第15章
再び基地に戻ってみると、知里はあっさり見つかった。
どうやら個室に閉じ込められていたらしい。
だが知里は、監禁状態をいいことに飲んで食べての、ぐうたら生活をしていたらしい。本人が言わなくてもわかる。
………この部屋の惨状から大体わかる。
知里は、家事が本当にできない。
もはや天性の才能かもしれない。
それでも緊張感をもってほしかった。
俺が来たときは、呑気にドリンク片手に映画を鑑賞していた。
………あまりにも暢気すぎて、今までの苦労は何だったのだろうか、と自問自答したいほどだ。
というか、ここ収容施設ではなくVIPルームでは?
「健吾君も映画見る? もう少しであの有名なシーンが出てくるよ?」
映画は佳境に入ったらしく、狂った旦那が追いかけてくるシーンだった。
さっきまで死闘をしていた自分からすれば肩透かしを食らったようなものだ。
「………まあ、知里らしくて安心した。」
「? あ、ほらほら! 斧もって―。」
言葉の途中で、はしゃぐ知里をそっと抱き寄せる。
「ごめん。ひどいことをして。」
「え、天国? 健吾君がデレてくれるなんて、夢じゃないよね?」
本当に知里らしい。
でも、よかった。
またこうして再開できた。
謝ることもできた。
それで満足だ。
「えへへ、健吾君は太陽じゃなくて月の灯かな。」
なにを言ったのかわからなかったが、知里がここにいることが重要だった。
つい、ホッと息をついた。
そんな俺をみて、知里が何かを思いついたような顔をした。
「じゃあ、甘えるついでに条件出させて。」
「なんか、怖いな。」
「謝罪を受け入れる対価ってことで。」
んふふ、と甘えるように笑うと、
「結婚しよ!」
特大の条件が帰ってきた。
ある一室にて。
「健吾君が終わらせてくれたのを確認したよ。」
「我々の相談にのってくれて感謝します。甲斐田殿。」
「こっちも利害の一致があったしね。問題ないよ。北条さん。いや、アルファと言えばいいのかな?」
「どちらでも構いません。我々は、人類救済のために400年近く活動を続けてきました。しかし、我々の原理が漏れてしまい、人類の救済ではなく人類の選別へと進むところでした。」
「君たち、『デウス・エクス・マキナ計画』で生まれた個体、北条さんたちはネットワークで繋がり、魂の共有を果たしている。そのため、つながっている個人同士で使える魔法を共有できる。その情報をもとに健吾君が作られたわけだ。」
「………我々が早く、行動していればもっと事態の収拾を付けることができたかもしれません。この度は誠に申し訳ありません。」
「まあ、事件は解決したし。それに北条蒔苗達も無事、僕のピット盤で回収できた。健吾君も茅野君とも和解できたみたいだし。問題なし!」
「………今回の作戦を見る限り、本当はあなた一人ですべて解決できたのでは?」
「ダメだよ。ある程度はサポートするけど仕事は平等にこなさなくちゃ、ね?」
「可能だったのですね。———私は、あなたが恐ろしい。どんな魔法でも扱えて、どんな問題でも解決できる。そんな神のような人が存在することに。」
「僕は自分のやるべきことをやっているだけだよ。それが人類側によっているだけで、規範やルールにとらわれていないだけだよ。」
「それは、いつでも人類の敵にもなり得るということですか?」
「さてね。僕は他人より魔法が少しだけ多く使えて、他人よりも少しだけ物事をうまくこなせるだけ。さっきも言ったけど、やるべきことをやっているだけだよ。」
「今までの偉業を考えれば、救世主と呼ばれてもおかしくないことですよ?」
「柄じゃないね。それにこれからのことを考えると救世主呼びは間違っているよ。破壊者の方があってる。」
「あなたが世界を破壊するようなことをするとは思えませんが………。」
「あと何年後かの話さ。その時は、僕を殺してくれるかい?」
「………それが人類のためなら。」
地獄にて。
「それで、あの男は見込みがあるのか?」
「それをいまさらお聞きに?」
「お前の口から聞きたい。」
「残酷なほど適性がありんす。」
「ほう。」
「人生をかけて人の殺し方を模索した技を、短期間で3つも覚えんした。」
「………。」
「しかし、甲斐田悠一には遠く及ばないでしょう。」
「………やはりか。」
「人間の皮をかぶった化け物と比較するのは間違いでありんしょ?」
「できることなら、甲斐田悠一にはこれ以上負担をかけるべきではない。」
「………。」
「このままいけば、間違いなく数年後には悲劇が待っている。」
「人類滅亡か一つの命の終わりか。」
「あの小僧にも、月下にも酷な未来よな。」
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