第3話 クラスで1番カワイイ娘とのやり直し
俺は小学校時代から
彼女とは幼馴染でも何でもない関係性。
小学校の途中から同じクラスに割り当てられて存在を知った。時たま話すが、仲良く談笑するなんてことは一度もしたことがない
小学校三年生のときに同じクラスになって、あんなに可愛い人間がこの世にいるんだと思った。
それからずっと彼女とお近づきになりたいと思っていたが、彼女はスポーツやおしゃれが好きで、ゲームや漫画が好きな俺とは身分が全然違っていた。
俺とは話題が合わないし、学校のグループというモノは共通の話題で作られている。
だから、高千穂のいるグループは陽キャ集団でなんか怖くて近づけなかった。
———高千穂、誰かと付き合ってるらしいよ。
ある中学校の日に、廊下で聞いたそんなうわさ話で、俺の心は簡単に折れてしまった。
本当にバキバキに砕け折れた。
それから彼女に近づく勇気も持てず、気持ちを押し殺し、自分は彼女の事なんか好きじゃないと思い込もうとした。
だけど———彼女を見るたびに目で追ってしまう。
◆
「それでさ~……」
「えぇ……それマジぃ……?」
ブレザーの制服を着た女子たちに高千穂花恋が囲まれている。
「おい、どうした
俺がそんな牢獄の中にでも咲く一輪の花はあるなんてポエミーなことを考えていると、翼が俺の目の前に手をかざす。
「そんなにじろじろ見るなよ。なんか言われるぞ」
と、彼はただ彼女のことを見ていただけの俺にくぎを刺す。
「なんかって……何だよ?」
「そりゃ、キモいとか。オタクの癖に見てんじゃねぇよ……とか」
「高千穂はそんなこと言わねぇよ」
――—別にィ~……あんたの視線にはきづいていたけどさぁ。なんも思わなかったよ? ……そっちから話しかけてきてくれないかなぁ~ぐらいは思ってたけど。
スーツ姿の高千穂の記憶が俺に言う。
へべれけになっている、未来の彼女が。
「高千穂……って呼び捨てにするなよ。本人に聞かれたらどうするんだよ……! 高千穂〝さん〟だろ……!」
怯える翼は俺の言葉が誰かに聞かれていないか周囲をキョロキョロ見渡す。
クラス内ヒエラルキー最底辺の俺達は常に周囲に気を配って生きて行かなきゃいけない。
少しでも調子に乗ったりすると、少しだけクラス内ヒエラルキー上の奴が「お前ら調子に乗ってない?」と突っ込んでくる。
だから、なるべく当たり障りのないように生きていかなければいけない。
だけど、大人になって考えるとこう思う。
そんなん気にしなくてもいいのに———と。
「高千穂はそんなの気にしねぇよ」
「あ、おい……?
立ち上がる俺に翼が声をかける。
「高千穂のところ」
「———ッ⁉ おい、馬鹿! やめとけって!」
翼の忠告を無視して、俺はずんずんと高千穂の元へ行く。
「お?」
クラス内ヒエラルキー最頂点の美男美女グループの元へ行く。このクラスで一番顔が良い集団の元へと辿り着く。
俺がいきなり近づいたことで、彼らは異物が来たという目を向ける。
「何? 雨宮君。なんか用なの? 何も用がないのなら、消えてくんない? ちょっとこっち盛り上がってるからさ」
ニヤニヤ笑いのバスケ部の
「ちょっと山鹿ぁ~、言葉きつくない? 雨宮君怯えちゃってるじゃな~い」
女子テニス部のエース、
「———ねぇ、雨宮くん。どうしたの?」
そんな周りのやつらを完全に無視して、
———あんまり楽しくなかったんだよねぇ……山鹿や宇土と一緒にいても。悪口しか話題なかったし、悪口しか言っちゃダメみたいな雰囲気あったし……だから、今あいつらと連絡取ってないし……。
スーツ姿の高千穂の記憶。
その記憶を思い返しながら、俺は———ついに勇気を振り絞る。
「高千穂———ちょっと、話せないか⁉」
言った。
すると、教室中が騒めき一斉に俺を見る。
恥ずかしい……だけど、これでいいんだ。
一生後悔して生きるよりも、これで。
この頃の高千穂は俺の事なんかまともに知らない。
だから、周りの性格の悪い奴らに合わせて俺をからかって終わりだろう。
断られるだろう。
だけど、俺は精いっぱいやった勇気を振り絞った。その事実が大事なんだと自分に言い聞かせることができる。
それだけ、俺は———、
「———じゃあ、
手に———ぬくもりを感じる。
「高千穂っ⁉」
彼女はグイグイと俺をひっぱり教室の外へと、廊下へと駆け出していく。
「フフフフ……」
「何笑ってんだよ?」
加速する。
彼女は笑いながら———加速していく。
「理由がいるの?」
「気持ち悪いぞ……」
「ひどっ」
そんなやり取りをしながら、駆けていく。
今の笑いは多分思い出し笑い。それか、自分で思ったことに自分で笑ってしまったのだろう。
一人笑いだ。
そんなことを彼女がするなんて、この当時は思わなかった。
だけど、未来になったら知る。
◆
長峰第二高等学校に体育館裏なんてベタな場所はない。
校舎、体育館、グラウンドを含めた学校全体のデザインを有名建築家に依頼したとかいうので、他の学校とは違うスタイリッシュなものになっている。
学校敷地内ド真ん中に体育館があり、その南東に本校舎。南西にプール並びに駐輪場。北側全面をグラウンドが占めているという言葉だけでは少しイメージし辛い作りになっている。
だから、この学校で人気のない場所というと体育館の裏ではない。
その———二階。
体育館二階にある小さなスペース、バスケットゴールが設置されている手すりのあるそのスペースに誰にも話を聞かれたくない生徒たちが集まる。
普通の学校ならここは封鎖されているものだが、この学校は渡り廊下で本校舎と体育館の二階をつなげており、気軽に生徒でも行くことができ、なぜかその扉を常に開けっ放しにしている。換気が目的らしい。
「じゃあ———話してよ」
誰もいない体育館の二階で、
「話って、何?」
「ああ……その、さ」
———高千穂、誰かと付き合ってるらしいよ。
遥か昔に聞こえた声が、俺の勇気の邪魔をする。
せっかく
———付き合ってたわけないじゃん! なんかエロい目つきの奴しか告白してこなかったし……本格的に恋愛経験積んだのって社会人になってからだよ? 私。
恥ずかしそうに言ったスーツ姿の彼女が、噂の声を打ち消す。
———あ~ぁホントさぁ、もっと早く告白しててよ。雨宮くん!
「高千穂花恋……さん! ずっと君のことが好きでした! 付き合ってください!」
俺は彼女の瞳を見据えて、そう言った。
今度こそはっきりと言葉にして。
もう、後悔しないように。
ありきたりの言葉だ。
がっかりさせたかもしれない。
振られるかもしれない。
でも、構わない。
俺は———想いを伝えたのだから。
「いいよ」
「———え?」
俺は、正直振られると思っていた。
この時代の俺はただのオタクだし、オシャレにも気を使ってない。ただのどこにでもいる普通の高校生で、こんな特級の美少女にふさわしい男なんかじゃ。
「じゃあさっそく今日の放課後、デートしてみよっか?」
「え、いいの?」
「いいよ」
高千穂が笑いかける。
12年後も変わらない、素敵な笑顔を俺に見せつけてくる。
「———それじゃあ、放課後下駄箱前で待ち合わせしようか?」
「う、うん……」
「あぁそれと……」
高千穂が指を一本立てて、俺に向けて伸ばす。
その———人差し指が、俺の唇にぴとりと当てられる。
「
「え———」
言ったっけ?
つーか、俺高千穂の事〝さん〟付けしてたっけ……?
全然覚えてない。一世一代の告白をしたものだから前後の記憶がない。
「ご、ごめん」
「距離取らないでって言ったでしょ? それじゃあ……またね!」
俺の唇に当てた指に彼女は軽くキスをして、小走りで教室へと戻っていく。
体育館二階には俺が一人残される。
「……うっし!」
高千穂の姿が完全に見えなくなって、俺はガッツポーズをとる。
俺は、
今度こそ後悔のない〝青春のやり直し〟をしてみせる!
……………………。
……………。
………。
◆
私は、
誰にもこの赤い顔を———見られないように。
「あ~なんで、あんな私らしくないことしたんだろう……この頃の私、絶ッ対———あんなことしないのに~……!」
彼の唇に当てた右手の人差し指をギュッとおさえる。
「言ってない……んだよねぇ……」
未来に言った言葉を、10年以上前にも言っていると勘違いするなんて、
「
「まったく……雨宮くんの方から告白してくるなんて思わなくて、テンション上がっちゃったじゃない……まったくぅ……♪」
フン、フンフフ~ン♪、と鼻歌を歌いながら教室へ向かって歩いていく。
———私は今度こそ、後悔しない青春を送る。
この———‶もう一度の高校時代〟では絶対に———。
「楽しいな……」
私、
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