4‐13.結末への期待

 ラーストチカはそれからの残りの日々を、ルェイビンに皇城の敷地を案内させたり、大嘉帝国の様々な話を聞いたりして過ごした。


 またルェイビンの手が空いていないときには皇城内にある衣裳部屋での試着を女官に頼み、世界中から集められた服を着て装飾品を合わせた。


 何十個もの宝石を手にとって見たラーストチカが、皇城には他にあといくつの宝石があるのか尋ねると、年若い女官は困った顔をしてこう答えた。


「兵士たちが奪ってきた財宝が多すぎて、どこに何がどれだけあるのか、私たちにもよくわからないのです」


 ラーストチカが触れることができたのは、帝国が得た富のほんの一部でしかない。

 皇城はそこで働く人間も迷ってしまうくらいに広く様々な建物があり、誰も数え切れないほどにたくさんの物がある。

 だから七日間ではとても見きれないし、見ていても飽きなかった。


(死んだらもう、続きは見えない。でも別にもっと見たかったとか、知りたかったとかとは思わないかな。だって私はお姫様として、生きるためじゃなくて死ぬためにここに来たんから)


 藍色に金製の星の飾りを散りばめた、夜空を模した半球状の大きな天井のある部屋に一人で立ち、ラーストチカはいくつもの候補の中から選んで身につけた薄青い石英のブローチの光を楽しむ。


 いくつかの小さな採光窓しかないその場所は昼でも夜のようにほの暗く、ラーストチカの着た銀色の流れるような布地のドレスは、雲間の月に似た美しさで薄闇に浮かび上がった。


 わざわざ人払いをして女官を遠ざけているので、無駄に広い暗室はかつて故郷で一人閉じこもっていた納屋と同じくらいに静かで、しかも絶対に邪魔が入ることはない。

 だからラーストチカは好きなだけ安心して、自分の考えたいことについて考えることができた。


(私はお姫様として、ルェイビンに殺してもらえる。そうじゃなかったら、私が困る)


 用途はわからないが美しい部屋の、金と泥藍でできた偽の空を、ラーストチカはルェイビンの着る鴉青色に重ねて見上げる。愛し合うふりをした一昨日のルェイビンの目は冷静で、その手は熱かった。


 実はルェイビンは善良な人間で、屠って捌くふりをしてラーストチカを逃してくれる、という物語もそれはそれで綺麗だろう。


 しかしラーストチカは、どうしてもルェイビンが本当に人を殺して料理する人間でいてほしかった。


 可愛そうな境遇の少女に同情して逃がしてしまうようなつまらない男なのではなく、簡単に人の命を奪って食材として扱うことができる、特別に冷酷な男であってこそ、ルェイビンは姫君になったラーストチカの最期の相手にふさわしい。


 だからラーストチカもまたその特別に釣り合った人間でいられるように、生贄として化け物に食べられる瞬間が近づいても、怖がることなく殺される運命に望む。


(私はもうすぐなれるはずだから。儚く綺麗なまま可哀想に死ぬ、つまらない人生を生きなくてもいいおとぎ話のお姫様に)


 ラーストチカは一人薄闇の中で両手を合わせて、ルェイビンに殺されて終わるそのときを心ときめかせて待っている。


 残酷な運命によって命を奪われる姫君として最期を迎えることで、誰よりも特別で尊い存在になること。


 それがラーストチカの望みであり、夢であった。

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