第6話 ハラハラの幕開け~今日から魔女の卵です! ④
三時限目は、魔法薬学の時間だ。
セイラは、幼少の頃に読んだ童話を思い出した。
セイラはかつて、魔女が薬草や薬品を調合し不思議な発光する液体を作っていたのを、見たことがある。
そして、飲んだ者が悩める人の心を明るくしたり変身してなりたい自分になって、大喜びするのを見てきた。
そこには、沢山の希望と夢と未来が詰まっているのだろう。
セイラは、ワクワクが止まらないでいた。
「薬草学って、何やるんだらろう?」
「調合するんだよ。」
「小学校の時にやった、理科の実験みたいな?」
「…小学校?理科の実験?何、それ?」
「小学校の時にやったの、ビーカーやフラスコと、バーナーに鍋に…あれ、楽しかったな…しょっちゅうやらかして、先生に、睨まれちゃったけどね…」
「そうなんだね。セイラと居ると、元気出てきゃった…暗いのが、吹っ飛んじゃう…」
ブリギッドが、クスリと笑う。
「そう?ブリギッドが、元気出たなら、嬉しいよ。私、何だかワクワクしてきちゃった!楽しみだよね!?大きな鍋に、怪しげな液体や魔法植物を投入してグズグズ煮るとかかな…?ねりねりねりねみたいな、甘酸っぱいお菓子とか…?」
「ねりねりねりね…?」
「うん。甘い粉と水と、酸っぱい粉をぐるぐる混ぜて出来る不思議なお菓子だよ。今度、持ってきてあげる。」
「ありがとう。」
教室の向こう側の方から、
コツコツと、足音がこだましてくる。
ドアがガラリと開き、恰幅の良い中年の女教諭が姿を現した。
「皆さん、私は、薬草学と薬草学の担当させて頂く事になるカリーナです。今回は初級段階と言う事で、先ずは道具の紹介と基礎中の基礎を叩き込みたいと思います。」
カリーナ先生は、サリバン先生同様に強い口調で話していた。
ーそれもそうだ。魔法は、使い方ひとつ間違えるだけで、ちょっとした弾みで命取りになるのだ。
かつて、母の知り合いがそれで大事故を起こしいのちを落としてしまった。
セイラは、母から魔法は正しく使うこと、奢り高ぶらず油断してはいけないことを教わった。
「では、今回は初級と言うことで、治癒薬の調合に入ります。この沸騰した鍋に、シナモンの葉に、オリーブの葉、四つ葉のクローバー、ユニコーンの角をすり合わした虹色の粉末をに入れます。そして、5分程、沸騰させます。こうやって、ゆっくり慎重に丁寧に調合していきましょう。」
カリーナ先生は、一つ一つ材料を手に取り見せて、すり鉢ですり合わせ、ゆっくりと手順を見せた。
「五分ほど煮立ったら、粗熱を取り小瓶に注ぎます。そして、その小瓶に、この、ユニコーンの血液を二三滴注ぎましょう。注ぎ終わったら、直ぐに蓋をし軽くシャッフルします。良いですか?決して外気に触れないように。慎重に振るように。初めは、何事に置いても、慎重に丁寧にゆっくりとが、基本ですので…魔法は、繊細なのです。」
カリーナ先生は、最後の一文を口調を強めゆっくり話した。
「では、二人一組になってやってみましょう。丁度偶数いるみたいなので、隣の席の子とペアを組んでやってみましょう。私は、見て回りますので、分からない人は手を挙げるように。」
先生の指示に従い、生徒はペアを組みテキストを開きすり鉢で材料の調合に取り掛かった。
「ブリギッド、宜しくね。」
「うん。」
セイラとブリギッドは、ペアを組むと鉢に各材料を投入しすり潰した。
「ああっ…目が染みる…」
セイラは、涙ぐんだ。玉ねぎのような涙腺と鼻を刺激する独特の感覚を覚えた。
「セイラ、変わろうか?」
「ありがとう。」
セイラは、棒をブリギッドに渡すと鉢を押さえた。
周りの他の生徒らは、全く顔色一つ変えずに調合しすり潰している。
矢張、生まれ育った環境が根っから異なるからなのだろう。天と地程の差を感じてしまった。
免疫ができているのだろう。
材料をすり潰し、沸騰した鍋に投入する。
ひと通りの手順を終え、瓶に液体を詰める。
ユニコーンの血液を入れたその時だった。
「セイラ、多すぎだよ!もう、これで充分。」
