第15話 ドキドキと波乱の飛行術 ③
その日の2次元目は、飛行術だった。
「では、本格的な実践と行きます。決して、単独で身勝手な行動は慎むように。良いですね?」
マーガレット先生は、セイラをギロリと睨みつけた。目の合ったセイラは、ドキッとした。
いつもの冒険心からちょくちょくよそ見をしてしまうのだが、先生はマークしていたようだ。
今回は、近々、他校との交流会が行なわれるとの言うことでありかなり本格的な授業となっていた。
交流会の一番の花形、飛行術が執り行われるのだ。
飛行術は、純粋にスピードを競い合うレースと、空中ラグビーの二種目に別れている。
セイラは、飛行術を一番の楽しみにはしていた。
だが、かなり危険なスポーツな為、中等部は三年になるまで参加は認められてはいないのだ。
だが、セイラはどうしても参加したくてたまらなかった。
参加する方法についてありとあらゆる思考を張り巡らせていた。
学校の敷地には、色んな高さの地点でジグザグに、ポールが魔法で宙を浮いているのが見えた。
先生は、一回飛んでみて手本を見せた。
「では、今回は、一番飛行に慣れてる方から飛んで貰います。ルーナさん、やってみてください。」
「はい、先生。」
ルーナは、箒に跨り深く息を吸い込みふわりと宙に浮かせた。
ポールの高さまで飛翔すると、
風を次々と掻ききり、
箒を上下に上げ下げしながらギリギリの所で、障害物を避けると華麗にターンをした。
100メートル先まで突き進むと、元来た道をスピード落とさず曲麗に弧を描き戻ってきた。
その様は、燕のように速く優雅であり、周りは息を飲んで見ていた。
「わあー。」
「凄い…」
みんな、食い入るようにルーナを見ていた。
ルーナは学校の優等生であり、普段は穏やかで模範的に振舞っており、学校内の先生からの評判は良かった。
彼女は、その気高き精神で、日々努力をし精進してきた。
だが、何処かしらに繊細さと不安感も抱えてはいた。
だが、バードン家の名が穢れてしまうことだけは、避けなくてはならない。
彼女の見た目は柔和な優等生だが、内面に抱えている無駄に高い気位と見栄っ張りのせいで、周囲に取っ付き難い印象も与えてはいるようだった。
「はーい、先生!次、私、やります!」
セイラは、目を爛々と輝かせ手を挙げた。交流会の飛行術に何が何でも参加する気満々なようだ。
「…セイラさん、分かっていますか?これは、お遊びではないんですよ?好き勝手に飛び回ってはいけません。れっきとした授業です。」
マーガレット先生は、勢いよく咳払いをした。
「先生、飛ばせてあげてください。セイラには、才能があります。」
「私もそう思う…何だか、ワクワクするし。」
「うん、私も…」
ブリギッドの訴えに続き、周りの生徒らも、それに同意した。みんな、セイラに強い刺激を期待しているようだった。
「…分かりました。ですが、これはお遊びでないことを肝に銘じて置くように。」
先生は不安と懐疑の気持ちが入り交じった複雑な表情で、渋々了承した。
その様子を、ルーナはやや不安げな顔で見ていた。
セイラは、型破りで大胆不敵。柔軟で、機転が効く。
誰も気づいてはいないが、セイラは魔女としての何か爆発力を秘めているようだった。
自分が幼年からコツコツ積み上げてきたものが、彼女に覆られる恐怖もある。
もし、そうなってしまったら…
セイラは、スタート地点で箒をいつにも増して強く握り締め、そして跨いだ。
「では、セイラさん…位置について、よーいドン!」
マーガレット先生の笛と共に、
セイラは、豪快にスタートを切った。
「よーし!」
セイラの箒は一直線に、急上昇しジグザグに走行した。
だが、動きが自己流で乱暴な為、
ポールに次々と当たっては弾くの繰り返しだった。
