だ』とか言って早々に奴隷商に売りに行っちまいましたからね」



……これ以上聞いていると怒りが制御できなくなりそうだ。俺は部屋の扉を蹴り、中に突入する。



「なんだ!?襲撃か!?」



「敵はどいつだ!? ってぐはっ」



扉を蹴った瞬間に扉の近くにいた奴を気絶させる。


「まず1人。残っているのは……3人か」



「相手はガキ1人だ。物量で押すぞ!」



「”ファイアボール”!」



「”ウォーターボール”!」



「”アースバレット”!」



目の前から初級魔法3つが飛んでくる。



「”ファイアボール”、”ウォーターボール”、”アースバレット”」



全く同じ初級魔法をぶつけ迎撃する。お互いの魔法がぶつかった瞬間、魔法が霧散する。



「なっ!?馬鹿な!相殺するだと!」



「こいつただのガキじゃねぇのか!?」



魔法を相殺するためには同じだけの魔力量をぶつける必要がある。俺がしたのは魔法にこめられた魔力量を解析し、全く同じ魔力量を込めてぶつけただけだ。



「簡単に言うわね。あの一瞬でそれをできる人間はあまりいないのだけど」



「鍛えれば誰でもできるだろう」



「そうだったわ。貴方の周りもおかしい人達だったわね」



別にこれくらいは普通だろう。昔は初級魔法の相殺くらいなら結構な人数が出来ていただろうに。



「なら、こいつはどうだ!”フレイムランス”」



火属性中級魔法”フレイムランス”か。中級魔法をこのくらいのスピードで放てるとは。盗賊にしてはやる。だが、槍の数はたった1本だけか。

丁度いい。訓練で使っていた魔法を使うか。



「”アイスランス”」



瞬間氷の槍が出現する。その数3本。1本は炎の槍に、2本は他の盗賊たちに向かって発射される。氷の槍は炎の槍をかき消し、そのまま盗賊に当たる。

他の2本も盗賊に直撃する。威力は死なない程度に抑えているため、死ぬことはないだろう。


”アイスランス” それは基本属性である水と火を使った混合属性である氷属性の魔法だ。氷なのに火?と思うがここでの火属性は温度の低下のためだ。氷は水が0℃以下になった時に変化してできたものだ。

混合属性には様々な組み合わせがある。火と風で炎属性。光と闇で混沌属性、などだ。炎属性の魔法は先程盗賊が使っていた”フレイムランス”とはげんみつには違う。

風属性を使い空気中の酸素を密集させることでより強力な魔法となっている。



「思ったよりは練習にはなったか」



そう言い部屋の奥の扉を開ける。そこには金髪碧眼の女の子が眠っていた。



「やはり貴族の令嬢だったか」



先程の盗賊たちが綺麗な格好をしていたということから予想はしていた。



「ここからどう救出するか。背負っていくか」



その時背後に気配を感じた。



「そいつは困るんだよな。その嬢ちゃんを連れて行かれると」



後ろを振り向くとそこには背の高く、顔に竜の入れ墨をした男が立っていた。

明らかに盗賊たちの親玉だろう。



「部下たちがやられてると思ったらこんなガキにやられたとはな」



「ガキだとなめてたからじゃないか?」



「そうかもな。まあとにかく降参した方がいいぜ?俺はあいつらとは違いガキだろうと油断はしねぇ」



「生憎だが、盗賊に遅れをとるほど弱いつもりはない」



「ほざけ!」



そう言い男は雷の弾を約10発、俺に向けて放つ。俺は少女を抱きかかえ、回避する。



「雷属性初級魔法”サンダーバレット”か。しかも無詠唱とは」



「チッ。今ので仕留めるつもりだったんだがな」



「だが、この子にも当たるところだったが?」



「かすり傷くらいは問題ねぇよ。俺はそれでも楽しめるからよ」



あの盗賊たちの親玉なだけある。聞いていて胸糞悪い。



「なら手加減をする必要はないか」



「へぇ。今までは手加減してたって言うのか?」



「実際そうだからな。一応言っておこう。



そう言い残し、俺は氷属性上級魔法”アイスプリズン”を発動する。

盗賊たちの親玉が氷の檻に囚われる。


「氷属性だと!?なら火属性で、”ファイアウォール”」



「無駄だ」



親玉は火属性中級魔法”ファイアウォール”を発動するが炎の壁が現れた瞬間、凍った。


「は?ファイアウォールが凍っただと!それどころか俺まで凍ってきているだと!」



「その檻の中の温度は-218℃だ。むしろ誇っていいぞ。その檻に入って一分間凍らずにいられたんだから。運が良ければ生きているだろう」



「ち……くしょう」



親玉は悔しがりながら凍っていった。俺はアイスプリズンを解除する。



「久しぶりに見たわね、その魔法」



「上級魔法の中では俺があまりつかってないからな」



この魔法は使い勝手は悪くないが、他に使いやすい上級魔法があるためそちらを使うことが多い。俺は眠っている女の子をどうやって王都まで運ぶか考えている



「取り敢えず、背負っていくか」



「それしかないでしょうね」



ひとまず、女の子を背負いアジトを出る。本当は盗賊たちも連行したいところだが馬車はご丁寧に壊されていたのでしようにも出来なかった。一応後で回収に来れるように氷の柱を立て、王都に向かった。




しかし、この時の俺は気づいていなかった。まさか俺が助けた女の子がアリエス王国第二王女、ソフィア・フォン・アリエスだということに。








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ここまで読んで下さってありがとうございます!

PVもありがたいことに37まで来ました。正直この段階で10くらいあれば嬉しいとおもっていたので読んで頂いた方には感謝しかないです!

是非、応援コメントやレビューなどしていただけたら私のモチベーションにもつながるのでお願い致します。。










































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