少女は宴の夜に死ぬ

名瀬口にぼし

第一部

序章 大帝と少女

 大嘉だいか帝国の皇城の奥深くには、そこに招かれた者は決して生きては帰れない「饗花宮きょうかきゅう」という名の館がある。

 四季折々の花が一年中咲き続けるその美しい居館では、皇城で大帝のための宴が開かれるたびに少女の命が一つ奪われている。


 海を越えてもなお続く、広大な領土を誇る大嘉帝国は、地上に最も多くの破壊と滅亡をもたらした国でもあった。

 この頂点にいる大帝は世界の全てを統べる支配者で、どの国の神よりも偉大な至高の救世主なのだとされていた。


 鹿は草を食み獅子は鹿を喰らう連鎖の上の、遥か高みに立つ大帝にとっては、生きとし生けるものは皆すべて食すべき存在である。


 だから大帝の宴には、ありとあらゆる食材が並んでいた。

 牛も豚も、鶏も魚も、羊も人間も、そこでは何もかもが大帝に食される供物となるのだ。


 そしてその中でも征服された土地から献上される人間の少女は、「犠妃ぎひ」と呼ばれて特に神聖に扱われている。


 生贄の花嫁として「饗花宮」に送られた後に屠られ、神に喰われて終わるのが、「犠妃」の短い人生だった。

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