第10話 深淵の森 ①

セイラは、生まれて初めてドラゴンと心の交流をした。


全身には、強いエネルギーのようなものが湧き上がった。


セイラは、アンバーを担ぎ元きた道を戻ると、遠くの方でマーガレット先生が立っているのが見えた。



「セイラさん!」


「ドラゴンが、ドラゴンが、アンバーを…」

セイラは、しにりに事の詳細を先生に話した。


「ええ、解ってます。無事で何より。」 


「先生、ドラゴンですよ!?驚かないんですか?」


「そのドラゴンは、エルバー族の賢者です。」


「賢者…?」


「ええ、森羅万象に神髄していると言われています。」


「森羅万象…ですか?」


「ええ。彼ら賢者は、遙か先の遠い未来をも見通せるらしいのです。ここで人語は危険です。早く立ち去らなくては…」


マーガレット先生は、アンバーを担ぐとセイラを引き連れて元来た道を引き返した。




「セイラ、良かった…無事で。」

ブリギッドは、安堵の溜め息をついた。


学校内では騒然とし、授業は中断され、セイラとアンバーは後から校長室へと呼ばれ事情聴取された。


マーガレット先生が事の詳細を説明したものの、アンバーは、あの日どうしてああいう事になったのかは、口をつぐみ答えてはくれなかった。




あれから、3ヶ月近くが経った。


 その間は、セイラは苦手な数学にひたすら耐え学校生活に順応するようになってきた。今でも、苦しみの連続が続いている。

 田舎暮らしの野暮でお転婆なセイラは、校則の厳しい良家のお嬢様が通うような学校は、ひたすら拷問でしかなかった。

 勉強が嫌いだから、こうして異世界の魔女学校にやってきたものの、生徒の中には自分のことをエイリアンのような好奇な目で見て、ヒソヒソ話していた者は少なくはない。


彼女達は、上流階級の貴婦人かエルフのような上品で優雅さがある。

 こうしてみると、全体的な雰囲気や瞳の色、佇まいや言動まで自分は明らかに場違いであり、セイラは顔を赤らめた。叔父の勧めで受けて入ったものの、何故自分がここに居るのか、入ることを決めたのか、セイラは分からなくなってきた。



 否、それは、大っ嫌いな勉強からおさらば出来るというとてもシンプルな理由から来るものだった。


 その度に、セイラの心の中は、怒りと苦しみがぐるぐる不安定に入り混じる。そして、溜息が漏れてくるのだったら。


『叔父さん、叔母さん、元気ですか?私は、元気してます。毎日180度異なる異世界に移され、自分が異邦人みたいで頭がパンク思想です。勉強なんですが、折角、離れられると思ったら、一通りあるだなんて・・・絶望しかありません。学校生活は、まだまだ苦難続きです。 セイラ』


その夜ー、

セイラは、万年筆で手紙をしたため使い魔であるフクロウに渡し叔父の元へと飛ばせた。


「セイラ、ありがとう。最近、セイラのおかげで、飛ぶのに慣れてきたと言うか…楽しくなってきた。」

ベット越しから、ブリギッドがクスリと笑う。


ブリギッドは、次第に飛行が楽しくなってきたのか、二人でこっそり抜け出すようになった。


セイラといると、ブリギッドは心の鎖が解け身軽で晴れやかな気分になっていくのだった。


「ね?飛ぶのって、楽しいでしょ?」


「うん。また、一緒に飛ぼう。」


「さっき、叔父に手紙書いてたの。ねぇ、このあとちょっと、箒に乗って冒険してみない?」


「駄目よ。もう、夜10時よ。門が閉まってるわ。」


「ちょっとだけだよ。先生、皆書斎に居るだろうし。チョロっと近くを出て戻るだけだし。」


「ちょっとだけだよ?」


二人は、ローブを纏いステッキと箒を携え音を立てずに恐る恐る窓を開けた。


眼下には壮大な庭園が広がるも真っ暗で辺りはほとんど何も分からない。


「セイラ、どうしよう。ここ、3階だよ…?」


「大丈夫。怖いなら、無理しなくて良いから。」


セイラは、箒を握りしめ深呼吸をした。

セイラの周りには、ふわふわと微かな風が舞い上がり箒は宙に浮きそのまま外へと出た。


「ほらね、怖くないでしょ?」

セイラは、クルクルとそのまま宙返りして見せた。


「セイラ!」

ブリギッドは、不安げに小声で叫んだ。


「下の灯りを頼りにすれば、怖くないよ。」

セイラは、夜光灯の灯りを頼りにくるりくるりと金魚のように飛び回る。


「…私も、やってみようかな…?」

ブリギッドは、恐る恐る箒に跨り宙に浮かせ窓の外へと出た。


「やったね!」

セイラは、笑顔を見せるとブリギッドの肩を力一杯叩いた。


「わ…危ない、危ない…セイラったら…」

ブリギッドは、苦笑いした。彼女の箒は、一瞬大きくぐらつくも、ブリギッドの中には恐怖心は殆どなくなっていた。


二人は、箒の下にランプを吊るし森の上を散策した。


辺は不気味なまでの静寂が拡がり、梟の声が不気味にこだましていた。


空気は冷たく、二人の全身の芯まで染み込んでくる。


何処か、森の中からゴブリンや獰猛な魔獣が襲いかかってきたら…と、二人の脳裏に不安が過ぎったが、強い好奇心がそれを上回った。


二人は、新鮮な気持ちで森の上を散策する。


「セイラといると、何か、色んな事が新鮮で楽しくなってくる。私、今までずっと縛られてきたから…今、縛りが取れてきたきがする。」


ブリギッドは、目を爛々と輝かせセイラの横に並ぶ。



「そう?なら、良かった。これから、もっと一杯楽しい事、しよう。」

「うん。」

二人は、笑い合った。

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