仮想世界の元創造神

赤っ鼻

第1話 プロローグ

 人は世界を創造できるのか?


 答えは・・・出来る。


 各々の世界を創ることは現在、20XX年には可能になった。


 別に現実の世界を弄繰り回す事が出来るわけではない。仮に出来たとしても金と時間がかかる。大量に。だが、仮想世界には必要ない。

 ある程度の世界の土台・・・設定を作成すればAIがその人好みの世界を創造する。実にお手軽。手間いらず。

 自身が想像し、AIが実現した世界に他人を招き入れ、一緒に楽しむ事も可能。楽しみ方は無限。それが昨今の仮想世界だ。・・・まあ、オレのように他人と接するのが煩わしいってタイプは黙々と自分の世界を創りこむわけだが。

 確かに見ず知らずの他人、それも複数人で集まり、一緒にゲームを

すれば楽しいことはいっぱいだ。だが、それは同時に競争を生む。

 競争は格差を視覚化し、序列を叩きつけてくる。すなわち、個人としての優劣。つまり何が言いたいかと言うと・・・オレは多人数プレイゲームが苦手という事。

 そんなわけでオレ個人は一人で楽しめるゲームが好きだ。オレの仮想世界もオレしか楽しめない要素満載だ。

 何が悲しくて家にいる時も他人に気を遣わなければならないのか。学校にいるだけでも疲れることを、なぜ家にまで持ち込む?

 オレにだって少ないながら友達はいる。確かにそいつらといる時は楽しい。それは否定しない。だが、四六時中は勘弁してくれ。

 家族でも互いに少なからず気を遣っているのに、それが赤の他人ともなれば輪をかけて労力が増す。友人といえど、互いの悪癖など見たくない。喧嘩しないように、発言にも気を付けている。あるいは多少の打算も。

 そんな諸々の柵(しがらみ)が嫌いなオレは、学校が終われば即帰宅。寄り道など一切しない。休日だって一人で過ごす事がほとんど。さすがに夏休みは友達と遊ぶがそれも稀(まれ)だ。両親や姉によく言われる言葉は「友達いないの?」である。ほっとけ、オレは一人で仮想世界にいる方が楽で、楽しいんだ。

 そして・・・今日もオレこと我妻陣介は仮想世界に没頭する。仮想世界は自由だ。こちら側こそ現実と断言する人間もいる。


 ガンアクションが好きなガンマニアなら鉄火場の世界を。


 ギャンブル好きなら古今東西、あらゆる賭け事を網羅した世界を。


 恋愛の疑似体験をしたいなら、恋愛要素満載の世界を。


 謎解きが好きならミステリーの世界を。人が死ぬ、死なない、密室事件、アリバイトリック、なんでもござれ。


 車、バイク、戦闘機、ヘリコプター。世界中のあらゆるマシンに乗れる世界。


 スポーツだって各ジャンルの一流アスリート並みのNPCと対決し、指導をうける事さえ可能だ。


 戦略好きなら戦争の絶えない世界を。


 冒険好きなら剣と魔法のファンタジー世界を。


 宇宙が好きなら様々な惑星を巡れる世界を。


 全て、仮想世界なら出来る。


 ちなみにオレはしないが、自分の創造した世界を不特定多数に開放する人もいる。時には楽しかっただの、ここら辺を工夫や調整したらどうだという多数の意見、感想などで自分の世界観を広げる為に。それを参考にするも、いやこれこそが自分の世界の持ち味なのだと主張するのも自由。自分自身の創造した世界の自慢、共有、承認欲求等々。理由もまたそれぞれ。

 無論、仮想世界に関する問題もある。荒らしや廃人、現実世界の金銭のやり取り、現実と仮想の区別が出来ないなど、悪影響を及ぼす一面もあるが・・・大半の人間は仮想世界を好意的に受け入れている。

 仮想世界に限界はない。この無限とも言える情報量の海は、百億を超える人間を受け入れてなお、底が垣間見えない。

 さあ、世界を広げよう。


 自分の好きに。


 望むがままに。


 創造神になれる世界へ。


 果てはまだ見えない。




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