第2話 管理AI

 オレが創造した世界グランザードはファンタジー世界だ。

 住人は人間だけでなく、エルフ、ドワーフ、巨人、獣人、吸血鬼、それらのハーフ等々。他にも数えたらキリがないが、それらをごちゃ混ぜにした何でもありの世界。

オレはそこを旅する唯一のプレイヤーだ。

 創造神でもあるが、純粋にこの世界を楽しんでいる一人の住人でもある。大まかな世界設定やら勢力などはオレが決めたが、細かいことは管理AIに丸投げしている。全てを自分一人で管理しようとすると学生の身では時間が足りなさすぎる。

 だからこそと言うべきか。この世界は創造主たるオレを度々、驚かせる。何気なく旅をしているだけで、突発的なイベントに巻き込まれたり、その設定がそこに繋がるのか!?えっ、こんなダークファンタジー要素あったけ?という予測不可能な事態に多々直面したり。

 何か物足りないと思えばその都度、設定を追加したり、自分のステータスを制限したりでバランス調整も出来る。意外に適当なノリで作ったストーリーが化けたり、思いのほか苦戦したバトルがあったりなど、飽きさせない。そのおかげでオレはこの世界で退屈だと感じたことはない。

 そして今日もオレはこの世界を楽しむ為に思いを巡らす。そろそろ戦争イベントでも起こすか。規模はどうしようか。国家間?大陸?新しい種族、魔物でも創ろうか。文明レベルを少しばかり上げて、NPCの生活の変化を楽しむか。そんな取り留めのないことを色々考える。

 結局、その日は新しい魔物を創造し、オレだけの世界グランザードにその存在を定着させていく。旅をしながらでも創造神だけが使用可能な権能さえあれば、片手間で世界は広がり、この瞬間にもオレの知らない変化が起きている。

 面倒くさいことは大体AI任せ。かと言ってあまりにも無茶苦茶な設定を盛り込みすぎると、世界観が根底から崩壊するのでその場合はAIが忠告、もしくは拒否してくる。それが一つの目安、踏み越えてはいけないラインというやつだ。

 まあ、大部分は許容してくれる。整合さえできれば、ある程度の矛盾はAIの判断で取り除かれる。さすがのAIも自身の処理能力を上回るデータ改変は出来ないのだろう。



 『マスター、新たな魔物の定着完了です。種族名はどうしましょうか?』



 「あいよ、ご苦労さん。名称はそちらで決めておいてくれ」



 オレの良き相談相手であり、この世界を実質的に管理・運営してくれるもう一柱の神、管理AIの報告を労う。

 この管理AIはたまに小言を言うが、それは全てこの世界をより楽しんでもらう為だ。管理AIはそれに全力を注いでくれる。邪険に扱う理由は一片もない。

 だから極力オレはこの管理AIの進言は聞き入れている。こいつに任せておけば大丈夫という安心感もあるし。今も丸投げした魔物の名称も突飛なものにはならないはずだ。



 『承知しました、名称はこちらで決めておきます。それと昨日の追加データのことですが・・・』



 「報告ストップ」



 『いかがしましたか?』



 報告を途中で遮られた管理AIが聞き返してくる。



 「いつも言ってるだろ、どんな些細な報告もオレの前に姿を現せと。声だけの報告は禁止」



 『・・・・・・しかし、マスター。そうすると報告に支障が』



 管理AIはどこか躊躇うような様子だが、オレはあえてそれを無視する。



 「しかしも案山子もない。はいはい、早く姿を見せなさい。じゃないとマスター権限で強制的に出現させるぞ」



 『・・・・・・承知しました』



 管理AIの不承不承といった気配を感じながら、その出現を今か今かと待ちわびる。何だかAI相手に呆れられた気がしないでもないが、そんなの二の次だ。

 そして何もない空間から、ソレは少しのノイズ音と同時に姿を現した。

 ソレは子犬だった。誰がどう見ても。

 正確には狼なんだが。

 銀狼。名前の通り、毛並みが銀色の狼。ちなみに雄々しい巨狼の姿にもなれるが今の姿が基本設定である。

 オレの目の前に鎮座する管理AI、銀狼。その金色のつぶらな瞳がオレを見上げている。もはや我慢などできなかった。銀狼を高々と抱き上げる。



 「おお~!やっぱりいつ見ても可愛いな、おい!!あー、モフモフだ。スーハースーハー」



 ひたすらに、無心に可愛がる。現実世界でもこんな可愛い狼はいないだろう。うちの子が世界一!その可愛さのあまり銀狼のお腹に顔をうずめて呼吸する。本来なら獣臭いはずなんだが、なんか干したての布団のいい匂いがする。いったい、仮想世界でどうやってここまで再現しているんだろうか?ちなみにその間、銀狼は死んだ魚のような目で遠くを見つめていた。



