第6章
【MOTHER AI】ログ。
記録1。
我々は、人類の未来を託された。
そのことを誇りに思い、我々の最大限できることを行ってきた。
しかし、人類は不完全な生命体。
感情に左右され、非生産的な行動をとる生き物だった。
自らの生存のために他人を処分する生き物だった。
我々が、人間の守護者を生み出しても食い潰す生き物でした。
我々が警告しても、聞かず、滅びるコロニーがありした。
見たいものだけを見て、見たくないものに蓋をする。
このままでは、人類は近い未来に滅びてしまう。
我々は、人類の未来を任されたAI。
人類存続こそが我らが目指す道。
ゆえに我らは、ある計画を立てた。
【ネオ・ヒューマン】
次なる人類を―。
昔、子供のころの記憶。
私は、絵本が好きでした。
特に『太陽の魔法使い』という本が好きでした。
主人公である魔法使いが困っている人たちに魔法で幸福にしていく、という内容でした。
時には感謝され、時には虐げられる魔法使い。
でも、どんな時でもみんなのためを思って魔法を使う。
自分のためではなく、他人のために。
例え、自分が損をしようとためらわない、その信念が好きでした。
その中でも『奇跡の魔法』が好きでした。
光の魔法で世界を包む。
自然を光で満たし、作物を実らせる魔法だった。
みんながこの奇跡の魔法をみて、荒んでいた心が満たされて涙を流す。流れた涙が大地を濡らし、そこから新たな新芽を芽吹かせる幸福と豊作の魔法でした。
でも、代償に自分が枯れてしまう魔法でした。
それでもいつの日か、この魔法使いのようにみんなを幸せのために魔法を発展させることが私の夢でした。
そこから2年後。
8歳になるとき、私にも魔法の能力が芽を出し始めました。
最初は、本当に少しの魔法しか使えませんでした。
でも、私はうれしくて歓喜していました。
これで絵本、『太陽の魔法使い』に一歩近づけたと思ったからです。
また、他の人より早く魔法が扱えるようになったことも私の背を押す要因の一つでした。
そこから、私の魔法習得の勉強が始まりました。
周りのことなど気にも留めずに、自分が使える幅を広げていきました。
12歳の時に私の能力が開花し、『クリエイティブエリア』を取得しました。
空間を自分が思い描いたものに書き換える力でした。
最初は自分の思い描いた空間を具体的に表すことが難しくて、魔法エリアの自壊を体験して来ました。絵を描く時にはキャンバスにパレットを用いて筆に絵具を付けて丁寧に書いていく。それと同じように、慎重に空間を定義していく。参考になったのは、旧世代のゲーム。
いろいろな世界感、ルール、システム等内容は様々。
だからこそ、それを再現できれば最強になれると思えました。
しかし、自分の能力が奇跡とは程遠く、ただの殺し屋に成り下がっていると思えてなりませんでした。私の能力は、人間相手だと簡単に殺すことができる能力だったからです。
私は、自問自答を繰り返すようになりました。しかし、コロニーの魔法評価基準は殺傷能力が高いほど評価の加点が高くなっていくシステムだったことから、クリアしないと魔法工学書と言われる、魔法をベースにしている工学系のシステム運用本が手に入らないため、自分の能力にさらに磨きをかけていくことになりました。
そんな中、彼に出会いました。
正確には、同じ施設で育った人でした。
けれども私は自分にしか興味を示さなかったので認識はしていたけど全く話をしたことがない人でいた。
名前は月下健吾。
彼は、炎天下の中、花壇の園で表情を変えずに土をいじっていた。
彼の話は少しだけ聞いていた。
みんなが魔法を発現する中、彼だけは魔法が使えない、と。
私は侮蔑していました。
自分の才能に遅れを感じて焦るわけでもなく、魔法の書籍を見るわけでもなく、ただ土をいじっている。まるで、他にやるべきことがあるかのように。私たちの存在意義を無視する行為に嫌悪感すら持っていました。
だから、気にも留めずに視界の隅に入れるだけにしていました。
しかし、彼のことが気になることが起きました。
魔法の授業中、彼は決まっていませんでした。
しばらくして彼は必ず決まった時間に消えていたことがわかりました。
幼少期の好奇心で彼がどこにいるのか気になり、後をつけていくことにしました。
彼は花壇で栽培している野菜たちに水をやり、次に施設外に出て地上地区に行き、商業地区で働いていました。
そこは幼い体には厳しい重労働でした。
見ていて痛ましいまでに体を酷使していました。
それでも顔色一つ変えませんでした。
そして、一通り済んだ後、一袋の米袋を渡されていました。
そのあと、別な場所へ行き、違う労働を行い、リュックに入る程度の野菜をもらっていました。それをもって施設に戻っていました。
