第20話 幻惑の森 ③
セイラの頭は、徐々にクラクラしていき倒れようとしていた。
「あっ、危ない…」
青年は、咄嗟にセイラの身体を支えた。
「あ、ありがとう。」
「この森は、感覚が麻痺しますから引っ張られないようにしてくださいね?」
二人は、その旅人風の青年と共に森を歩く事になった。
試しに箒に跨り飛ぼうとするも、見えない磁力で引っ張られてるのか箒は宙に浮かない。
何度も試したが、意味を成さない。
「この森は、磁場が強いので箒は中々飛ばないんですよ。あなた方の魔力では、まず無理でしょう。肝心な私も、魔力を封印されてて記憶も無くしてるものですから、力にはなれそうにはないでしょう。」
青年は、邪気一つしない爽やかな笑顔を二人に向けた。苦笑混じりではあるが、全く嫌味は無い。
信用して良さそうだ。
「あなたが、ここに来たのは、それだけでは無いでしょう?」
青年の深みのあるエメラルド色の眼は、何かを見透かしたかのようにまじまじとセイラを見ている。
それは、まるで心を読まれているような奇妙なザワつく感覚だった。
「私の母は、この森で亡くなったの。悪魔と対峙して…それで、この手がかりを探りにここまで来ました。」
「なるほど…そういうことだったのですね。この辺りに人が一人入るのは、謎ですが、この場は悪魔召喚に使われるんですよ、ですが、危ない。この場は、その名の通り幻覚を見て、麻薬を吸ったようになり、依存のようになるんです。ここは、磁場が強いからなんでしょう。方位磁針は、ほら、クルクル回ってるでしょ?そして、精神が錯乱を起こし、正常な者も悪魔を召喚してしまうことも多い。」
彼のズボン方位磁針は、クルクル激しく回転していた。
彼は、良い人ではありそうだが何処と無く奇妙だ。
第一に、彼からは魔力が全く感じられない。
彼は魔族ではないが、人間でもない。さっき支えられた時の感触から、幽霊でもないらしいー。
武人かとも思ったが、彼の体型は、竹のようにしなやかで華奢な印象であり、怪力無双とは程遠いー。
見た感じや雰囲気から、悪い人でも無さそうだが、何処と無く奇妙である。
「この辺りは魔物がウヨウヨ跋扈して危険ですので、私が案内して差し上げましょう。今の所、奴らの気配はなさそうですね。一応、この瓶を渡しときます。30分置きに、中にある丸薬を飲んでください。幻覚や錯乱から守る作用があります。」
ゼファーは、背負っていたリュックの中から小瓶を二つ取り出すと、二人に手渡した。
リュックは、パンパンに膨らんでおりカラカラ奇妙な音を立てた。
「ありがとう。あなたの名前は、なんて言うの?」
「申し遅れました。私の名前は、ゼファー・ロードです。」
「貴族なの?」
「いえいえ、私はそんなに偉くはないですよ。」
ゼファーは、無邪気そうな笑みを浮かべながら遠慮がちに手を振る。
「貴方は、どうして、こんな森に…」
ブリギットも、つかさず尋ねてみた。どうやら、セイラと同じようなことを思っいるらしかった。
「私は、囚われの身でして…長らくここに幽閉されてるのですよ。」
「「囚われの身…?」」
「私は、もう、200年余りこの森に居ますから、地理には詳しいのですよ。何処にどの生物が生息してるのか植物があるのか、方角も熟知してますので…」
「嘘…!?200年も…?あなたは、何者なの?…」
「そう思うのも仕方あるまい。私は、ゾンビのようなものですよ。一度、処刑されてしまいましたからね…。」
「「え…」」
二人は、言葉を失った。
この青年は、飄々としながら想像を絶する異次元な事をいってくる。頭がこんがらがってくる。
歩いてから、1時間程経過した。ほぼ全く変わらない黄金色の景色に、二人の眼は段々チカチカしてきた。
時折吹いてくる隙間風と、遠くから響き渡る妖樹やセイレーン達の奇妙な唄い声が不気味に反響する。
30分置きに、青年からもらった幻覚から守る丸薬を飲み込む。
ゼファーは、表情態度微塵に表に表すことなく前を歩き続けている。丸薬も全く飲んでない。彼が200年以上この森に居るのに対し、信憑性を増してきた。
「ねぇ、ゼファー…この森は、どのくらいの広さがあるの?」
「距離にしますと、オリンピア100個程度でしょうか…」
オリンピアとは、人間界でいう陸上競技場のようなものだ…
その競技場で、空中ラグビーや競走や飛行しながらのアクロバット飛行などがもよおされるのだ。
あまりの天文学的広さに、二人は拍子抜けし開いた口が塞がらなかった。
ー無事に目的を果たして、学校に戻って来れるのかー?と、二人の不安は強まった。
「特に、この辺りはセイレーンが出没し、人の足を引っ張ると有名なんですよ。甘美な優しい歌声で人をそそのかし、溺れたか弱い少女の振りをし、人を沼へ引き寄せ溺死させてしまいます。」
「…そうなんだ。詳しいんだね。」
二人は、徐々に不安が強まっていった。
「大丈夫です。私には、僅かながら魔力と記憶は残ってますから。」
青年は、二人の心を読んだかのように邪気一つしない爽やかな笑みを二人に見せた。
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