第40話 【6月下旬】火乃香と泉希と映画のチケット⑤
「――これ、
ジトリと横目で振り返る
姿を現したのは四角柱型のプレゼント。高さ30㎝ほどの大きさで、ネイビーブルーの包装に赤いリボンでラッピングされている。
余程意外だったのか、泉希はポカンと口を開けて呆けた様相を呈している。そんな彼女に押し付けるみたく、俺は無理矢理プレゼントを受け取らせた。
「こ、これって……」
「こないだの誕生日プレゼントの御礼。本当は帰り際に渡すつもりだったんだけど、なんかタイミング
眉尻下げてあっけらかんと笑ってみせるも、泉希は驚きの様相を崩すことなく俺とプレゼントを交互に見つめている。
「い、いいの?」
「もちろん」
「あ……ありがとう」
興奮冷めやらぬ様子で、泉希はキュッと優しくプレゼントを胸に抱き締めた。まるでそこにある想いを受け止めるかのように。
「開けても、いい?」
「ああ。でも、そこのベンチに座ってからな」
「あ……そ、そうねっ」
耳まで顔を赤く染め上げ、泉希はいそいそと通路脇のベンチに腰を降ろした。普段の泉希なら、こんなミスはしないだろうに。
膝の上にプレゼントを置き、小刻みに震える指で丁寧に包装を解いていく。
ラッピングのドレスを脱いで現れたのは、高級感を漂わせる漆黒の紙箱。
恐る恐ると蓋を開けば、金色に輝くスパークリングワインが姿を現した。ラベルに描かれている
「これ……もしかして〈シードル〉?」
「やっぱり知ってたか。そう、林檎のお酒」
「ど、どうして……」
「だって、前にコイツが好きだって言ってただろ」
「覚えててくれたの?」
「もちろん」
「あ……ありがとう! 嬉しい!」
屈託ない笑みで、泉希はまたワインの瓶を胸の中に抱き寄せた。
「でも本当に貰っていいの? なんだか
「良いに決まってるだろ。誕生日の時もお前の誘いを断っちまったし、そのお詫びも兼ねてな」
「そんなの気にしなくても良いのに。それにこのお酒を買うお金があったら、その分を
「それはそれ、これはこれ。お前への御返しは最初から
少し照れ臭くて
「……ねえ、悠陽」
「なんだ」
「今日、このあと予定ある?」
頬を赤らめ恐る恐ると、上目遣いに泉希は尋ねた。庇護欲を掻き立てられるその姿に、俺の胸はドキリと高鳴る。
「いや……今日は無いよ」
「じゃあ、これから私の家で……このお酒、一緒に飲まない?」
「み、泉希ん
「う、うん。それならお店で飲むよりお金も掛からないし……ダメ?」
不安気に眉根を下ろし縮こまる姿があまりに可愛いくて、一瞬意識が飛びかけた。
前回の誘いを断ってしまったし、実を言えば俺もこの酒を飲んでみたかった。
まだ昼過ぎだし時間も充分にある。断る理由など今日はひとつも無い。
「じゃあ、お邪魔していいか?」
「……うん!」
満面の笑みで頷いて応えると、泉希はいそいそと酒を箱に戻し、ラッピングの包装紙とリボンを綺麗に畳んで鞄の中へ仕舞った。
「ところでツマミはどうする?」
「大丈夫よ、ウチに色々買い置きしてるから。成〇石井で買った燻製ナッツとか」
「なっ……そんな高級品を!?」
成城〇井なんて敷居が高すぎて入ったこともない。これは一段と楽しみが増した。
「でも、まずは火乃香ちゃんのスニーカーを買わないとね」
「それな」
ビシッと冗談ぽく両手で指差せば、「なにそれ」と泉希は小さく苦笑しだ。
楽しそうな姿に釣られて俺も吹き出してしまう。
気付けば俺達は人目も
やっぱり好きな
-------【TIPS:水城泉希の服薬指導メモ】-------
私が林檎のお酒を好きだと言ったのは、悠陽の誕生日に二人でイタリアンレストランへ行った時のことよ。その時から私への御返しを考えてくれていたみたい。普段鈍感な癖に、そういう所だけソツが無いんだから……困りものよね♪
ちなみにお酒のプレゼントには「あなたと一緒に飲みたい、あなたともっと仲良くなりたい」という意味があるらしいわ。まあ、悠陽がそんな意味を考えてプレゼントするとは思えないけど……なお成城〇井はワインレッドの看板が特徴的な高級スーパーのことよ!
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