3話 婚約後

「あの、ルーク様」



「どうされました? フィオーレ嬢?」



正式にフィオーレ嬢と婚約者になった。フィオーレ嬢は恥ずかしそうにしながら



「わ、私の事はフィオと呼んで下さい」



「よろしいのですか?」



「はい!ルーク様はこ、婚約者ですので。それに愛称で呼ばれた事がなくてひそかに憧れていたんです」



「かしこまりました」



「あ、後敬語もやめて下さい!」



確かに、同い年の婚約者同士が敬語で話すというのは。




「分かり……分かった。これでいいか?」



「はい!」



「なら、俺の事もルークと呼んでくれ。様づけはあまり慣れてない」




「わ、分かりました。ル……ルーク……君」



「最後に君が入ってしまっているが」



「い、今まで男性を呼び捨てにした事がなくて」



「そうなのか。なら好きに呼んでくれ」



「なら、ルーク君で!」



「分かった。これからよろしくな、フィオ」



「はい! ルーク君!」



本当に可愛いな。何があろうともフィオを守り抜かなくては。



「なら、父上とアルタイル公爵に正式に婚約者になった事を伝えに行かないとな」



「そうですね。お父様がはしゃぎすぎないといいのですが」



「それだけアルタイル公爵に愛されていると言う事だ」



「それは分かっているのですが、お父様は昔から娘の事になると暴走気味になるとお母様とお姉様がおっしゃっていたので」



アルタイル公爵、まさかの超がつく程の親バカだった。だが父上も似た様なものだしな。クレイ兄上曰く、「父さんは昔リーンが生まれた時も『娘は何処にも嫁にやらん!』って言ってたからな。それに母さんは呆れていたが」との事だ。


リーンと言うのは俺の姉上、リーン・フォン・リュミエールの事だ。

今は魔法学院の寮に入っているため家には居ない。長期休みの時には帰ってきたりするが、姉上は何を隠そうこちらも超がつく程のブラコンである!

そのため帰ってくる度、姉上から過度なスキンシップを受けたりする。

……次の長期休暇はどの様にして姉上の被害を避けるか。


「ルーク君?」



おっと。姉上の災害対策に夢中になりすぎた。フィオは心配そうな目で見ている。



「すまない。少し考え事をしていた」



「それなら良いんですが。体調が少し優れないとかでは無いんですよね?」



「ああ。心配をかけてすまない」



「いえ。ルーク君が大丈夫なら良いんです!」



「大丈夫だ。それじゃあ報告に行こうか」



「はい!」



俺とフィオは父上とアルタイル公爵に婚約報告をするために応接室を後にした。

父上達の下に行き、フィオとの婚約を話すと父上、アルタイル公爵どちらもたいそう喜んでくれた。アルタイル公爵に至っては涙を流しているくらいだ。



「フィオーレ、良き相手が見つかってよかったな」



「はい、お父様!私はルーク君に会えて幸せです!」



「ルーク君!娘の事をよろしく頼むぞ!」



「はっ!必ずフィオを幸せにいたします!」



この言葉に嘘偽りは無い。何があろうとも、フィオを幸せにしてみせる!



「さて、アルタイル公爵。こんなにもめでたい事があったんだ。宴でも開こうではないか!」



「あなた。折角なら公爵夫人を招いてからの方が良いに決まっているわ」



「それもそうだ!アルタイル公爵、一度帰って夫人も連れてくるといい。とびっきりのご馳走を用意しておこう!」



「ではお言葉に甘えるとしよう。フィオーレ、私は一度戻り、アンナを呼んでこようと思うが、お前はどうする?」



「私はその間ルーク君と過ごしていようと思います」



「分かった。ではリュミエール公爵、また後程」



「ああ」



そう言ってアルタイル公爵は一度自身の家に戻って行った。

俺とフィオは公爵が戻ってくる間、再び応接室に行き、お互いの事や魔法について話し合った。魔法の話をしている時でもフィオは先程とは違い、暗い表情は一切していなかった。




