幕間 ①

 何者かは闇の中にいた。


 あの日から、ずっとここにいる。

 上下左右もわからない黒い海の中、漂っていた白い何かに捕まって、ただ漂っている。

 何者かにとって、その暗闇は優しく、無音は心地いい。


(ここにいたい。もう、絶望だけの世界には、戻りたくない)


 しかし、時折闇の中を何かが蠢く。

 それは疼きとなって何者かに伝わる。


(ああ、痛い)


 穏やかな波なのだが、心地よい闇の中で、時折痛みが何者かを刺激する。

 その痛みは、何者かに過去を思い出させる。


(いやだ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!もう、あんな思いをするのは嫌だ!)


 巻き起こる感情は波紋になって伝わり、闇の世界を震わせた。

 しかし、何者かが抱いている白い何かが光を発すると、世界は凪ぎ、何者かの痛みも治まった。


 その代わり、白い何かは、少しだけ黒ずんでいく。

 その色を見て、何者かに不安がよぎる。


(これが周囲の闇と同じ色になってしまったら、わたしはどうなってしまうのだろう)


 先ほどよりも小さな波が、何者かの震えが、暗闇を静かに揺らしている。



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