第22話 同類
首長室の出入り口に視線を向ければ、そこには筋肉だるまがいた。しかもスキンヘッドの。
「あらん?何だか心底しんどそうな顔ねん。何かあったの?相談のるわよん」
なのに口調はオネエだ。ついでに動きも。おい、腰をクネクネさせるな。その外見でその動きは反則だろ。
さっきまでぐちゃぐちゃだった感情が、一気に沈静化していく。感情のジェットコースターだ。
「可愛い顔が台無しよん。ほら、笑って笑って。女は愛嬌。どんなに可愛くない女でも、笑えばある程度はモテるわよん。逆に不愛想だと美人でもモテないんだから。これ、経験談よん」
説得力が全然ねえよ。むしろお前、男だろ。・・・・・・男、だよな?もしかしてガチムチの女の可能性もある?
「・・・失礼、あなたは男性?それとも女性?」
「どちらも正解ねん」
「はっ?」
何ほざいてんだ、こいつ。
「わたくしの肉体は男。でも心は乙女。つまりはどちらも正しいのん」
オ~ケ~?と念押ししてくる筋肉だるまに心の底からイラッとした。こいつ、何者だ?存在自体がふざけているが、ここは魔物に守られた庁舎の中だぞ。ただの変人がふらっと来れるほど、ぬるい場所ではない。死がすぐ隣に同居する死地だぞ。なのに平然とここにいやがる。
「あらん?ピリピリした表情もス・テ・キ。いい。すごくいい。好みよん」
ふざけた口調とセリフも、こちらの冷静さを奪う為の戦略か?
アイテムボックスから予備の剣闘士の剣を取り出し、油断なく構える。
「あらん?物騒な物を取り出したわねん。わたくしに争う気はないわよん」
「なら、何しにここに来た?まさか観光ではないよな?」
「似たようなものかしらん」
「なに?」
「魔王クロウリー様が復活を宣言したから、真っ先に見参したのよん」
クロウリーを様付け?・・・こいつ、円卓の一員か?いや、それにしても情報を手に入れるのが早すぎないか?オレが魔王の名を騙ったのはつい数時間前だぞ!?
元々、近場にいた?・・・・・・該当する円卓など一人しか思い浮かばない。
「まさか・・・円卓の死霊術師か?」
「あらあらん?驚いたわ、まさか一発で言い当てられるなんて。貴女と面識あったかしらん?初対面よねん?」
うわ、マジでこいつが死霊術師かよ。この目の前の筋肉だるまこそ、黒騎士が敵視していた張本人か。
「・・・全然クロウリー様と似てないし、本人じゃないわよねん」
「・・・ああ、違う」
「つまり、クロウリー様の名を騙ったと」
一瞬で死霊術師の雰囲気が一変した。どこか陽気さを感じさせた雰囲気が、怜悧なものへと変質した感じだ。
「・・・ふふ、そう身構えなくてもいいわよん。あなたとやる気はないし。それに水龍を殺したあなたに勝てる気なんてしないしねん」
死霊術師がニコッと笑う。それだけで先ほどの怜悧な空気が霧散した。
「どうやってあの神様気取りの蛇を殺したのん?正直、今のあなたにそんな実力があるようには見えないんだけど。あ、気を悪くさせたらごめんなさいねん。思ったことをついつい口走っちゃう悪癖なのよん。これのせいで他の円卓メンバーからも嫌われてるのよねん」
や~ね~と自嘲する筋肉だるま。しかし、その分析は正確だ。オレの実力を見抜いている。同時に、そんなオレが水龍殺しを何らかの手段で成し遂げたことも。探っている。今この瞬間も。オレの底を。
そして勝てると判断したら迷わず殺す気だ。気のいい変人に見えても、それは偽装あるいは擬態だ。こいつは魔王クロウリー直属配下。円卓の一員。油断など出来るわけがないし、してはいけない。
「試してみるか?」
いつでも神器級の武器を取り出せるように準備する。これ以上の消耗は避けたいが、仕方ない。必要経費だ。
臨戦態勢をとるオレを尻目に、死霊術師は両手を高く掲げている。ほぼ垂直に。
「戦う気なんてないわよん。わたくしたち、同志じゃない」
「同志?」
そんなもの、なった記憶がないぞ。勝手に捏造してないか、この筋肉だるま。
「そう、同志。わたくしの体は男。けど心は女。あなたはその逆みたいだけどねん」
「なっ!??」
こいつ、オレの中身を看破した!!?