2時間後、アルタイル公爵がアンナ夫人を連れて戻ってきた。



「ご無沙汰しております、リュミエール公爵。それにエレナも久しぶりね」



「そうね。最後に会ったのは丁度3ヶ月前の公爵夫人のお茶会かしらね」



「ええ。それとこちらの子が?」



「ええ、私達の息子のルークよ」



「ルーク君、初めまして。アンナ・フォン・アルタイルよ。知っての通りフィオーレの母よ。よろしくね」



「お初にお目にかかります、アンナ夫人。アラン・フォン・リュミエールが三男、

ルーク・フォン・リュミエールと申します」



俺は片膝をつき、貴族式の礼儀作法を行う。あまりにもきれいな動作だったからかアンナ夫人は驚いた様子で



「エレナ、この子にどれだけ礼儀作法を仕込んだのよ。大人の貴族顔負けじゃないの」



「それがねアンナ、お手本を一回見せただけでこれだけの礼儀作法を会得したのよ、ルークったら天才ね!」



「貴女の親バカは相変わらずだけど、そう思っても仕方ないわね」



ジーク時代でも貴族であったと言うわけではないが、貴族のパーティには何回か招待された事もあって、ルナとレイラを除いたメンバーは2人に徹底的に礼儀作法を叩き込まれたからな。出来ればあの地獄の特訓はもうやりたくない。



「ルーク君、他でもないフィオーレ自身が貴女の婚約者になる事を望んだ以上、私達がどうこう言うつもりも無いわ。この娘の事、よろしく頼むわね」



「お任せを。エトワール神に誓って、必ずフィオを幸せにします」



「……エレナ」



「何?」




「この子、本当に子供かしら?」



「……私も時々そう思うわ。ルークって子供とは思えない程しっかりしているのよ」



何か対応を間違えたのだろうか?貴族の子息ならこの位の覚悟は決めていると思うが?

ふと、フィオの方を見ると顔が真っ赤にしてうつむいていた。もしや身体を冷やしてしまったか?



「……(リュミエール公爵、貴殿の息子は末恐ろしいな)」



「……(私も息子がある意味恐ろしく思ってしまったところだ)」



一先ずこのまま玄関で立ち話をしているわけにもいかないので、俺たちは食堂に向かった。

食堂に着くと既にクレイ兄上、ケイン兄上の両名がおり、料理が既に並べられていた。



「アルタイル公爵、アンナ夫人、お久しぶりです。クレイ・フォン・リュミエールです」



「ケイン・フォン・リュミエールです」



「久しぶりだね、クレイ君、ケイン君」



「会うのはいつぶりかしらね?」



「恐らく1年前の魔法学院の卒業式以来かと」



「僕は2年前のパーティの時ですかね」



「そうか。もうそのくらいは会っていなかったのか」



「まあこれからは家族になる訳だし、必然と会う頻度は増えるわよ、そうよねエレナ?」



「そうね。折角だしお茶会の頻度も増やしましょうか」



「まあまあ。一先ず席に座ろうアンナ。今日の主役は私達では無いのだから」



「そうね」



各々が席につく。フィオは俺の隣に座っている。父上がグラスを持つ。



「では、我が息子、ルーク・フォン・リュミエールとフィオーレ・フォン・アルタイル嬢の婚約を祝って、乾杯!」



「「「乾杯!」」」



父上達がワインを一飲みする。当然俺とフィオは酒は飲めないのでジュースだが。



「ルーク、フィオーレ嬢との婚約おめでとう」



「ありがとうございます、ケイン兄さん」




「フィオーレ嬢、ルークの事よろしく頼む」



「はい!アラン義兄様」



その後も宴は進んでいった。父上達を見るとどちらの長女が可愛いかという議論をしていたので、母上とアンナ夫人に止められていた。兄上達は呆れていた。


俺は外に出て少し夜風に当たっていた。それと同時に少し感傷に浸っていた。

こんなに平和な光景を見ることができたのなら”ジークの犠牲”も無駄ではなかったんだなと思えた。



「こんな所にいましたか」



そんなことを考えているとフィオがこちらにやって来た。



「急にいなくなったから探してたんですよ?」



「すまない。少し夜風にあたりたくてな」



「そうでしたか。……隣いいですか?」



「ああ」



フィオは俺の隣に座る。



「今日は星がよく見えますね」



「ああ。こんなにきれいな夜空を見るのはいつ振りか」



落ち着いて星を見るなんて暫くはしていなかったからな。”ジーク”の時ほどとはいかなくとも鍛えておいて損はないと思い、身体がある程度育った3歳からの3年間はひたすら鍛えていたからな。お陰で当時の10分の1程度の実力にはなった。

だがまだ足りない。フィオを守り抜くためにはもっと力をつけなければ。それこそ”ジーク”の実力を超える必要もあるかも知れない。それに何故”ジーク”の存在が消されたのかを知るためにも。



「フィオ」



「どうしましたか、ルーク君?」



「何があろうと俺はお前を守り抜く」



だからこそ俺は誓う。今より更に強くなり、何があってもフィオを守り抜くと。

フィオは少し不思議な表情を浮かべたが



「はい。信じていますよ、ルーク君」



と微笑みながら答えるのであった。






















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