空想


「!」


雨に打たれ続けた男が目覚める。

撃たれた傷はもう回復している。

何時間寝たのだろう。


太陽が昇っているのかどうかわからない。

ケリーは重い身体を無理やり動かし、歩き出す。

もう、ディアラの姿はなかった。


「……ッ」


走らなければいけないものの、目覚めたばかりで身体が思うように動かない。

記憶が戻った反動か、頭痛が加速する。


ようやく郊外に出たところで、雨が止んだ。

太陽が昇っている。


「急がないと」


ディアラの野望。

それだけは絶対に防がなければならない。


(……足が、重い。それに、暑い)


広大な草原の中で、ポツンとある小さな家。それは、ディアラと共にパンを食べた場所でもあった。

休憩のためにケリーは家に入った。


(頭が、くらくらする。それに、吐き気も……)


倒れるように座り込んで、深呼吸を行う。

死に体に鞭を打っていた反動が、今になって降り注いできた。

瞼が重くなってきた。ケリーは頬をつねり、無理やり脳を起こす。


(不味いな、これ。喉乾いてきやがった)


体力はある程度回復できてきた。

けれど、喉の渇きは潤せない。


(やるしか、ないよな)


家を出て、自身を映す水たまりを見る。

まだ、濁ってはいない。

住んでいる水色を、手で掬う。

覚悟を決め、ケリーが口へ注いだ。

人としての何かが失われた気がした。

けれど、生きるためには仕方ないと、ケリーは割り切った。

水筒ぐらい持ってくればよかったと思ったのはまた別の話し。


(良し、行くか)


照りつける太陽の中、ケリーはまた走り出した。


「くっそ……死んでたまるか」


記憶の限り、ここには水がなかった。

早めに脱出しないと不味い。

走り出して、草原の中央。


「グルルルル!!」


肉を求めて彷徨い歩く四足獣。

目が赤く染まり、涎で垂れていた。

爪ひとつひとつが鋭く、切り裂かれればひとたまりもないだろう。


けれど、ケリーは全くと言っていいほど、恐れていなかった。

右手で銃を取り出す。

冷静に標準を合わせる。


「邪魔だ」


獣が殺気を感じたのか、尻尾を向け逃げ出した。銃をホルスターに戻し、再度走り出す。


(不味い、と言うか最悪だ。喉が、乾きやがった)


辺りを見渡しても、飲めそうなものはない。

あと、もう少しで、シェルターに帰ることができる。


右手に、銃を持つ。

上半身の服を脱ぐ。

左手の手首に銃口を合わせる。


「─────────────────」


声にならぬ痛みが、全身を支配する。

左の手首を口元に持ってくる。


「はぁ……はぁ……」


血の匂いがキツく、少しネバネバしていてとても飲めたもんじゃない。

無理やり喉を乾かし、服で手首を縛る。


痛みに耐えながら走るケリー。

何度も意識が飛びそうになった。

ようやく、草原を出た。


薄っすらではあるが、ようやく白いコンクリートが見えてきた。


インターホンのようなボタンを殴りつけるように押す。

数分もしないうちに、ハズウェルとシェリフが出てきた。

安心故に、張り詰めていた集中力が粉々に砕け散った。

全身の力が抜け、立ち上がることができなくなるケリー。


「おい!大丈夫か!?おい、立てるか?聞こえるか?くそ、脈が弱くなってやがる。

おい!シェリフ手伝え!」


室内に男二人がケリーを担いで入る。

寝床にケリーを置き、シェリフは必要な道具を取りに走り、ハズウェルが治療を開始する。

バケツリレーの様に水を汲み続けるシェリフ。

輸血パックを刺し、全身に血液を巡らせる。


「おい、水飲め!───良し。目は見えているか?おけ。───寝たか」


「どうだった?」


「なんとか大事にはならなそうだ。ただ、出血がかなり酷い。一時的に輸血でなんとか貧血は防いでいるが。かなり不味いな」


「そうか……」


浅い呼吸で深い眠りにつくケリーを見て、2人はそれぞれのやるべきことを始める。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る