第7話 ハラハラの幕開け~今日から魔女の卵です! ⑤

4次元目は、数学で、5時限目は、技術家庭の時間だった。


折角、人間界の煩わしさから解放されたと、思ったのに…と、セイラは深深とため息をついた。


家庭科は、魔法を使っての料理だったが、セイラは、調子乗って破天荒な料理をしては、周りを混乱の渦に巻き込んでしまっていた。



材料を全て3メートルほどある天井近くまで浮かせ、その場にいた者の頭上に落下させた。大爆発を起こし辺りは煙が充満し、周りは咳き込んだ。



そして、料理は、タワー状の結婚式のケーキのような微妙なケーキが出来上がった。



セイラは、初めてなことばかりで寮の自室のベットでぐったり横になった。何より、周りの視線が怖かった。

「今日は、ホントに疲れたね…折角、ワクワクする話だと思っていたのに、頭に入らなくて寝落ちしちゃったよ…」

セイラは、深い溜息をつくとブリギットの方を見つめた。

「みんな、最初は初めてなんだよ?大丈夫。セイラは、素晴らしい魔女になる。私が保証する。」


 そして、自分が魔法学校を受けるきっかけについてぼんやり考えた。

 叔父から聞いた話だが、セイラの母親は不思議な力が備わっていた。



ー物事つき始めたあの頃の、母との日常が脳裏を過る。


 庭には、一面ペチュニアの花。赤、ピンク、薄紫のペチュニアが静かな丘を鮮やかに彩るー。


 その丘で、母と人、生き物らがいつも心を通わせていた。

 母の周りには、いつも魔法生物がいた。



そんな中ー、重症を追った人嫌いのドラゴンが運ばれてきた。



ドラゴンは、縛り付けられ、口から炎を吐き出し酷く抵抗していた。



母は、優しく宥め呪文を唱え杖を振った。



 暴れ回る凶暴なドラゴンは、コックリコックリ頭を上下させた。幸せそうな顔でゆっくり眠りに落ちていった。

 

 静かな丘で鮮やかで優しい花々に包まれ、こうして母と魔法生物は心を通わせていたのだった。



ーお母さん…教えて。どうしたら、お母さんのようになれるのー?


 セイラは、横になりながら母との記憶をおぼろげながらも思い出し、自分の不器用さに心底うんざりした。



 夢の中に、ドラゴンが出てきた。谷間の向こう側から、ドラゴンがこちらへ向かって悠然と歩み寄ってきた。近くでこうして対峙すると、その巨大さが分かる。


 漆黒の光沢のある鱗に、深く透き通ったトパーズ色の瞳。


セイラの胸の鼓動は、ばくばくと激しく脈打つ。まるで滝に打たれたかのようである。


 巨大だが威圧感の全くしないその龍は、優しげな眼差しでセイラを見下ろした。



 彼は、何処かしらしきりに自分に何かを訴えているかのようだった。





 翌朝、セイラは起きたら身体全体が軽くなっており、清々しく爽やかな感覚がした。

不思議と、魔法にかかったかのように全てがクリアに感じたのだ。



 


「ブリギッド、今日は、飛行術だね。…で、午後は数学に、言語学、そして、占い学…と…うーん、1日中、飛行術か占い学だといいのにな…」

セイラは、ため息つくとテキストとノートを揃えた。数学と言語学のテキストをペラペラ捲るたびに、深くため息が出そうになる。

「まず、新入生は基礎的な所から入っていくんだよ。土台硬めが出来てないと、魔女になれないどころか最悪、闇堕ちしてしまうんだ…」

ブリギットは、そう言いかけて俯き顔を濁らせた。

「…え、何?」

セイラは、ブリギットの深刻な表情から何処となくザワザワさたものを感じ取った。


「ママから聞いた話だけどね…はるか昔、入学試験をトップで合格した子が居てね…その子の魔術は卓越していて、周りを驚愕させたの。光、闇、風、火、土、石、水、空気、あらゆる属性の魔法を網羅し、自在に操れたの。実践では常に現場で中心的な役割を任されてきたのよ。それで、歴代で一番優秀な魔女だって、将来を期待されていたわ。そして、若干15歳で学校の看板になったの。だけど、性格が徐々に傲慢になっていって、やがて、闇堕ちしたのよ。」


「・・・闇堕ち!?」


「彼女は、己の力を過信し行き過ぎた傲慢さで身を滅ぼす結果になってしまったわ。」


「彼女は、どうなったの…?」


「彼女は、完全に元の人格と記憶のほとんどを失ってしまい。悪魔に魂を売ってしまって、人間の魂を喰らうようになってしまったの。そして、闇の象徴である影を操るのが上手くて人の影を奪ってしまうようになったと、言われているわ。」


「奪われた人は、どうなるの…?配下になるとか、ゾンビになるとか、人外になって人を襲うとか…?」


「正式には、影を奪われた者が人形にされてしまうの。人形になった者は、理性も生前の記憶も奪われ自我も全く違うものに塗り替えられるの。そして、完全に、彼女の配下になって二度と人には戻って来れなくなるのー。そして、ひたすら人の魂を求めるとも悪魔になるとも言われているわ。」


ブリギットは、今まで以上に深鬱な表情をしていた。親が魔法界のエリートらしいから、彼女は魔法界に詳しいのだろう。


「もしかして、例の13人の魔女の中に…」


「ええ、その、中のNO1、最強の力を有した魔女よ。小柄で華奢な少女の姿をしてるけど、かなり危険で魔法界から指名手配されてるわ。今は、とある魔法使いにより強いストレスから幼児退行化してしまっていてね…それで、姿を完全にくらましてるみたいなんだけど・・」


「名前は・・名前は、何て言うの?」


「駄目よ、私達も影になっちゃう・・」


ブリギットは、瞳孔を小刻みに伸縮させ首を強く振ってガタガタ身体を震わせていた。




 

  

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