TS転生オリ主が必死になって推しの死を回避する話

丹羽にわか

プロローグ


 



 大気を揺るがす咆哮が轟いた。


 爛々と輝く太陽の元、見上げるような黒い巨体を支える四本の脚はそれぞれが歳月を経た大樹のように太く、並の刃では痛痒にならない毛皮の下には踏み込みだけで地面を砕く強靭な筋肉が躍動している。

 これまで数多のモンスターや冒険者を貫いてきたことを証明するかのように、先端に向かって赤みがかった双角は歪に捻じれ巨大で禍々しい。

 モンスターの名を、ベヒンモス。

 このセテカ砂漠地帯において『陸の王』と呼ばれるほどに強大な一体であり、時には獲物をいたぶる事すらあると冒険者協会のアーカイブに記載されている、獰猛かつ狡猾で残虐なモンスターだ。


 しかし、ぎょろりと周囲の敵対者に向けられる深紅の瞳に宿るのは明確な怒りと殺意だった。

 一歩、ベヒンモスが踏み出す。ブシュ、と傷跡から噴き出した鮮血が地面にパタタッと飛び散った。しかし、それを意に介することは無く怪物は動く。



「振り下ろし! 来るぞ!」



 弓使いアーチャーの青年が警戒を促す声と同時。鋭い鉤爪を備えた前脚が落雷のような鋭さと威力でもって振り下ろされる。



「ぐっ、あぁぁっ!!」



 蓄積したダメージを感じさせないその一撃は前衛の青年が斜めに構えた大盾と激突。火花を散らし、表面のアダマンタイト装甲に四本の爪痕を深々と残して大地を割り砕き土煙を上げた。威力の殆どを受け流した筈の彼の靴は、其れでも尚あまりの衝撃に後方へと二本の轍を残してくるぶしまでを硬い土の地面に埋め込んでいた。



「ヒュウ! こりゃまた修理代が嵩む、なっ、ッ!!」



 自慢の盾が傷ついた事に軽口を叩きながらも気を緩めることはなく素早く後退。刹那、砂塵を引き裂くようにズラリと牙が並んだ大顎による噛み付きが繰り出され目の前でガチン! と音を立てて閉じる。あと一拍子遅れていれば追撃を受け姿勢を崩されていただろう。大柄な青年──カミチはその事に肝を冷やしながらも口元に浮かぶ不敵な笑みと闘争心にギラつく瞳に翳りはない。



「面白えじゃねえの! そら! プレゼントだ!」



 カミチは盾を構えたまま突進。右手に握る戦槌で無防備に突き出たベヒンモスの頭部、その眼窩を狙い一撃を繰り出すも、それを察知したベヒンモスは身を沈めて後方に跳び退って回避を図る。しかし、蓄積したダメージにより動きが遅れ間に合わず、ぐちゅり、と粘質な音と共に左目が熟れたトマトのように潰された。



『ッ!? ガアァァァァァァァァァッ!!??』



 流石に急所である目への攻撃は堪えたのか悲鳴のような鳴き声と共に我武者羅にその場で前脚を振り回し暴れまわる。悪あがきに巻き込まれてはたまらないと大きく下がるカミチに、先程声を上げていた弓使いの青年が駆け寄っていく。



「あと一押しってところかな。怪我はないか、カミチ」

「おうよ。見ての通りピンピンしてるさリーダー様」



 軽薄で女好きでギャンブル中毒者だが頼れる盾役の返事に「ならいい」と笑みを零す青年──冒険者ギルド『先陣一歩』のギルドリーダーを務めるイシウは、コバルトブルーの冷ややかな視線を暴れるベヒンモスに向ける。