 『・・・だから嫌だったんですよ、出てくるの。マスターは必ずこうなるから』



 辟易としている銀狼の呟きなど無視して、モフモフを堪能する。この手触り、最高だ!頭をなで、顎をくすぐり、熱烈ハグ。クンカクンカ。うん、飽きないなこの感触。



 「愛してるぞ~」



 『重すぎる愛です、返却希望です』



 無意識に漏れたオレの告白は、あっさりと振られた。まあ、気にしてはいない。

こいつはツンデレ設定だからな。



 『マスター、自重してください。貴方は中身が男性でもこの世界での肉体は女性なんですよ。・・・ほら、たった今すれ違った商人がドン引きしてましたよ』



 「NPCなど放っておけ。今のオレはこの神秘と言っても過言ではないモフモフの秘密に夢中なんだ」



 『駄目だ、このマスター』



 そう、何を隠そうオレはこの世界では性別を女に設定している。・・・別に女体に興味があるからとかではない。決して。・・・・・・いや、少しはあるけれども。

 ちなみに仮想世界においてもR18指定はある。未成年ではアバターの裸体も禁止されているし。下着姿でも中々エロすぎると思うが。

 ちなみに何故、男は女性アバターを創るのかという命題の答えは個人的見解だがあるにはある。

 それはズバリ、自分好みの女で冒険したいからだ!!

 日常では決して叶えられない願望も、仮想世界なら叶うから。

 女という生き物に幻想など抱きはしない。そんなものはとっくにリアルの姉によって砕け散っている。

 だからアバターの性別を女性にしたのは純粋に自分好みのキャラクターを創る為だ。

 こんな女、現実世界に存在しねえよ。・・・そんなあり得ない外見も仮想世界なら可能だ。まじで何でもアリだな。性格まではどうにもならないが。

 銀狼を抱っこしながらステータス画面を開き、自分の理想の容姿(女)を確認する。

 我ながらいい出来だと自画自賛しているので、ちょくちょくこうして見ている。おかしいな、オレってこんなにナルシストだったか?自己肯定感が高いのは良いこととプラスに捉えるべきか。

 オレのアバターの髪型はウルフカットで色は薄い茶色。顔のパーツはクールカジュアルな感じ。スタイルは太すぎず細すぎず、念入りにミリ単位で調整。健康的かつ色気を備える程度のスリーサイズにして、身長・体重もバランスよく設定した。・・・うん、もはやエルフと比べても遜色ない容姿だな。

 ちなみに種族はオレ専用の《神人》である。特徴としてはレベルは上がりにくいが、ステータスの上昇率が高い特性がある。外見だけ見れば人間と変わりないので、あまり目立たない。・・・いや、容姿は少々、人外レベルだが。

 そんな感じで時間を忘れ、仮想世界を楽しんでいたのだが、無粋なアラーム音が楽園の終わりを知らせる。



 『マスター、夕食の時間です』



 仮想世界は、リアルの肉体があってこそ楽しめるもの。

 一食くらいなら食べなくても平気だが、あまりにも時間を忘れて仮想世界にいすぎると危険だ。過去には飲まず食わず眠らずで死んだ事件もある。・・・何事も程々にというやつだ。



 「はあ・・・時が過ぎるのが早すぎる。もっとモフモフを堪能したいが、リアルの肉体を疎かにすると仮想世界に接続禁止されそうだし」



 実際、過去に制限されかけた。時間通りにリアルへ帰らないとあの傍若無人な姉が強制終了してくるだろうしな。



 『マスター、夕食の後はどうされますか?もう一度こちらに?』



 「いや、今日はこれで終わりだな。そろそろテストも近いし勉強しないと。成績おちたら何言われるかわからん。・・・何だ、寂しいのか?」



 『いえ、まったく』



 即答かよ!?

 ツンデレのツン要素が強すぎるな。今度調整しておくか?



 『ではマスター、また明日』



 地面へと器用に降り立った銀狼がその小さな体で器用にペコリとお辞儀した。



 「ぐはっ!!?」



 油断していた!

 最後の最後に特大のデレだと!?

 こいつ、わかってやがる!!

 このオレが管理AIに手玉にとられた!くそ、悶え死ぬかもしれん。息も絶え絶えなオレの心情を察したのか、銀狼は現れた時と同様のノイズ音を残してその姿を消した。

 くっ、こっちは未練タラタラなのにあっさり帰りやがって。飴と鞭の使い分けが絶妙だぜ。学習能力高すぎるだろ、おい。明日は今日以上にモフモフしてやるからな!

 そんな銀狼には傍迷惑な決意を誓い、オレは自分専用の仮想世界を後にした。


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