出口


「は?」


信じられない。というより、訳がわからなかった。

この世の天国から出たいと。


「いや、戻らない訳じゃないよ。ただ、君に見て欲しいものがある」


「は?」


全身に巻き付けてあった包帯を無理やり剥がし、困惑しているケリーの腕を引っ張り、半ば強引に部屋から出した。


「時間がないの。早くして」

「?」


考えるだけ無駄。そう感じ取ったケリーはアートについて行くことにした。

未だ止まない頭痛。記憶がパズルみたいにバラバラになっている。


(コイツといると、頭痛がする)


重圧な扉が彼女の手のひらが触れるだけで開かれる。


───彼が持ってた銃は……やっぱり……


長い廊下を進み、ようやく階段が見えてきた。

ケリーはアートに支えられ、階段を登る。

外に繋がる扉が開く。

いつもより、星が綺麗だった。


「少し歩くけど問題無いよね?」

「ああ」


二人は無言で夜の道を進む。


「風が気持ちいね」

「そうだな」


草原をゆったりと歩く。

暗い道の中に刻まれる二つの足跡。

数時間歩いて、ようやく草原を出た。

もうすぐ、時計の針が12時を指す。


「ちょっと、休もっか」


二人は道端にあった小さな小屋に入った。

アートがリュックからパンを取り出した。


「はい」

「ども」


美味かった。

アート曰く、自分で1から作ったらしい。

ここ数年、まともなご飯を食べてないケリーにとって異常な程、美味かった。


二人はまた、暗闇を歩き出す。

更に数時間歩いて市街地に出た。

もう、人は誰一人としていない。

みんな、殺された。

みんな、奪われた。

明かりはついていない。

市街地にの中央にポツンと設置してある公園。

そこが、彼女の目的だった。

滑り台で滑った。

ブランコを二人でこいた。

二人は時間を忘れ、無邪気に遊んだ。

ボロボロになったベンチに座り、アートが口を開く。


「僕、本当はね、君の妹なんだ」

「は!?」

「君は覚えていないかもしれないけど、昔は良く、ここで遊んだんだよ」


彼女がポケットから取り出したもの。

彼女の手には血のついたガバメント。

ケリーが持っていたものと同じだった。


「これ、君が僕にくれたんだ」

「……そんな……ものを?」

「うん。目覚めてからのこの数ヶ月。ずっと大切に持ってた」


(……ッ)


頭痛が更に強くなる。記憶が複雑に絡み合う。その中で一本の線が繋がる。

アートに関する記憶が。

ケリーの直感が警告を出す。

頭を抑えるケリーを支えるアート。


「大丈夫?お兄ちゃん」


優しく微笑むアート。


「あぁ……」


本能が赤信号を出す。

マズイと。汗が止まらない。

銃口がケリーの方を向く。

赤く染まったガバメントが、ケリーの記憶を刺激する。

アートが優しくトリガーを引いた。


「じゃあね。お兄ちゃん」


別れの言葉と同時に火薬が爆発する。

ケリーの胸を貫いた弾丸。

血が滲み出た。

なんとなくではあったが、わかっていた。

ケリーはたった一瞬の出来事に反応することが出来なかった。


「な……んで……」





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