「でも、あと一押しと言っても、こちらも消耗は予想以上に大きい…これ以上の遠征の続行は厳しいだろうね。帰路を考えれば慎重に削っていくべきだと思うんだけど」

「そうだなあ。ま、それが無難だが…コフィアは?」

「下がらせたよ。彼女の攻撃力がないのは痛いけどあの消耗じゃね」



 「しゃあないな」と、勝負を決め得る最後の一手を担えた仲間の不在にカミチは一言呟いた。そも、戦闘の序盤に予想以上の機動力と衝撃力でもって前衛を突破、後衛の仲間達に迫ったベヒンモスに対して単騎追いつき傷を与え味方が態勢を整え直すまで押しとどめた結果の消耗、後退である。称賛と感謝こそすれど、不満を抱くような事はあってはならない。


 そう頭では理解していても、惜しい。彼女が居てくれれば、と思ってやまない。


 方針を固めたイシウ達はギルドメンバーに指示を出してベヒンモス討伐の総仕上げの為に素早く陣形を構築する。前衛はカミチを主軸にベヒンモスの猛攻を凌ぎ気を引きつつ、イシウ率いる後衛の遠距離攻撃と共に削りきろうという形だ。



『グルゥゥゥゥ』



 ベヒンモスが唸る。

 己より遥かに矮小な存在によって傷つけられた事への怒りか、それとも陸の王者としての誇りゆえか、逃げ出すような素振りは見せず、隻眼に燃えるような闘志を滾らせてじっと身構えている。



「こ、コフィアさっ、まだ治療が──」

「問題、ありません。イシウさん、おれも」



 一触即発の緊迫した空気の中、回復ポーションと包帯を手に追いかけて来る治癒術師ヒーラーの必死の制止を振り切って一人の少女がイシウの傍に走ってきて、止まった。

 年は一〇代半ばほど、まだ子供と大人の間といった頃。身長は彼の目線に頭頂部が来る程度で、水を浴びた灰を思わせる髪を後ろに流し、普段は殆ど感情の起伏を示さない砂色の瞳の奥底には燃ゆる炎が揺らぎ、その眼差しは眉を上げたイシウ、そして後方で呻るベヒンモスに向けられている。

 身にまとった防具は服の上から要所要所に装甲を取り付けた、儚げで妖精じみた少女の美しさを引き立てつつ機敏な動きと効率的な防御を突き詰めたものだった。軽装でも彼女ならその身を守れると制作者が判断したことが伺える。

 その腰には腕ほどの長さのある鞘を帯び、右手には片手剣を握っている。華美な装飾は無いが時を経た物特有の重厚な質感、そして何処か禍々しさを感じるそれは、彼女の意志を映したかのように諸刃の剣身に陽光を反射してギラリと輝いていた。



「コフィア…」



 イシウは目を細める。彼女──コフィアは満身創痍だった。頭や手足に巻かれた包帯には僅かに血が滲み、爪で引き裂かれたのか一部装甲や革のベルトが千切れている所もある。顔色も良いとは言えない。ふらつきこそ無いが、治癒術師の短時間での懸命の治療と彼女自身の気合で立っているのは誰の目にも明らかだった。


 即座に、ギルドリーダーである彼は決断した。



「一撃だけ許す。その後は絶対に下がる様に」

「…わかり、ました」



 不承不承といった様子で頷きコフィアは前衛のカミチの方へと駆け出そうとし、心配そうな表情で自分を見つめるヒーラーの方を振り向いた。



「これ、ありがとう、ございます」



 頭に巻かれた包帯を触りながらの一言に治癒術師の少女は「あっ、えっ、その、」とどもり、どうにか「お気をつけてっ」と激励の言葉を絞り出した時には、憧れの背中は遠ざかっていた。



「ハッ、ボロボロじゃねえの」



 油断なく盾を構えながら横目でコフィアの方を確認し、カミチは呆れるように言った。「で、我らがリーダーは何だって?」口角を吊り上げながらの問いに彼女は「一撃だけ、後は下がれ…と」感情を押し殺して答えるが、不満げな雰囲気を察したカミチは声を押し殺して笑う。



