旅人

9年前のこと。

経済が死んだアメリカは、今後の復興を目指す為に、大統領が直々に演説を行なった。

テレビで中継され、全米が注目していたとも。

アメリカ存続の危機だ。そりゃあ、皆期待してたとも。

政府の今後の方針が出され、演説の熱もピークになったときだった。


1発の弾丸が大統領の頭を撃ち抜いた。

結果だけで言えば、惨たらしいものだったけどな。

演説は皆が注目した。

だからこそ、暗殺という結果は全世界に秒で広まった。

それだけなら、まだ良かったとも。

いや、良くはないか。


問題は暗殺をした犯人だった。

過激派集団。彼らは大統領を殺した後、演説に来ていた者たちを全員撃ち殺した。

それが、全世界に中継されていたんだ。


「俺たちが秩序だ」


彼らが言い残した言葉を引き金に、全米で銃乱射事件が多数発生した。

1州あたり最低でも100以上の事件が、同時に発生した。

これにより、ただでさえ麻痺していた公共機関が完全に崩壊した。


彼らは[カルロス]と名乗り、北をニューヨーク、南をワシントンD.C.まで武力で攻め落とし、彼らの国[カルロス]を作った。


そこからは、ただただ悲惨だった。

彼らのやった行いは、残酷以外の何物でもなかった。

[カルロス]から遠い発電所の破壊。

[カルロス]以外のインフラの破壊。

[カルロス]以外の雑貨店の破壊。

生き残った者同士でのシェルターの襲撃。

無論、全ては[カルロス]に抵抗する可能性を消す為。

皆殺し、強奪。

力ある者が正義の弱肉強食となった。

銃を持つ者しか生きられない。

最早、北米大陸において、[カルロス]以外は人が生きれるところではなかった。


太陽が出ている間は彼らの時間だ。

殺し、殺し、殺し、殺す。

快楽の為に、略奪の為に、愉悦の為に。


今も尚、それは続いている。




───────────────────




「これが、事のあらましだ。わかったか?ドルチェアート」

「僕が眠っていた間に凄いことになってるね」

「10年も昏睡状態だったからな。経験していなければ絶対に俺も信じん」

「あれ?そういえば彼は?なんかどっか行くって言っていたけど」

「さあな。詳しくは俺も知らん。古い友人と会うとか言っていたな。それ以外知らん。だが、1週間もすれば帰ってくるとは聞いている」

「そう。僕は心配だな。こんな世界で、まともに生きれるとは思えないし。あの人って70超えているんでしょ?その古い友人って人が生きているとは思えないんだけど」


四方をコンクリートで囲まれた部屋で、2人はゆったりと話す。

世紀末とはこれいかに。



───────────────────


「なあ、まじで俺たちは一体どこに向かっているんだ」

「そろそろ着くぞ。準備しろ」


サバンナを思わせる荒野を駆け抜ける2人とバイク。

この数日間、シェリフは一度もケリーと目を合わせなかった。

何故、こんなことしているのかと、一度聞いたことがあった。シェリフ曰く、仕事だからってのと、古い友人の頼みだから。らしい。

ケリーには良くわからなかった。

一つわかったことは、シェリフは本名ではなかったことだけだ。


「うぉっ……これ、すげぇな」


それは巨大な白いコンクリートの塊。

ただ、周辺から道が整備されており、何より


「電気が……ついてやがる……!」


驚きを隠せないケリーにさらなる追撃が。

ガレージのシャッターが自動で開く。

ことごとくが電動だ。

北米で[カルロス]以外で電気がつくことなんて、殆どない。

ケリーからしたら10年近く電球なんて見ていない。


(眩しい!)


「自動ドアがなんて初めて見たぞ」

「お前、一体何があったんだ」


もう二度とつく事のないテレビ。

埃をかぶったパソコン。

興奮が抑えきれないケリーを他所目にシェリフは奥へと進む。


「地下?」

「早くしろ」


階段を降りると、奥の見えぬ長い廊下があった。

横には無数の部屋。

奥へと進むと一つの部屋があった。

扉は他より厳重で、正攻法以外で扉を破るのは不可能だ。


「俺だ、客を連れてきた。開けろ」


シェリフの一声で何重にも重ねられた扉が開く。

中にいたのは中年寄りの男とケリーと背丈があまり変わらぬ少女だった。


「ようこそ!初めまして。僕の名前はドルチェアート。よろしく!」


だいぶフランクに話しかけるドルチェアートと名乗った金髪金眼の少女。

アメリカンと言うよりかはロシアンのようだ。


「お前、どっかで……」









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