明日へ



─────思い出せない。

どこかで。

────いやだ。

だれだ。

───やめろ。

いつか。

──考えるな。

なぜ?

─心が■■■■■

■■■■■■■■


記憶がバラバラで、誰が誰かわからない。

どこかで会った。どこかで見た。

無意識では知っている。

けど、■■■■■■■■■

何度もノイズが走る。



───────────────────


「大丈夫?君、かなり苦しそうだけど」

「あぁ、なんとか。それよりここは」


なんとか、冷静さを取り戻す。


「……疲れてるのかな。ね、ハズウェル、一つ部屋貸してあげていい?」

「構わんぞ。悪いが俺たちはやることがあるから、お前が運んでくれ」

「ありがとう。さ、ついてきて」


彼女に連れられ、ケリーはベッドの上で横になる。


「ありがとう、ドルチェアート」

「アートでいい。落ち着いたら、僕の部屋に来て欲しい。話したいことがある。部屋はそこの飾ってある地図に載ってるから。

あと、施設は自由に使っていい。けど、外に出るのはダメ。外に出たいのならまず僕に相談して」

「わかった」

「さて……」

「?」


頭痛がより強くなる。今にも頭が割れそうだ。


「……久しぶりだね。ケリー」

「なんで、俺の名前を……」

「なんでって、覚えてないの?10年前のこと」

「いや……」


思い出せないというよりかは思いだしたくなかった。

10年前のことははっきりと覚えているはずだ。あの日のことだって。


「……そう。ならこれだけは覚えて、僕は、君を知っている」


それだけいって、彼女は部屋から出ていった。

全身に巻かれた包帯のせいで動きにくい。

包帯を外し、傷口を確認する。

まだ、多少は痛むものの、もう、傷は癒えていた。


(これから、どうするべきか)


アメリカから出る。これも一つの手だ。

ここで余生を暮らす。これも悪くない。


(とりあえず、寝るか……)


この数日間、まともに睡眠が取れなかった。

バイクに乗っている間は振り落とされないようにしがみつくので精一杯だった。

夜は襲撃に備え、1時間の交代制。

まともに寝れるわけがない。

まともに疲れが取れるわけがない。


(これ、人をダメにするやつだ。やっべぇ、くっそふかふかだ)


高反発ベッドに低反発枕。

それになにより、エアコンが効いていた。

空調にあたって寝るとか、ケリーにとっては初めてだった。

電気を消して、目を瞑る。

あまりの疲れに、身体の力が抜けていく。

深い眠りで、夜を待つ。



─────君は、知らなくてはならない。

俺は

─────君は、目を背けてはいけない。

お前は

─────お前が殺したんだ。

何故

────お前が見殺しにしたんだ。


──思い出せ、己が罪を。



───────────────────


「大丈夫?酷くうなされてたみたいだけど」

「ああ、なんとかな」

「そう、ならよかった」


短く、彼女は微笑んだ。


(やっぱり、思い出せない)


壁にかけられた時計を確認する。

針は19時を指していた。


(7時か……。昼前に来たとはいえ、結構寝たな)


「イタッ」


体を動かすことが出来ない。

電撃が走ったような痛み。


「君に、頼みたいことがある」

「?」


飛びそうな意識の中でアートの声が響く。

彼女の望みが聞こえる。


「私と外に出て欲しい」



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