第5話 ハラハラの幕開け~今日から魔女の卵です! ③

魔法史の時間は、セイラはひたすら地獄の拷問の時間だった。


45分もの間、70過ぎ位の男性教諭が、しゃがれ声でぼそぼそと魔法界の歴史や、世界の有名な魔法使いとその功績について語った。


セイラは、悪魔や天使、妖精や精霊が出てくるファンタジーの世界のようなワクワクするものを期待していたのに、と、落胆した。


教諭の話口調は、小声で優しくまるで子守唄のような居心地の良さだった。




授業中、ブリギッドはずっとうわの空だった。


しおれた花のようであり、眼は虚ろで、時折、空を眺め溜息をついていた。


ふと、ブリギッドはセイラと目が合い、遠慮がちに尋ねてみた。


「ねぇ、セイラちゃん…」


「セイラでいいよ。」


「ええと…セイラは、不安とかないの…?」


「えっ…?不安…?何で…?」


「私ね…自分が受かったの、マグレだと思うんだ。」


「マグレ…?ブリギッドは、補欠合格なの?」


「ううん。違う。」


「なら、良いじゃん。私なんて、補欠だよ?ドンケツ、ドンケツ。多分、私より下の人は居ないと思う。」


「私、多分、コネで入ったかも知れない…」


「コネ…?」


「うん。親が圧力掛けたかも…」


「圧力…?」


「…ごめん、なんでも無い。」


「まだまだ、これからだよ、大事なのは、入った後だよ。ね?」


「…うん、分かった…」


ブリギッドは、明らかに元気がないようだった。



セイラは、これ以上何を掛けてあげれば良いか分からず、そっとしてあげることにした。





2次元目は、呪文学が行なわれることになった。


セイラは、昔、母親が呪文を唱えていたのを思い出した。



呪文と共に、傷病者の傷口が逆再生のようにみるみる薄れていき綺麗に無くなった。


呪文とは、人を助けるためにあるのだと、セイラは学んだ。


「呪文学か…」


「セイラ、初めてなの…?」


「う…ん、私、どちらかというと飛行術の方が得意で…昔、お母さんが、チラっとやっていたのを覚えていたし…」


「そうなんだ。ちょっとドキドキするよね。」


「うん…ホント、ワクワクしちゃう!」


「コホン…今日から1年間、私が基礎呪文学の担当をする事になりました、サリバンです。えー皆さん、これから、みっちり指導していきますので、覚悟するように。」


セイラは、一瞬、先生と目が合った。


サリバン先生の冷徹な眼差しが、脳天を突き刺すような感覚を覚え、セイラは身震いした。



「今回は、初級の初級と言う事で、物を集める呪文をやってみたいと思います。これは、基礎中の基礎です。基礎がなってないと、他は上手く行きません。かえって危険なのです。まず、近くの対象物に照準を合わせ、こうやって杖をふるいます。全神経を集中させて、唱えます。『アクシス・トワイライト・オズ・ホーン…』」



サリバン先生がそう言い杖を振るうと、机の上の物は、ふわりと宙に浮き先生の目の前で停止し先生は、それを手に取って見せた。


「わー、凄い…!」


周りは、盛大に拍手した。


「では、五分ほど時間をあげますので、各自練習するように。」


サリバン先生は、手をパンパン叩き再びセイラを、じろりと睨みつけた。


ーわー、あの三次試験と初登校時のあの時の事を覚えてるんだね…派手にやらかしたから…きっと…目立たず、大人しくしてなきゃ…


セイラは、頭を抱え視線を逸らした。



生徒は、皆、各々対象物を決め、照準を合わせ、杖を振るい呪文を唱えた。



セイラは、杖の先端を近くにある文房具に照準を合わせ呪文を唱えた。


「アクシス・トワイライト・オズ・ボーン…」



文房具は、ふわりと舞い上がりくるくる天井を回った。


「…え…っ?」


すると、遠くにあった、チョークやその粉、黒板消しまでもが次々とじゅつ繋ぎになり集まってきた。


「セイラ、違うよ。杖をこうやって振るの。」


ブリギッドは、軽く杖をひょいと振ってみせた。


「分かった。やってみる。こうだね?アクシス・トワイライト・オズ・ボーン…」」



すると、机の上の、鉛筆や羽根ペンがふわりと浮き不安定な弧を大きく描いた。



インクの入った瓶が飛び、液体が先生の顔面に飛び散った。


「…あ」

セイラは、戦慄した。


「セイラさん!」


サリバン先生は、金切り声を上げ眼を尖らせ大きく咳払いをした。



すると、次から次へとものが乱雑に

「わ、ちょっと、待って…!」


セイラは、戦慄した。


粉までもふわふわ乱雑に舞い上がり、室内をグルグル渦状に舞い上がり、クラス全員がケホケホむせた。



「わ!」


セイラは頭が真っ白になり、パニックを起こした。生暖かい汗が体内から、吹き出してくる。


体勢を整え、再び神経を集中させる。


「アクシス・トワイライト・オズ・ボーン…」



すると、チョークの粉は激しく渦を作り教室中にいた者全員激しく咳き込み目を閉じた。



その直後ー、


バン!と、何かが強く弾ける音がした。



もくもくと、白い煙のようなものが室内に充満し、その場に居た者全ての視界を塞いだのだった。


そして、白い煙は徐々に弱まっていき奇妙なシルエットが姿を現した。



「セイラさん!これは、何ですか!?」


サリバン先生の、野太い声が教室中に響き渡るー。



「…え…あの…まずかったですすよね…」


セイラは、もじもじしながら頭を搔く。


彼女の目の前には、磁石のように無数のペンや消しゴムがカオスのようにくっつきあった、高さ2メートル程の物体が出来上がっていた。



それは、クリスマスツリーのような城のような幾何学模様の奇妙奇天烈で摩訶不思議な物体である。



「集めるとは、こういう事を言うんじゃないですよ!セイラさん!これは、合体です!ここまで、余計なことはしてはいけません!」



サリバン先生は、声を張り上げた。


「す、すみません…ごめんなさい…私、飛ぶことしか出来なくて…」


「でしょうね?」


サリバン先生は、狼のような冷徹な眼差しをセイラに向けた。


セイラは、その視線が全身に突き刺さりビクッと仰け反ってしまった。


「何、あれ…?」


「ホントに、お馬鹿さん。」


周りは見下したかのような眼差しを向け、クスクス笑っていた。


田舎娘とばかりに、明らかにセイラを見下している。


周りは、器用に物を掻き集め手に取っている。


その光景から、セイラは明らかに格の違いを見せつけられ自身が異邦人であるかのような


セイラは、明らかに自分は場違いであり、全く異なるパラレルワールドからやってきたような感覚を覚えた。




ー振りすぎたのかな…?あーあ、しょっぱなからダメだ、こりゃあ。何で私なんかが受かってしまったんだろう?私、呪文より飛ぶことの方が好きなのに…飛行術早くしたいな…



セイラは、周囲の嘲笑と冷徹な眼差しに、冷たくじめじめした汗が全身から吹き出していくのを感じた。



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