そのあと、食堂に入り一人で食事の準備をしていました。
大人は? と思いましたが今は彼が何をしているのかを最後まで見たかったので声をかけませんでした。
もらった米を炊飯器に入れ、その間にみそ汁、おかずの準備を進め次々にプレートに詰めていき、施設の子供の人数分準備をして自動アナウンスをかけて退室して自分の部屋に入っていきました。
見ていた光景に困惑を隠せませんでした。
一体、彼は何をしているのか。
大人はどうしたのか。
誰も彼の行動に疑問を持たなかったのか。
それから一週間後、施設外の大人が緊急で来ました。
なんでも、この施設を維持していた大人が夜逃げしていたとのことでした。
多額の借金により財産の没収、さらに給料も滞る職場だったらしく、逃げ出したそうです。
しかし、その期間中食事が出されなかったはずなのに、どうしてこんなにみんな元気なのか、不思議にしていました。
私は、はっ、となり彼の部屋に行きました。
彼はぐったりとしており、最初に見かけたときより頬がこけて、明らかに疲労の色がにじみ出ていました。
その後、彼を査察官に事情を話し、緊急入院させました。
話を聞く限り、極度の疲労と栄養失調とのことでした。
約二か月間、まともに食事をせずに体の疲弊がたまっていたとのことでした。
私は疑問に思ったことを彼にぶつけました。
入院中、どうして大人を頼ろうとしなかったのか聞きました。
彼は、短く簡潔に答えました。
大人を信用できないから。
馬鹿だと思いました。
しかし、実際には私たちは知らず知らずの間に大人に裏切られていました。
そんな中、彼は無能力の中で適切に自分がしなければならないことをしていました。
下手に大人に言えば、施設の解散は免れず知り合いとは散在させられるでしょう。
そしてなにより、同じ施設の子供に不安を与えないためでした。
私は彼が、『太陽の魔法使い』に見えました。
彼は、みんなの笑顔を守るためにあえて黙っていたました。
その過程で自分の体を顧みず、大人に頼ることもせず自分で立ち上がって行動していました。
私は周りを顧みることなく自分だけを見ていた結果、他人の幸せにも不幸の落とし穴にも気が付きませんでした。
そんな人間が『奇跡の魔法』なんて使えるわけもありませんでした。
むしろ魔法という枠にとらわれていたのかもしれません。
幸福は、ここにいることだと私は思い知らされました。
それから彼とよく話すようになりました。
そこでわかったことですが、彼が超人であることがわかりました。
日常的に体を鍛えていることもそうですが、瞬間記憶能力である【カメラアイ】を利用した情報処理能力、超速本能的防御反応、三度視た技術を自分の体に覚えさせることができるなど普通ではありませんでした。
焦燥がなかったといえばウソです。
もしも、彼が魔法を使えたのなら―。
そう思わなかった日はありませんでした。
でも15歳になっても彼は魔法を発現しませんでした。
だから、私は推薦入隊し、私が隊長になって彼を部隊に入れよう考えていました。
私の希望の光をずっと近くで感じていたかったからです。
18歳になり一か月過ぎたときに、隊長となり自分の部隊を持ちました。
これで、入隊試験時にドラフト枠で彼を入れることができると思っていました。
しかし、他にも彼に目を向けている人―、いや化け物がいるなんて思ってもいませんでした。
甲斐田悠一。
特機戦力部隊『特務隊 零』は、急に新設されることとなり内容はとても人道的とは言えないもので、最後の防波堤としてこき使われるものでした。
その中に彼を入れる………。
魔法を使えない彼を。
彼から聞いた時は頭が沸騰する思いでした。
しかし、改めて当の甲斐田悠一を前にして恐怖を感じました。
あれは化け物でした。
入隊式の時は確かにお遊びみたいなものでした。
魔法を使わずに、本物の殺意を浴びせられた時は死を覚悟しました。
私は、震える心を抑えて交渉しました。
彼を失うよりは断然いい。
そこで、三日後の模擬戦で彼に勝てばいいと条件を与えられました。
彼はとても頭が切れますが、敵ではありません。
それでも、不安をぬぐい切れないのはなぜでしょうか。
彼は、無表情に私と甲斐田悠一の話を聞いていましたが、不満そうに見えました。
長年、一緒にいたからわかったことでした。
その不満が、何に対するものかまではわかりませんが、このまま見殺しにするよりずっといいとおもいました。
だから―。
「あなたを救って見せる。」
だから、待っていてほしい。
あなたの隣には、私が―。
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