流麗なルーナの飛び方とは対照的であり、セイラのそれは豪胆であった。
ーホント、バカな子。序盤から、あんなに体力消耗したら、後でとばっちり喰らうでしょうが…
ルーナは、その光景を見て野蛮な獣を見るような目で軽くため息を漏らした。
セイラは、かつて母を思い出しながら飛翔した。
風に乗り、風に掴む、風と同調する…
そして、風を、次々と切り開いていく。
かつて飛行術のエースであった母の飛翔は、正に雅びやかであった。優雅で速く、白鳥のような様であった。
セイラは、調子に乗り全身に力を込めて箒を強く握った。
風がどんどん勢い強く感じていき、箒は弾丸のようなスピードで前身した。
涼風が、容赦なく襲う。
身体の核の部分からに、強いマグマが湧き上がる感覚を覚える。
箒は、ぐにゃりと大きく螺旋状に旋回しジグザグと、ポールを弾いて行った。
風が猛り狂い、荒れ狂うよな恐怖を全身で感じる。
烈風が巻き起こり、轟音が渦巻くのを感じた。
「わわわ!ちょっ…どいて、どいて、どいて!」
セイラは、悲鳴を上げながらテープを切りゴールした。
セイラの乗る箒は、マーガレット先生の前でピタリと止まり、辺りはザワザワとした、黄色い悲鳴に包まれた。
「セイラさん!今までの授業ちゃんと覚えていましたか!?」
マーガレット先生は、再び強く咳払いをすると強い口調でセイラを捲し立てた。
「…すみません。でも、どうしても従来のやり方に馴染めないんです…今まで何度か試してみてはいたのですが…私には、無理なよううでした。」
セイラは、し折れた花のように縮困り変にかしこまりながら低姿勢で直謝りした。
「言い訳はおよしなさい!基礎は基礎です。飛行術は、我流に飛ぶと命取りになると、何度も言ってましたよね?経験と状況判断がままならない状態で、身勝手で型破りな飛び方は許されませんよ!?それに、おっちょこちょいなのも大概にしなさい!」
マーガレット先生は、キツい口調でセイラを叱りつけた。
それもそうだ。近々他校との交流会が控えてあるのだ。そんな中、身勝手で危険な飛び方をしたら他校への恥さらしとなってしまうことだろう。
セイラは、全身の力がどっと抜け全身が鉛のように重くなり、事の深刻さを悟った。
セイラは、そっと青空を眺め深々とため息をついた。
流麗で雅びやかなルーナと母親とは対照的に、何て自分は雑味があってこうなんだろうと、セイラは深いため息をついた。
風が、優しくセイラの髪をかすりセイラは呆然と天を仰いだ。
他校との交流会は、一ヶ月後に迫っていた。
「セイラ、大丈夫…?」
ブリギッドと、同じ寝室のメンバーが駆け寄ってきた。
「うん、大丈夫。」
楽しくないかと聞かれれば、嘘になる。だが、セイラの飛び方は我流だ。直接教わり型通りにやるのは、退屈でどうしても馴染めないのだ。昔からの、我流の斬新な飛び方に馴染んでいたのだ。
だが、このまま、明らかかに周りから置いてきぼりを食らってしまうことだろう。
セイラは、何が何でも大会に参加したい強い意志がある。
どうにかして参加出来ないかと、セイラは頭を抱えていた。
「あー、何が何でもレースに参加したい、参加出来ないかなあ?」
「えー?駄目だよ。私たち、まだ1年だよ。三年になるまでの辛抱だよ。」
「うん、分かってはいるけどさあ、ブリギッド…」
セイラは、痺れを切らして足踏みをした。
「先ずは、基礎でしょう?一緒に基礎から練習しよう?」
「…うん…そうなんだよねぇ…」
エリカの励ましにセイラは、腑に落ちないようなそわそわしたような複雑な表情を見せた。
その光景を、ルーナ一人だけ不愉快そうに見ていた。
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