経路


ザザザと、埃を被った古臭いラジオが息を吹き返す。

それは、始まりを告げる合図でも、

それは、終わりを告げる宣告でも、

今を生きるもの全てが注目する。

新たな宣告を。


『我々は、北米大陸を統べるもの。ここに、新たな宣言を行う。

「カルロス」以外の沿岸部を全て閉鎖する。無論、拒否権なぞない。

我々が秩序だからだ』




「ここからカルロスまで一体どれぐらいかかる!?」


二人に看取られ、目覚めたケリーの開口一番。

無理やり立ちあがろうとするケリーを止める。


「落ち着け、まず一つずつ何があったのか話してくれ」


冷静になって、辺りを見渡すケリー。

左手首と、頭に包帯が巻かれていて、右腕には点滴が刺さっていた。


「ディアラ……ドルチェアートは何処だ?」


ケリーの疑問にハズウェルが答える。


「一度、あいつだけ帰ってきたんだ。

『カルロスに襲われた』ってな。

全身血だらけでな、それはもう見ていられないほどに。んで、お前と同じ様に治療を行ったんだ。

けど、目を離した隙にどっかに行ってしまった。

部屋には手紙が残されてて、『ケリー以外には見せないで』と書いてあった」


「手紙?」


「ほら」


ハズウェルに渡された小さな紙。

中身を見ると、『この手紙を見るってことは、君は生きて帰って来れたことになる。それは褒めてあげるよ、お兄ちゃん。

けど、それはそれ。この手紙を読み次第、僕たちの邪魔をするんでしょ?

君はいっつもそうだしね。

だからさ、ひとつ提案。

もうすぐ、全ての沿岸部が閉鎖される。そうなったら、君は北米大陸ここから脱出出来なくなる。

僕だって別に、殺し合いがしたいわけじゃない。

だからさ、もし僕たちの邪魔をしないと言うのなら、ここから出て、アジアに行きたいのなら、僕は遠慮なく協力する。

ワシントン州、アバティーンに来て。

けど、もし来ないのなら。

もし、カルロスに行くと言うのなら。

今度こそ僕は本気で、君を殺す。

長くなったけど、じゃあね、お兄ちゃん。

2度と会うことのできないかもしれないけど。

     親愛なる妹、ディアラ』


「……」


置き手紙を読んだ3人は言葉を失った。

ケリーは手紙をビリビリと引き裂いた。

やるべきことは決まった。


「全部、思い出したんだろ?話してくれないか?」


一度、大きな深呼吸をし、今まで起きた出来事を話し始める。今すぐにでも行きたかったが、限界を越え、酷使された肉体に溜まった疲労は、ケリーが思っていたより体力が無かった。休憩を求めていた。


「ドルチェアート……ディアラは『カルロス』の本当のリーダーだ。正確に言えば、10年前の、だけどな。

まだ、カルロスがテロ組織でなかったころ。

俺は、ディアラを撃った。

彼女の目的は『無秩序による秩序』。

アメリカを崩壊させたのだって所詮、アイツらからしたら、過程でしかない。

頭を撃って殺そうとした。

けれど、弾丸は急所を外れ頭蓋骨を抉るだけで、脳には届かなかった」


そこまで言って一度ふと、忘れていたことを思い出す。


「そういえば、アイツがいなくなってから、今まで一体どれぐらいの時間が経った?」


「3日だな」


ケリーの額から、急に汗がで始める。

痛みを我慢し、疲労困憊の身体を鞭打って無理やり立ち上がる。


「おい、無茶だ」


抑制の声が入った。

それは、コルトの様に本当に心配して、無意識に発せられた叫び。


「悪いが……時間がないんだ。早く『カルロス』に行かなきゃ。全部、終わってしまう!」


ケリーの思いを冷静に受け流すシェリフ。


「……ジジイのような最期になるかもしれないぞ」


それまで、静観していたシェリフが口を開いた。


「元はと言えば、全部俺の責任だ」


ケリーの覚悟を聞いて少し、シェリフは唸りをあげて考える。


「……止めはしない。だが、どれだけ過酷になるのか。『カルロス』にお前の味方はいない。それでも行くのだな」


それは、単なる確認だった。


「あぁ」


「……悪いが俺たちは同行できない。お前だけじゃない、他の住民もいるからな」


ハズウェルはどこか諦めたようにケリーに事実を告げる。


「ついて来い」


シェリフはケリーを連れてガレージへと向かう。

目的は、バイク。

ここまで、ケリーを連れてきてくれたコルトの残した希望。


「メンテナンスは済んだ。それと、これは俺からの選別品だ」


それは、少し大きめのバッグ。

中身を見ると大量のマガジンと、大量の食料に、大きめの水筒。

全部、限界ギリギリまで入れられており、バッグがめちゃくちゃ重かった。


「それと、これを」


渡されたのは小さな手形。


「なんだ?これ」


「旧高速に乗ってメドラへ行って、それを見せろ。きっと、力になってくれる」


手形の下の方にはハズウェルと書いてあった。きっと、彼なりの優しさなのだろう。そう考えて、その場にいない男と、見送ってくれる男に向け、最大限の感謝を告げる。


「ありがとう」


それしか、ケリーには恩返しの方法がなかった。


「死ぬなよ」


それはシェリフの本音。仕事としてでは無く、個人の意思。


「ああ」


ケリーはバイクを走らせる。

目的は『カルロス』。


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