第13話 深淵の森 ③

「ゾルディア・ゾルタクスゼイアン…」


独特の奇妙な螺旋状の幾何学模様が浮かび上がり、

青紫色の羅針盤丈のバリケードとなり、影を反射した。


影が、ブクブク泡立ち、消失した。



2人が、振り返るとサリバン先生が息を切らして杖を振るっているのが見えた。



「あなた達、一体ここで何をしてたのですか?」


「「え…?あ…」」


「何をしてたと、聞いているのです。」


「…え?あの…それは、事情がありまして…鳥が、珍しい鳥が飛んでいたもので…見とれてしまい…」

セイラは、目を白黒させ


「何の鳥ですか?敷地内の監視カメラを確認にでも行きましょうか?」



「え、あ…すみません…ホントの事を話します。ちょっと、気分転換に、出ていたもんで…リフレッシュしに…」



「気分転換…?リフレッシュ…?」




「学園生活は、息が詰まります。あんな事になるなんて想定外でした。反省してます。」



「そうです。今回は、たまたま私が見廻りしていたから良いものの…もし、私が居なけりゃ丸呑みになっていたかも知れないのですよ?そして、貴方々の友達も巻き込んでいたかも知れません。」


セイラは、事の重大さを思い知らされた。


確かー学園の生徒は、身の安全の為に決して、当事者だけで行ってはならないと言う取り決めがあった。


しかし、学校ですら、あの森には必要な時以外入ろうとはせず、暗黙の了解が学園内で流れていた。


そもそも、あの森は、禁止区域とされている。


死霊や、ゾンビ、魔物がわらわら跋扈すると言われている。





だが、セイラは軽く考えていた。


ただの迷信に過ぎない、肝試し程度だろう。と、タカをくくっていたのだ。




「先生、私が…私が引き寄せたのかも知れません。セイラは、何も悪くはありません。」



「言い訳は、いいですから。貴方達、明日、朝イチで校長室に向かいなさい。始末書を書くんです。良いですね?」



「「…はあい。」」


セイラとブリギッドは、しょんぼりと項垂れた。



二人は、翌朝、校長室に向かい、始末書を書かされる羽目になった。



「ゴホン。良いですね?次回からは、親を同席しますから。分かりましたね?」


サリバン先生は、大きく咳払いすると語尾を強めて話した。







二人は、広く長い廊下を歩いた。途中で、二人に対するヒソヒソ声でセイラは軽く不機嫌になった。



「ごめんね…こんな事になって。」



「ううん、私も乗り気なところあったし…お互い様だよ。だけど、次から気をつけないとね。」


「そうだね。」



向こう側の方から、カツカツと女性のヒールの音が響き渡る。真紅のローブを纏い、上質なステッキを携えている。

「魔法省の人だね。」

「うん。」

ブリギットは、彼女を見ると急に顔を曇らせた。

「どうしたの??」

「・・私の、ママよ。」

二人は、ブリギットの母親とすれ違う。ブリギットの母親は眉を吊り上げ、口をへの字に曲げた。相当、起こっているみたいだ。

「何していたかと思えば…ブリギット、あなた、問題を起こしたの?」

ブリギットの母親は、キンキン声でヒールをカツカツ音を立てていた。その音が、如何にも苛ついているかのようで、セイラは不快に思った。

「ママ、私、飛べるようになったんだよ?楽しくなっちゃって…」

「はっ?あんたが飛ぶ?ふざけたこと言わないで…」

ブリギットの母親のヒールの音は、益々強く小刻みに音を立てていた。

「あんた、覚えてるわよね…?あの時の事…」

母親は、腕を組みながら指を小刻みに震わせている。

「それは、言わないで。私、変わったの。」

ブリギッドは、唇を強く噛み締める。


「兎に角、あんたが飛ぶのは禁止。」


「私は、飛べる。変わったの。」

ブリギッドは、母親を強く睨みつけた。その目の奥には、意志の強さが感じられる。


「は?あなた、何考えてるの?あなたは、何もできないんだから、言われたことをしていればいいの。分かった?」

ブリギットの母親は、早口で捲し立てた。周りの生徒らは唖然とし彼女を見ていた。

「ちょっと、ママ、やめて。ここは、学校よ。」

ブリギットは、顔を紅くし周りを伺いながらヒソヒソ話した。

「あー、あなたのせいで大分時間を食ってしまったわ。私は、これから理事長に用があるから、ここで失礼させてもらうわ。」

ブリギットの母親は、ヒステリックに声を荒らげてカツカツヒールを響かせこの場を去った。



「大丈夫?」

セイラは、恐る恐るブリギットに尋ねた。ブリギットは、明らかに家庭に問題があるようだ。

「うん。大丈夫。いつもの事だし慣れてるから。私の母方は優秀な魔法使いの一族なんだけど、父方にちょっと問題あってね…」

ブリギットは、箒を強く握りしめると拳を強く震わせていた。

「ブリギッドは、この学校に入って色々変われたんだよ?一緒に、変わっていこう。私も、苦手な呪文頑張るからさ。今回のことは、ごめんね。」

セイラは、早口でブリギットを慰めた。これ以上、何を言ったら良いのか分からなくしばらく微妙な沈黙が流れた。

「何で、私だけ、こんな思いをしなきゃいけないんだろ‥」

ブリギットは、俯き軽く涙ぐんだ。

二人は、無言で長い廊下を歩いた。

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