第74話 【風間くん視点】北風と太陽④
ここは美味しいお昼御飯を食べて挽回したい。
気合いを入れて歩き出したは良いけれど、生憎と高校生が気軽に行けるオシャレな店なんて僕は知らなかった。
ここは学生らしく、ファミレスかファストフード店にでも行こう。
携帯電話で周辺マップを確認しながら、僕は近くの店を探した。
だけど運の悪いことに、どの店も満席だった。
よくよく考えれば今は夏休み。
おまけに今日は日曜だ。
似た考えの学生が沢山居るのだろう。
もちろん待っていれば、そのうち空くだろう。
でもそれは何となくカッコ悪い気がして、1時間近く他の店を探し歩いた。
だけど、空いてるファミレスもファストフード店も見つからなかった。
僕の焦りはいよいよ頂点を迎えた。
その時だった。
『わたし、たい焼き食べたい』
携帯電話を睨みながら交差点で信号待ちをしていると、朝日向さんが唐突と高架下を指さした。
そこにあったのは、小さなたい焼き屋さん。
レストランが見つからず焦る僕を、気遣ってくれたのだろうか。
本当に優しい人だ。
だけど「夏のデートでたい焼き」というのは変な感じがしたので、僕はすぐ目の前にあるクレープを提案した。
朝日向さんは渋ることもなく頷いてくれた。
やっぱり、気を遣ってくれたのだろう。
連れ回したお詫びを兼ねて、クレープは御馳走しようと思った。
けど朝日向さんは『自分の分は自分で払う』と、
朝日向さんはカスタードクリームを、僕はサラダソーセージを注文した。
甘いものが好きなのか、朝日向さんは今日一番の笑顔を見せてくれた。
だいぶ遠回りになったけど、結果オーライかな。
正直言うと、クレープ一個くらいじゃ全然物足りなかった。
それでも朝日向さんが喜んでくれたから……心は満たされた。
僕は次に映画館へと向かった。
いま話題になっているアニメ映画が上映中なのはチェック済み。
でも朝日向さんは、首を横に振った。
『映画なら、こないだ兄貴と観たから』
ならばと今度はカラオケボックスに向かった。
けど、そこでも首を縦に振ってくれなかった。
『もしかして、カラオケは嫌いだった?』
『嫌いっていうか……行ったことない』
『そうなんだ』
『うん。あんま行きたいとも思わないし』
『どうして?』
『兄貴が嫌いだから。音痴が恥ずかしいって』
『あ……そう』
『うん。たまにお風呂場から鼻歌が聞こえてくるんだけど、やっぱヘタクソで』
お
悔しかった。
なのに嬉しくもあった。
朝日向さんの笑顔が見れて。
朝日向さんの元気で居てくれて。
叶うなら僕の力で彼女を笑顔にしたい。
僕がそのポジションになりたい。
朝日向さんの太陽になりたい。
そんな事を考えながら歩いていると、赤い鳥居が目についた。
確かこの先には、有名な神社があったはずだ。
恋愛成就や縁結びで有名な神社で、学生や観光客も訪れるパワースポット。
『ねえ、朝日向さん。良ければそこの神社に行ってみない?』
『え、なんで神社』
『縁結びとかで有名な所らしくて』
『ふぅん……じゃあ、行ってみようかな』
『本当?』
『うん。ちょっと興味あるし』
鳥居を見つめたまま、朝日向さんは何の気ない風に答えてくれた。
観光スポットとはいえ、デートで神社は無いかと心配だった。
落ち込む僕を
真意は分からない。
何はともあれ、このチャンスを逃す手は無い。
僕は急ぎ足で本殿へ向かった。
『神様にお願いするときって、お賽銭投げる前に鈴鳴らすのが良いのかな』
『そうらしいね。鈴を鳴らして気持ちを整えてからお賽銭を入れるんだって』
『へぇ~。物知りだね、風間くん』
屈託ない朝日向さんの笑顔に、僕は気持ちが浮ついてしまった。
自分で言っておきながら、気持ちを整えられないままお賽銭を投げた。
『朝日向さんは何をお願いしたの?』
『うーんとね……内緒!』
口元に指を宛がい、朝日向さんは悪戯っぽく笑顔を浮かべた。
なんという可愛いさだろう。
まるで天使の皮を被った小悪魔だ。
無意識にドキドキと胸が高鳴る。
朝日向さんと毎日一緒に居られるお義兄さんが、心底羨ましい。
『そういえば、社務所に
『あ、じゃあ引いてみようか』
鳥居近くの社務所に向かうと、普通の御神籤と並んで【
二百円を納めて、『せーの』で二人同時に御籤を開いた。
率直に言うと、僕は少しだけ気落ちした。
反して朝日向さんは嬉々と目を輝かせている。
その視線の先にあるのは、その想いの向こうに居るのは、きっと……。
『……ねぇ、朝日向さん』
『なに?』
『ひとつ、お願いがあるんだけど』
『オネガイ?』
『うん。あの時の消しゴム、借りてても良いかな』
『良いけど、どうして?』
『朝日向さんがまた戻ってきたときに、直接学校で返したいから』
『学校って……』
朝日向さんは驚いた様子で言い淀んだ。
閉ざした言葉の意図は理解できた。
きっと朝日向さんも、僕の真意を理解してくれたと思う。
『……ありがとう、
『それじゃあ――』
『でもゴメン。約束は……できないかな』
言いながら、朝日向さんは笑顔で返してくれた。
でも気持ちは
むしろ朝日向さんの声と表情は、熱くなる僕の頭を冷やしてくれた。
『今はまだ……おバカでだらしない兄貴の面倒みなきゃだから』
申し訳なさそうに眉尻下げて、朝日向さんは優しくはにかんだ。
その笑顔が可愛くて、眩しくて。
僕はそれ以上……何も言えなくなった。
同時に理解した。
彼女の太陽は、僕ではないのだと。
僕が成るべきではないのだと。
朝日向さんは、この
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