ブリギッドは、慌ててセイラを制した。セイラは、強い勢いでユニコーンの銀色の血を強く振り続けたのだ。
「…あっ…!」
気づいた時には、遅かった。
虹色の薬品は、バン!と、大きな音を立て爆発を起こした。
その虹色の液体は、セイラの顔面と髪に付着し髪はみるみる虹色に変色していった。
「あー髪が、虹色に…!」
「ちょっと、セイラ…大丈夫?」
ブリギッドは、慌てて濡らしたタオルでセイラに付着した液体を拭き取った。
「あ、ごめん、ありがとう…」
セイラは、慌てて近くにあったタオルでテーブルに散乱した液体を拭き取った。
ーと、その拍子に肘が瓶に当たり、薬瓶がコトンと音を立てて倒れコロコロ転がり床に落ちた。
床で転がる薬瓶の中から、虹色の薬品が溢れてくる。
「駄目です!空気に触れたら!」
カリーナ先生は、青ざめキンキン声で捲し立て駆け寄る。
セイラは青ざめ、テーブルの下に潜り込み転がった薬瓶をしきりに追いかけた。
すると、再び薬が、爆発を起こした。
花火のように、派手で眩い虹色の光線がバチバチと音を立て、じゅつ繋ぎのように炸裂する。
周囲の生徒は、軽く悲鳴を上げ仰け反った。
「セイラさん!雑過ぎます!もっと、丁寧にしなさい!」
カリーナ先生は、カンカンだった。早口で鬼のような形相で捲し立てている。
「あ、はい…ええと…。」
セイラは、瞳孔を不安定に揺れ動かし声を詰まらせていた。
胸の動悸が、バクバク激しく鳴っている。
「良いですね!?冒険心からふざけて余計な事をすると、命取りになるんですからね!過去に、それで大事故になりましたからね。分かりましたか?」
カリーナ先生は、目を吊り上げらせていた。
「はあい…」
セイラは、落ち込みミイラのように固まってしまっていた。
周りは、クスクスと嘲笑う人訝しそうにヒソヒソ話し合う人など、様々いた。
「セイラ、どんまいだよ…」
ブリギッドは、落ち込んだセイラの肩を優しく叩いた。
「全く…落ち着きのない。これだと、立派な魔女にはなれませんよ!」
「セイラ、今日、私、久しぶりに強い刺激を貰えた気がする。私、新鮮な気持ちになった。」
ブリギッドは、微笑みセイラをなだめた。
「え…?そうかな?派手に失敗やらかしちゃったけどね…」
セイラは、苦笑いし恥ずかしそうに頭をかいた。
頬には黒い粉が付着しており、髪はバサバサに放射線状に広がっていた。
「失敗は、成功の素だよ。セイラは、これから伸びるよ。私が、保証する。」
「まあ、良いか。ブリギッドが、そう思ってくれたんなら…」
セイラは、申し訳ないような苦笑いした。
「セイラは、どうしてこの学校入ろうと、思ったの?」
「私、魔法でみんなを幸せにしたいの。」
「幸せに…?」
「うん。私のお母さんは、不思議な魔法の力でみんなに元気にしててね、救っていたの。そして、お母さんの周りには、いつもみんな笑顔に包まれてて…幸せそうにしていたんだ。
お母さんは、弱い者や困った人、悩み事や何か闇がある人、誰も見捨てなかった。だから、私もお母さんのように、みんなに光を与えられるような希望を与えられるような、そんな魔女になりたいんだ。今は、こんなだけどね…」
セイラは赤面し、羞恥と希望が入り交じった複雑な笑顔をブリギッドに見せた。
「セイラは、きっとなれるよ。だって、私、こんなに刺激的なの初めてだもの。」
ブリギッドは、クスリと笑った。彼女は、魔法史の時間の時とは対称的に、活き活きとしている。
「そう?じゃあ、ブリギッドは第一号だね。私、今はまだ不器用だけど、これから凄くなれるかな…?」
セイラは、戸惑いつつもはにかんだような表情をした。
「うん、大丈夫。セイラの、成長が楽しみだよ。」
「ありがとう。」
二人は、微笑みあった。
「何?あの野蛮な子?」
「そうよね…粗野で品がないわよね。」
「全く…落ちた子達の身にもなってよね?」
「ホント、ホント。」
時折、周囲の冷ややかな視線を感じたが、鈍感なセイラは全く気にも止めないでいた。
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