第61話 【7月下旬】火乃香と泉希とビアガーデン③
「――こんなもんで良いかな」
両手に
ドリンク類は
焼きそば、たこ焼き、唐揚げ、フライドポテト、イカの姿焼きなどなど。祭っぽくて酒のアテになるような品目を揃えた。
決して安くはなかったし、栄養バランスもあったものじゃない。けれど『今日は祭りだから』と自分に言い聞かせ、湧き上がる罪悪感を誤魔化した。
そうして火乃香と二人テーブルに戻ると、すでに泉希が着席して待っていた。
「悪い。お待たせ泉――」
だけどその瞬間、俺は唖然と言葉を失ってしまう。
なにせテーブルには、大量のビールとジュースが並んでいたのだから。
「……つい美味しそうで」
何を言った訳でもないのに、泉希は顔を真っ赤に染め上げ苦笑いを浮かべた。
どうやら色んな味と種類のビールが置いてあったらしく、それらを片端から買ってきたらしい。
酒が弱い癖に何故そんな無謀な挑戦をするのか。
とはいえ今更返品も出来ない。買ってきた屋台飯を広げ並べて、俺は泉希の対面に腰を下ろした。
火乃香もすぐさま俺の右隣りに座って、肩が触れ合う距離で二人並ぶ。
「さてさて。俺はどれを貰ったらいい?」
「どれでも好きなの取って良いわよ」
「そうか。じゃあコレを」
言いながら目の前にあったカップを適当に取った。どんなフレーバーのビールか分からないけど、確かに美味そうだ。
「火乃香ちゃんも、どれでも好きなのを飲んでね。こっちがオレンジジュースで、こっちはリンゴジュース。こっちはコーラね。あ、もしかして炭酸は苦手だった?」
「あ……いえ。苦手では……ないです」
「それなら良かった!」
微笑む泉希に「どれにする?」と促されて、火乃香は恐る恐るとオレンジジュースに手を伸ばした。
「……いただきます」
消え入りそうな返事だったが、泉希は
少しずつだけど、火乃香も心を開いてきたみたいで良かった。それもこれも、泉希が気を回してくれているお陰だな。
「よーしそれじゃあ、この3人の出会いを祝して、カンパーイ」
「乾杯!」
「か、カンパイ……」
カップを打ち合わせる俺と泉希を真似して、火乃香も恐る恐るとジュースを掲げる。
流し込むようビールを煽れば、キレの良い喉越しに思わず「か~っ!」と雄叫びを上げてしまった。
ジャンキーで濃厚な屋台飯が、これまたビールに合うから困りものだ。
「どうだ火乃香。美味いか?」
「うん。このタコ焼き、結構イケる」
「本当か。俺にもくれ」
「ん」
何気なく答えると、火乃香はたこ焼きを箸に取って俺に差し向けた。食べさせてくれるつもりだろう。
「……やめろよ、恥ずかしい」
だけど俺はそれを受け入れず、楊枝を取って
泉希が居る手前、普段みたくベタベタと触れ合う姿を見せたくなかった。
そんな俺の思いを理解してくれたのか、火乃香はスンと顔を伏せて腕を引いた。
行き場を失くした火乃香のタコ焼きは、そのまま彼女の口の中へと消えて。
「そういえば、
ビール片手に唐揚げを食べながら、泉希が火乃香に問いかけた。まだ一杯目だというのに、もうはや顔が赤らんでいる。
「得意な料理とかはあるの?」
「……そういうのは、別に無い……です」
だがやはり火乃香は目線も合わせず答えて、チビリとオレンジジュースを舐めた。
得意料理ならいくらでもあるだろうに。泉希が気遣ってくれているのは、火乃香にも伝わっていると思うのだが。
「あ、でも……」
そんな俺も思いを受け取ったか、火乃香は思い出したようにポツリと漏らした。
それを取り
「でも、兄貴の作るお好み焼きは美味しいです」
「……へ?」
俺は思わず声が裏返した。
自分の得意料理を聞かれて、なぜ俺の得意料理を答えたのか。
だが呆気に取られる俺を
「ふーん、お好み焼きなんて作れるんだぁ~」
「なんだよ」
「別っつにぃ~」
どこか小馬鹿にしたような口調で、泉希は浮かんだ笑みも隠さず美味そうにビールを煽る。早くも一杯目が空けられて、すかさず次に手が伸びる。
「ねぇ火乃香ちゃん。
「あ……はい」
前のめりに尋ねる泉希に反して、火乃香は少しだけ気後れ気味に手元のジュースへ視線を落とす。
「兄貴は……優しい
そうして意を決したよう、
探り探りとはいえ、二人が仲を深めてくれるのは素直に嬉しい。
だけど何故だろう。
火乃香の声が、遠く感じられたのは……。
-------【TIPS:水城泉希の服薬指導メモ】-------
今回訪れたお祭りでは、飲食の屋台だけじゃなくて射的やヨーヨー釣りなんかも出ているの。お酒の好きな大人は勿論、小さな子供も楽しめる仕様よ!
ちなみにノンアルコールビールも置いてあったけれど、今回のイベントでは未成年者の飲用は禁止してるみたい。遠目から見るとお酒を飲んでいると間違われてトラブルの元になるから、らしいわ!
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