「その反応、当たりみたいねん。多分そうじゃないかとは思ってたのよん。今ので確信に変わったわ」
この筋肉だるま、本当にNPCか!?銀狼は元々知ってはいたから例外として、それ以外で見破られたのはこいつが初めてだ。いかん、無茶苦茶動揺している。落ち着け、オレ!
「お前、どうやって・・・」
「同類は同類を嗅ぎ分けられるのよん」
「いや、意味がわからん」
マジでわからん。そもそもお前と同類じゃねえし。こいつの発言一つ一つに理解が追いつかない。ペースが乱されっぱなしだ。明らかに場の空気がこの筋肉だるまに吞み込まれている。
「ようはフィーリングよん、フィーリング。別名、乙女の直感ってやつねん」
・・・・・・ますます意味がわからん。こいつ、本当に同じ言語を使っている生物か?まるで未知の生物。別世界の生き物だ。・・・ある意味、正しいか。その認識は。
「ふふ、同類同士仲良くしましょうよん。きっとわたくしたちソウルメイトなのよん」
「なんだよ、そのソウルメイトって」
筋肉だるまのペースに乗せられる一方だな。自覚はある。だが抗えない。オレの口調も素に戻っているし。
「ソウルメイトってねん、前世からのふか~い縁がある魂の同志よん。もしかしたら前世ではわたくしたち家族だったのかも。いや、伴侶だった可能性も無きにしも非ず」
「ねえよ」
一言で切り捨てる。そんな前世ねえわ。しかし、この程度で怯む筋肉だるまではない。
「覚えてないだけよん!さあ、心の奥底に封じられた記憶の扉を開け放って!きっとその奥には前世でわたくしとあんな事や、こんな事をした事実が・・・」
「ねえよ」
改めて断言する。力強く。どこを探してもそんな事実ねえよ。存在すらしてねえわ。・・・もうやだ。こいつ怖い。
「・・・可哀そうに。今は思い出せないだけよん。いずれきっと古の記憶が蘇るわ。それまでわたくしが傍にいてあげるからねん!」
「はっ??」
これで何度目だろうか。筋肉だるまの発言内容が理解できなくなったのは。それなのに、筋肉だるま本人は気にも留めずに戯言をほざき続けている。
「片時も傍を離れずにいてあげるからねん!わたくしたち、前世では伴侶だったけど、現世ではズッ友よん!!」
・・・突っ込みどころ満載だ。前世で伴侶は決定事項かよとか。なんでギャル用語を使ってんだよとか。言葉のチョイス古いしとか。・・・駄目だ。頭が痛くなってきた。
もはや言い返す気力さえ喪失したオレは、なし崩し的に死霊術師と行動を共にすることになった。なってしまった。だが、最低限の条件としてオレは従属の首輪より更に上位の強制力を持つ隷属の首輪をはめることを要求した。そうしないと命の危機を感じたからだ。当然、受け入れるわけないと思っていたのに・・・この筋肉だるま、信じられないことに嬉々として受け入れやがった。そこは普通に断れよ。仮にも限界突破者だろ、お前。
どんな行動原理してんだ、こいつ。クロウリーもよくこんな部下を使いこなせたな。NPCなのに尊敬するわ。だが、こいつと行動を共にするということは、無条件で黒騎士とは敵対関係になるということだ。オレを巻き込むなよ、円卓同士の抗争に。・・・いや、魔王の名を騙ったオレにも責任の一端はあるか。
問題は他にもある。筋肉だるまこと死霊術師は他の円卓メンバーからも嫌われている・・・らしい。まあ、気持ちはわかる。痛いほどに。おちゃらけていそうで、地味にプライドの高さが見え隠れしてるし。色々とめんどくさそうな性格だ。・・・認めたくはない。認めたくはないんだが、少しオレと似てる。性根の部分で。誠に遺憾だが。さて、そんな筋肉だるまは敵が多そうだし、アークワンドを滅ぼすのは中止して要塞化するか。もしくは・・・アレを再起動する手もある。使う気はなかったんだが、この際だ。使える物はとことん使っていこう。
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