「なら、きっちり一撃で仕留めな。その分の時間はきっちり稼いでやるよ」

「…任せます」



 頼もしい言葉に彼女は頷き、剣を構える。



『ガァァァァッ』



 ベヒンモスが咆哮を上げ、黒い疾風となって突っ込んでくる。それをカミチ達盾持ちが抑え込み、剣や槍といった武器を手にした前衛たちが死角を突いて切りかかる。それらを振り払っても後方からはイシウの魔力矢、魔導士達の魔法が飛んでくる。


 戦況は一方的かと思われた。しかし、その程度で『陸の王』とは称されない。



『グルァ…』

「ッ! 下がれ!!」



 意図に気付いたカミチが声を張り上げた。

 ベヒンモスが繰り出したのは大地を踏みしめての大旋回。角と尻尾を使った全方位への攻撃に、攻めの勢いに乗ったままで咄嗟に反応できなかった何人かの前衛が吹き飛ばされる。

 ある一人は自身の剣を尻尾と自身の間に入れることで直撃こそ防げたが、圧倒的質量差でもってその身体は宙を舞った。



「うっ、ぐ──あ」

『グルゥゥゥ』



 受け身を取れたのは日々の鍛錬の賜物だろう。しかし、殺意を秘めた赫い眼光に見据えられ、生物としての本能的恐怖がその身体を一瞬ではあるが硬直させた。

 怪物が口を開く。真っ赤な深淵に吸い込まれそうになる。



 疾。



「え?」



 呆けた声が出た。いつの間にか視界を埋め尽くすのは夜空のような黒だったから。

 更にはズン、とその向こうに聳え立っていた巨体が崩れ落ちた。左の眼窩には拳大の穴がぽっかりと空き、そこから赤黒い液体が流れてきて土汚れのついたブーツに触れる。洗うの面倒だな、そんな突拍子もない考えが脳裏をよぎる。



「何を呆けているんですかね、この間抜けは」



 呆れと毒が多分に混じった刺々しい少女の声にハッとして正気に戻った。

 眼前には二つの人影があった。一つは血の雫したたる片手剣を手に残心している少女、コフィア。もう一つは銀の髪に菫色の瞳、褐色の肌を見慣れぬ意匠で彩られたエキゾチックな衣服で覆う小柄で薄い身体つきの少女。極寒の視線は地面に倒れている自分に向けられている。



「す、すみませんっ、アシュテルトさんっ!」



 前衛の彼は慌てて立ち上がった。少女──アシュテルトは頭二つ分は大きい相手の狼狽した様子を見て「元気があり余っているようで…不思議ですね。何か病気の徴候でしょうか? ヒーラーに診てもらった方がいいかもしれませんね」 と言い放ちクルリと背を向ける。


 そんな言葉を浴びせられた彼は怒りに震え──。



「あ、ありがとうございます! そうします!」



 ──る事は無く、むしろパアッと表情を輝かせると一礼して後方へと走っていった、



「…素直じゃないですね」



 コフィアはそう言って残心をとき、剣身についたベヒンモスの血をヒュンと払ってから鞘に収める。カミチの一撃によって目が潰れ死角となっている左方から、幾重もの身体強化と圧縮を重ねた魔力の放出によってかっ跳んでの一突きだったが、鞘の中の刃には一切の刃毀れも見られない。



「……口を開かないで下さい。産まれたての仔ヤギよりも貧弱な契約者サマ? その無様な様子に苛立って仕方ありませんので」

「は、はい……ごめ、ん」



 辛辣な言葉に対して謝罪を口にしガクリ、と糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちそうになったコフィア。アシュテルトは素早く前に回り込んでその身体を支え、小さな身体に見合わぬ力で軽々と肩に担いだ。



「ごふっ…あり、がとう…だけど、も、もう少し…優しく」

「黙っていて下さい惰弱」

「ハイ…」



 そんな二人の様子を少し離れた所から見ているカミチとイシウ。



「最後はヒヤヒヤしたが…何とかなったな。カッコつけといて情けない限りだがよ」

「そうかな? コフィアが間に合わなくても君ならどうにかしてただろう?」

「下手な慰めはいらねえっての。ったく」



 カミチは自身の短い髪をガシガシ乱雑に掻くと、一度大きく息を吐いてから気持ちを切り替え前衛の仲間達の方へと向かっていく。



「オラ! ピンピンしてる連中はさっさと解体始めんぞ! 角、皮、骨、どれも素材として一級品だからな! 一欠片も残すな! あと、絶対に魔石傷つけんなよ!!」

「「「「はいっ(おうっ)」」」」



 それを見送ったイシウは後衛たちに向き直ると、負傷者の治療や撤退の準備、周囲の警戒といった指示を矢継ぎ早に出していく。



「今の僕達だとここまで、か」



 ふと溢した呟きは、砂と共に風に巻かれて飛んで行った。






          ◆ ◆ ◆






 転生したら前世でハマってたソシャゲの世界だった件について。


 テイムされたサラマンダーが曳く荷車に横になり、キャンバス地の幌の天井をぼんやりと眺めていると、そんなテンプレ的文章が頭を右から左へと流れていった。


 タイトルは『EPOCH MAKE FANTASYA』


 「手を取り合い時代を創るRPG」というテーマを掲げた……叡智なソシャゲだ。R18である。勿論前世の俺は大人になってから手を出した。ホントだよ。

 叡智なシーンはキャラのレベルを上げると開放されるタイプで、素材が貯まっていれば新キャラをガチャで獲得してすぐに楽しめる中々良心的な設計。お世話になりました。

 叡智シーンがあるのは女性キャラのみで男性キャラは低レアのハズレ枠という扱いだったけれど、ゲームのジャンルはタワーディフェンスで攻撃力防御力重視の単純な殴り合いよりも、地形や陣形、スキルの効果、発動タイミングなどを様々な要素が複合的に絡み合うので不要なキャラは存在しないといってよく、中々に奥深い。


 まあ、一年保たずにサ終したんだけど。


 俺は好きだった。ただ、世間は違ったようだ。

 

 確かに、キャラのグラフィックは開発時流行していたソシャゲの絵柄の模倣でリリース時には似たのが氾濫していたし、ストーリーや設定にも何処か既視感があった。ソースコードのコピー疑惑やらキャラのトレス疑惑、終わる気配のない長期メンテや度重なる延長やらで炎上したこともあった。公式SNSがうっかり叡智シーンを放流してしまい垢凍結なんてこともあった。これは世間が正しくないか?


 けれど、俺はこのソシャゲにのめり込んだ。キャラも、ストーリーも。手垢塗れのツギハギな作品と言われているこの形が、色々な作品への『何か違うんだよなあ』 を払拭する、俺の求めていたモノだったから。



 ああ、でも、一つだけ嫌いな事がある。



 それは本編のプロローグにおいて、未来の相棒兼正妻兼幼馴染後輩系ヒロインポジのようなキャラ付けと振る舞いと展開で俺やその他大勢の心を奪ったキャラクター『モカ』を死亡退場 させた事だ。


 プロローグはプレイヤーキャラである主人公らが所属ギルドの遠征に向かう前日から始まる。主人公は若くして幾度も遠征に帯同している優秀な冒険者であり、モカは彼の幼馴染で妹分。そんな彼女は主人公から少し遅れてギルドに加入、初めての遠征になる。前向きで人当たりもいい向日葵のような少女だったが、深夜、遠征を控えて不安な気持ちが溢れ、密かに恋い慕う主人公の元を訪れると──。

 

 外はカラッと、中はじっとりしてて非常に良かった。


 そして、遠征が始まった。舞台は『大釜コルドロン』。モンスター蔓延る人外魔境であり地上最後のフロンティア。人員の都合で難易度の高い深部までは行かず前縁部を中心に探索する、比較的安全な遠征──の筈だった。


