第93話 【8月中旬】火乃香と泉希と休みの終わり
【8月13日(火)】
前日に旅行から帰ってきて、俺と一日中ベッドに転がっていた。
予想以上に疲れが溜まっていたのか、俺はイビキをかいて眠りこけていた。
そんなだらしない俺とは裏腹に、
昼飯に早速と例の箸を使ってくれた。値段の張る箸は使い勝手も良かった。
飯を食ってすぐまた布団に転がる俺に、火乃香は文句を垂れながらも俺の隣に潜り込んできた。
まったく、可愛い
【8月14日(水)】
火乃香に
どうやら火乃香が提案したみたいだ。
家を出た先のスタンドでガソリンを満タンにして、旅行の時と同じく途中で泉希をピックアップする。
小綺麗な格好で、テレビアナウンサーを思わせる品性を漂わせていた。
オフクロとは何度も会っている泉希も、家に行くのは初めてなので緊張の色を隠せていなかった。
実家に着くや否や、トイプードルのキキちゃんが熱烈な歓迎をしてくれた。
短い尻尾をこれでもかと振り回し、
普段この家にお客さんなんて来ないから、人好きな
何度か会っている俺はもちろん。二度目の火乃香にも、初めて会う泉希にも愛想を振り撒いていた。
キキちゃんだけじゃない。
オフクロもいたく喜んでいた。
土産はもちろん、俺達が会いに来たのこと自体が嬉しいのだろう。
だが泉希とオフクロが揃うとどうしても仕事の話になるので、火乃香は詰まらなそうにキキちゃんと戯れていた。
帰り際、またオフクロが火乃香に小遣いを渡そうとポチ袋を差し出した。
おまけに今回は泉希の分まである。
当然と受け取る訳にいかず、俺達は逃げるように実家を後にした。
散歩に連れていかなかったキキちゃんが、残念そうに俺達を見ていた。
【8月15日(木)】
墓参りに行った。
火乃香のオフクロさんとウチの親父の墓参りだ。
子供の頃は何度かこの墓を参っていたけど、最近はとんと来なくなっていた。
火乃香はずっと黙って手を合わせていたけれど、誰にどんな報告をしていたのかは聞けなかった。
帰りの電車で見た寂しそうな横顔が、頭から焼き付いて離れなかった。
乗り換え駅で、なんとなく喫茶店に寄った。
カフェじゃない静かな純喫茶。
なんとなく、大人を演じたかった。
感傷的な気分に浸りたかったのかもしれない。
【8月16日(金)】
昼間に唐突と泉希から【
<良ければ、今日夜に飲みに行かない?>
というものだった。
折角の連休に泉希と二人で飲みになど行こうものなら火乃香がまた怒り出すかと
だけど意外にも火乃香はアッサリとして、「遅くならきゃ別に良いよ」と笑顔で見送ってくれた。
アイツも
嬉しい反面、少し寂しい気もする。
それに、何を考えているのか分からないから少しだけ怖い。
折角泉希と二人きりの酒だというのに、火乃香のことが気掛かりで話も右から左に流れてしまった。
【8月17日(土)】
昨夜は結局20時には家に帰った。
火乃香は独りで晩飯を食ったらしい。
後ろめたくなって、俺から買い物に誘った。
特に訝しむ気配もイヤそうな顔もせず、火乃香は楽しそうに鼻唄を歌いながら支度を始めた。
どこに行くかは決まっていなかったので、隣町にある駅ビルを訪れた。
ショッピングモールや繁華街じゃなくて良いのか尋ねると、「人が多いからこっちでいい」とのことだった。
訪れる店も本屋や100円ショップ、雑貨店ばかりで人の入りは少なかった。
たぶん俺を気遣ってくれたのだろう。
代わりと言っては何だが、駅前のカフェで冷たい物を御馳走した。
デカ盛りで有名な店だったので、一つのカキ氷を二人でシェアした。
火乃香が食べさせようとしてくれたけれど、流石に恥ずかしくて遠慮した。
帰り際に電車で財布を覗き込みながら、「バイト見つけないとなー」と嘆息混じりに呟いていた。
【8月18日(日)】
明日から仕事が始まると思うと、憂鬱で溜め息が止まらなかった。
現実から逃れるようにベッドで転がっていると、なぜか火乃香も俺の隣にゴロンと寄り添ってきた。
「仕事が始まるから義妹成分を補ってあげる」などと意味の分からないことを宣っていたが、火乃香の温もりを感じると憂鬱な気持ちが溶けていった。
火乃香が言うには、
たしかに火乃香と一緒に寝るようになってからは
仕事は面倒だし悩み事も多い。
けど、俺を支えてくれる火乃香の為にも前向きに頑張らないとな。
決意を新たに、俺は気合いを入れ直した。
そんな俺の前にまた新たな問題が振りかかろうとは……この時の俺はまだ予想だにしていなかった。
-------【TIPS:水城泉希の服薬指導メモ】-------
悠陽と飲みに行った日はちゃんと酔いつぶれないようセーブしたわ。というより、彼がどことなく上の空で話が弾まなかったのよね。せっかく色々と準備してきたのに……。
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