第5話
「犬の歌、つくってみたら完成したよ」
本当にできちゃったんですか?!
センパイが業務開始と同時にしれっと報告してくるものだから、声には出さなかったがかなり驚いた。目を丸くしただろう僕を見て、彼は頷く。「意外となんとかなったよ……いらっしゃいませ! じゃ、詳しくはあとで」
新しく入ってきたお客さんを見て、センパイは話を一旦やめた。僕は急に、先日の犬泥棒騒ぎのことを回想する。
と言っても、パトカーが到着したあとは、緊張しすぎて何を尋ねられたかなにも記憶していない。そういえば生まれて初めて警察官と会話してるかも、などとどうでもいいことを考えていたのは覚えている。
通報者の僕を差し置き、任意同行という形でおばあちゃんがパトカーに乗せられるのは見た。
ひとつ、どういう流れで聞き取ったかわからないが、怖いような話を聞いてしまった。
「クロは私の犬だぁよ。クロがいなけりゃ寝ず番してくれる子がうちにはもういねえのよ」 おばあちゃんがぼそぼそ喋って、年配の警察官がなだめていた。「おばあちゃん、よしましょう。もう何年も前に終わったことです。心配のいらないことになったんですから」
会話はたったそれだけだが、妙にゾッとした。なにか番犬でもいなければ避けられないような、有名な恐ろしい事件がこの地域にあったのか。いつぞやのもう辞めた方の先輩の話がまた脳裏に、浮かぶ前に忘れるように努めた。
たしかなことだけ考えよう、僕の働いているコンビニ出入り口の迷い犬ポスターは、上から大きく『見つかりました!』の張り紙で上書きされたということだ。センパイが店長にかけあったので、まだしばらくはこの状態で貼り出される予定だ。迷い犬のその後を案じた人はみな、ほっとしてくれるだろう。
「先輩はよく犬が
先日、
「先輩は犬のことよく見てますね。じゃあ、このあたりに飼い犬が多いことについて何か思うことあります?」
よせばいいのに、忘れようとしているくせに、業務の合間につい問いかけてしまった。こちらを向いたセンパイは、真顔だった。
「通勤路に犬がたくさんいるのは、嬉しい」
まあこのセンパイはそうだろうな、という説得力を感じたし、それ以上尋ねるのはやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます