在りし日の思い出編

第1章

 何にでも思い出はある。

 始まりがあり、終わりがある。

 今回は、その始まりを語ろうと思う。

 人間とは、他人の人生に興味を示すものの価値を見出せない生き物だ。

 だけど、私にとってはこの思いでこそがすべてだ。

 いつでも夢に見る。過去に戻れたら、と。


 


 私がどこで生まれたのか。

 それはわからない。

 記憶にあるのは、小さな生き物が体の上を這いまわる感覚。

 そして、体を焦がす暑さ。

 這いまわられる不快感は徐々に数を減らし消えたが、身を焦がす暑さは消えてはくれなかった。

 たまらず目を開けた。

 目を初めて開けたときに差し込む光に、すぐに目を瞑ってしまった。

 言葉で表すのであれば、目に光が刺さったのだ。

 が、繰り返すことで光量に目が慣れたのかあたりの風景を確認することができた。

 あたり一面の砂漠と私の白い肌を焦がす輝く太陽。

 それが、私の最初にみた風景。

 風が吹くたびに熱が体に蓄積される。

 どうして、私がここにいるのかわからない。

 そもそも私は一体、誰なのだろうか。

 じっとしていても、しかたがない。考えるのは後だ。

 炎天下の中、裸足で歩きながら、時々あるオアシスで水分を補給して木陰に隠れて暑さを凌いだ。

 その過程で何度も限界が来て気絶した。

 そんな中、体に異変が起き始めた。

 徐々に内側から渇望した欲求が湧き上がってきた。

 のちに、それを食欲と呼ぶのだと教わった。

 とにかく、何かを食べたい。

 お腹を満たしたい。

 さらにオアシスにある水を飲んでいるのに渇きが収まらない。

 水面に映る自分の顔は飢えた白狼のようだ。

 肌は砂埃で茶色くなり、髪はボサボサで砂が所々に入り込み薄汚くなっていた。

 そんな中、この深紅の目の色だけが異彩を放っていた。

 当然のように限界は来た。

 もはや、流浪の民のように彷徨い歩き、挙句の果てに道中で力尽きてしまった。

 倒れ伏すことを何回も体験した。

 倒れても起き上がれたのは一重に純粋な当たり前の願望を持っていたからだ。


 死にたくない。


 だけれど何度も体に無理をさせてきた結果、動かす気力もなくなっていた。

 ああ、この大地は私に優しくない。

 動けないのに死にきれない。

 いっそのこと、目の前の砂のように風の向くままに移動できれば。

 倒れて灼熱の地面に焦がされるまま横たわっていると、誰かが駆け寄ってくる音が聞こてきた。

 力の尽きた私には、目を開ける気力さえなくなっていた。

 それでも、耳は機能していた。

 さらに何かしゃべっている声が聞こえたが、すでに応対する気力もなく意識も薄れていきた。すると、私は持ち上げられ何かの乗り物に乗せられた記憶を最後に、意識がなくなった。

 再度、目を開けたときにどこかの施設に居た。

 四方を頑丈な防護壁に囲まれ、手には手錠がかけられ拘束されていた。

 隔離されていた施設の一室に置いてあったトレーにはよくわからない果実や肉、穀物があり、飛びつくように食べた。

 しかし、飢えは少ししか収まらないのに対してお腹はいっぱいだと体が主張し、ちぐはぐな感覚を覚えた。

 そんな中、この部屋にあらかじめ用意してあったのかスピーカーから声が聞こえ始めました。

 「おはよう、奴隷の諸君。今日も我々のために働いてくれたまえ。」

 その音声と共に胸の中から電子音が聞こえてきた。

 これが四乃宮家のメイド、いや、甲斐田紅葉を名乗る前の覚えている記憶。

 私の家族に会う前の物語。

 そして、お父さんに会う前の過去話。




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