第12話 深淵の森 ②
しばらく上空を飛び回ると、セイラの中の好奇心は加速していった。
いつもの悪い癖が出てしまったようだ。
「ちょっと、森の中に入ってみよう。」
「うん。でも、ちょっと、怖い。」
「大丈夫。何かあったら、すぐ飛べばいい。」
「そうだね…」
二人は箒を急降下させると、森の中に入り地面に着地した。
不気味なまでに静寂で広大な森の中を、二人は歩いた。
冷風が吹き、木々が微かにと騒ぎ立てる
木の葉らは、互いにひそひそと囁くようだ。
枝や葉の揺らぎが、波打って踊っているようだった。
二人は、深い深い森の中を散策する。
月明かりから離れ、奥に進めば進む程、漆黒の世界が拡がっていく。大木の所々に苔が生えており、しっとりとした空気が辺りを漂う。木枯らしがビュウ、と林を駆け抜け、セイラとブリギッドの全身に氷の刃のように突き刺さる。
「ま、魔物は、来ないよね?獰猛な魔獣とか、セイレーンでも襲って来たりしたら…」
ブリギッドは、不安げにキョロキョロ辺りを伺う。
森へはいると、グッと気温が下がり二人は強烈な違和感を覚えた。
セイラのローブのポケットから、万年筆がカラカラ音を立てて転がった。
二人は、その微かな音にビクついた。
「あれ?無い。」
セイラは、慌ててランプの光を辺りに当てた。
しかし、何処を見渡しても木の根のくぼみや草の中を探しても、見渡らない。
「ホント、何処いったんだろ…?」
セイラは、血相を変えてしゃがみこみしきりにランプを当てながら探し回る。
「ねぇ、それって、重要なものなの?」
「うん。お母さんの形見なんだ。ごめんね…先、帰ってて良いよ。」
「ううん、一緒に探そう。私は、反対の方を見てくるから。」
「ありがとう。」
二人は、5分もの間、辺りをくまなく捜索した。
しかし、どう血眼になっても中々見つからない。
もうしばらく探し回ると、霧が濃くなっていき周りが見えなくなっていった。
「あれ・・?」
「どうしたの?ブリギット…」
「なんか、寒気がする。」
ブリギットは、ぶるぶる震えながら立ち上がった。
すると、霧の向こうから黒い影が姿を現した。
「だ、誰・・!?」
セイラは、ランプを霧の向こう側へと向けた。
ランプの明かりに照らされ、暗がりの奥の方から見慣れない服をした少女がゆっくりこちらに向かって歩いてくる。
少女は徐々に近づき、姿を顕にした。白黒のゴシックなメイド服のような格好をしており、145あるかないかの背丈だった。
ゴスロリの少女は、明らかにコチラをじっと見ているかのようだった。
「誰・・?何か、用・・?」
セイラは、ファなり再び尋ねた。
「…(ブツブツ)」
ーこの学校の生徒だろうか・・・?
しかし、セイラはゴスロリの少女に何処かしらに違和感を覚えた。
その子は、見慣れない1メートル程の長さの古めかしい杖を携えている。魔具店に行った事があるが、見かけた事はないー。材質からサイズまでが全く違う。
その杖は、所々にひびが入った薄茶色をしており先が渦巻きを成していた。しかも、塗装もマークもない。色合いから形まで、全く違う。
セイラ達の杖は、25センチから30センチ位だ。先は細く色は濃いめの茶色がベースだ。しかもニスで塗装をしており、魔具店のマークが刻まれている。
しかも、魔具店は学校の規定でそこしか許可されてない。
ー彼女は、別の学校の魔女なのだろうか
ー?
それとも、自分達は霧に包まれてるうちに過去へタイムスリップしてしまったとでも、いうのだろうかー?
その少女は、ゆらゆら左右に揺れながらゆっくり歩いてくる。
「ちょっと、待って…」
ブリギットは、瞳孔を震わせながら直視している。
「え・・どうしたの?」
目の前のゴスロリの少女は、背丈の3分の2程はある杖を携えブツブツブツブツ呟き続けた。
「ねぇ、ブリギット・・・?」
セイラは、不安になりブリギットの方を向いた。
ブリギットは、身体を硬直させたままピクリともしない。
「知り合い・・・?」
セイラは、ブリギットの肩を叩くが、彼女はマネキンのように固まっていた。
セイラは、正面を向いた。ゴスロリの少女は、ブツブツ謎の呪文を呟きながら杖を地面に垂直に立てくるくる回した。
すると、急に背筋が氷に打たれたかのようなひんやり感じる程の恐怖を感じた。
いや、それ以上ににホラー番組を見たり肝試しをした時のとは次元が遥かに違う、凍てつくような絶望を感じた。それは、ドライアイスのような乾いたような無機質な恐怖である。何処となく理由はわからない、ただ、とてつもなく重苦しいキリキリしたものを感じた。
「何、これ…?」
「逃げて…!」
ブリギッドは、そう叫ぶとセイラのほうまで駆けつけ手を引っ張った。
「な、何…?どうしたの?」
「な、何で、ここにいるの!?」
「どういう事…?教えて。」
「私達、魂取られ人形にされちゃうのよ!」
「それって…あ、もしかして、さっきのってブリギッドが言っていた…?」
「…」
ブリギッドは、無言で強く頷いた。
二人は、無言で箒を急上昇させた。
背中に、不気味で強い寒気を覚えた。
セイラが恐る恐る振り返ると、黒黒とした影のようなものが森を覆いつくしてた。
「セイラ、早く!」
ブリギッドは、血相を変えてひたすら箒を前進させている。あの頃の、ビクついていた時とは、対称的である。
「…うん。」
セイラは前を向き、二人は箒のスピードを上げた。
二人は、風に乗り箒をひたすら上へ上へと急上昇させていった。
だが、不気味な黒影は、二人の背後にじわじわと差し迫っているのだった。
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