 スタンピード。


 モンスターが一斉に同じ方向に暴走する現象の事で、発生の原因は様々だが、その時は深部での縄張り争いに敗れたモンスターが前縁部に移動してきた事だった。


 モカは死んだ。スタンピードを凌いだ直後、緊張が緩んだ瞬間を狙ったかのような深部モンスターの奇襲から主人公を庇って。


 血だまりの中に力なく投げ出された手のスチルはトラウマ物だった。



 サ終の原因はここにもあるかも知れない。現代日本ですら熊やらに襲われて人死が出ているというのに、モンスター蔓延るこの世界において危険地帯に踏み込んでいくという事が引き起こす惨劇の描写。メタ的な話、ストーリーを進めていけば、プレイヤーキャラである主人公の精神性を確立させるのに物語上必要なことだったと理解出来る。


 理解はしても納得はしていない。

 

 

 だから俺は──コフィアは、ここに居る。



 定められた悲劇──推しの死を、回避するために。






          ◆ ◆ ◆






 ちゃぷ、ちゃぷ。



 遠征の帰路での野営中。すでに太陽は地平線の向こうへ姿を消し、夜の帳が落ちている。



「……はぁ」



 まがりなりにもひと柱の戦神だったというのに剣に封じられ使い魔に堕とされた彼女に睡眠は必要ない。それは人々の強欲と破滅を休みなく見続ける事と同義だった。それが嫌で、耐えられなくて、でも壊れることは許されず、永劫の苦しみの中にいなければならないのかと諦めていた。



「──う…ぐ、あ」



 今代の契約者は、端正な顔に脂汗を浮かべて苦し気な声を漏らしている。身体強化の過負荷による激痛か、悪い夢にでも魘されているのか。


 アシュテルトは夜闇に紛れて炊事場から持ってきた桶にこっそり汲んできた水を張り、そこに浸してぎゅっと絞った布切れを小さな手に握っている。



「無様、ですね。身の程を弁えずに過分な力を振るうから、そうなるんですよ」



 口調とは裏腹に、コフィアの白い肌に浮かぶ汗を拭う手つきは割れ物を扱うかのように優しい。



「せいぜい、己の至らなさを自覚して、商家の倅にでも嫁げばいいんです。金勘定だけは得意なんですから重宝されるでしょうに」



 ちゃぷ、ちゃぷ。



「こんな細い腕で、脆弱な身体で、何が出来るというのです」



 水音は、夜が更けるまで続いていた。






          ◆ ◆ ◆






 かつて、戦争があった。

 人知を超えた力を持つ神々たちが、各々の思惑を秘めてその権能を振るい、殺しあった神々大戦ラグナロク

 勝利した陣営があるのか今はもう分からない。最初は明確な線引きがあったのかもしれない。しかし、あまりにも長く続いた戦乱は神も人も、記録も記憶も曖昧なものにし、当時から在る神々はその数を大きく減らし、皆一様に口を噤んだ。


 最後の決戦が行われた地、カリオテ山地には遥か地平線の彼方まで続く巨大な盆地が広がっている。山々を消し飛ばす程の激闘が繰り広げられた地には討たれた神々──魔神の亡骸が埋まり、その身に宿していた神秘をまき散らし、極寒の雪原、灼熱の溶岩地帯、深緑たるジャングル、荒涼とした砂漠、見渡す限りの湿原など常軌を逸した環境の中、人外の怪物『モンスター』を生み出した。


 盆地から溢れたモンスターは世界を蹂躙した。それは魔神の無念が形となって牙を剥いたかの様に。残された神々は戦慄し、逆境の中で尚も生きようと足掻く人々に精一杯の加護を与えた。

 魔神が放つ神秘の力──『魔力』を利用できるように。


 魔力を利用する術を身に着けた人類は、母なる大地から徐々にモンスターを駆逐するとともに発展の道を歩み始めた。


 やがて、人類未踏の地に踏み入り探索し開拓の先導者となる『冒険者』が現れるが、未知を解き明かし既知とし、モンスターを怪物から動物になり下げる時代の流れは、彼らを破落戸の代名詞にした。


 しかし、まだ『冒険』は残っていた。

 魔神が眠り、強大なモンスターが跳梁跋扈し、富も、名誉も、ロマンも、各々が胸に秘めた欲望が入り混じる魔境。



 かの地を人々は『大釜コルドロン』と呼んだ。




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