第15話 【5月上旬】朝日向火乃香と彼女さん
「――なにしてるの」
大型商業施設【シオンモール】のペットショップから
ただの従業員ならば何の問題もないが、泉希は俺が密かに想いを寄せている相手。火乃香と2人で居るところを見られるのは何となく気まずい。
もちろん火乃香は可愛い俺の
だけど泉希は、俺が火乃香と二人で暮らしていることをあまりよく思っていないらしい。
なにせ火乃香は未成年の女子高生。それも飛び切りの美人。何かの弾みで俺が間違いを犯してしまわないかと懸念しているのだ。
とはいえ泉希も火乃香の身上を知っている手前、面と向かって言うのも
そんな感情が入り混じった結果か、泉希は怒りとも悲観とも付かない能面のような顔で俺達を凝視しているのだ。
瞬きすら見せない不気味な様相に、俺の背筋は震え上がっている。
「お……お前こそ、こんな所でなにしてるんだよ」
「私がここで買い物してたら悪いの」
恐怖を押し殺し必死に言葉を捻り出すも、淡々と口を動かす泉希に、俺は敢えなく尻込みしてしまう。
よく見れば泉希の手にはアパレルの袋が握られている。恐らく服か小物でも買いに来たのだろう。
「そんなことより、なにそれ」
袋を
「もしかして、手を繋いでるの?」
熱の無い視線で問われ、火乃香はすぐさま俺の腕を離して背中に隠れた。そんな彼女を逃すまいと、泉希は三白眼で追いかける。
「こんにちは。はじめまして、じゃないわよね。
「……どうも」
訝しむ火乃香に反して、泉希はにこりと口端に笑みを浮かべた。
だけど目は笑っていない。熱を感じさせないその表情は、まるで張り付けた絵を見ているかのよう。
おかげで火乃香は出てくるどころか一層と俺の影に身を隠した。無理もない。2年以上一緒に居る俺でさえ、こんな泉希は見た事が無い。
「……ねぇ」
冷たい汗を浮かべる俺の背後から、囁くような声が聞こえた。チラリと横目で振り返れば、火乃香が俺の脇から泉希を覗き見ている。
「どうした、火乃香」
「あの
打って変わってハッキリとした口調。今の泉希の何をどう見てその考えに至ったのか、火乃香は眉根を寄せて俺を見上げた。
俺の背中に、また冷たい汗が浮かんだ。
そんな台詞を口にして、泉希は一層と怒りを加速させるのではないか。恐る恐ると俺は泉希に視線を戻した。
「や……やっぱり、そう見えちゃう?」
だが俺の心配とは裏腹に、泉希は頬を赤らめ照れ臭そうに笑った。先ほどまでの能面顔が嘘みたく、表情に熱が宿っている。
泉希の起伏にたじろぎながらも、火乃香はコクリと頷いて応えた。
「な……なかなか見所のある子じゃない。
言いながら泉希の口角はみるみると上がって、頬は一段と紅潮する。だがそれを悟られたくないのか、泉希は腕組みして薄い胸を張った。
「ふ、二人はもうお昼は食べたのかしら! 私はまだなんだけど、良ければ一緒に食事でもどう? 今日は私が奢ってあげる!」
「ふんす」と鼻息を荒く、泉希は控え目な胸をドンと叩いた。取り敢えず泉希の機嫌と表情が
「嬉しい誘いだけど、俺達さっき食ってきたばかりで今腹一杯なんだよ。悪いな」
「あらそう。じゃあカフェならどう。お茶くらいなら大丈夫でしょ?」
「そうだな……どうする火乃香」
半身を捻り尋ねれば、火乃香は何も言わず体を離して3歩下がった。
「火乃香?」
「わたしはいい。アンタ一人で行きなよ」
バイキングで料理を選んでいた時や、犬を見ていた時の笑顔はすっかり消え失せて、苛立ちと悲壮の混じった目をしている。
その姿に、俺の脳裏には出会った時の火乃香が思い出された。
「わたし居ると邪魔っぽいし。先に一人で帰ってるから」
俺と泉希を交互に
「火乃――」
呼び止める間もなく立ち去る火乃香の後ろ姿に、俺はただ
-------【TIPS:水城泉希の服薬指導メモ】-------
私のマンションは薬局より西側にあって、悠陽たちのアパートとは反対方向なの。だから普段はこの【シオンモール】じゃなくて近場のデパートモールを利用しているわ。この日はこっちにしか無いお店に来たくて、足を伸ばしたの!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます