第4章
この幼い隊長から経緯を聞いてみると、新規の部署を設立するらしく、見込みのある人物をあの会場に人事が人選していたらしい。
見込みというか、見込みのない俺は上層部に厄介払いされていた気がするのは気のせいだろうか。
【特務隊 零】
それがこの組織の名前だった。
この部隊はコロニーの絶対防衛圏の死守はもちろん、遊撃、護衛、索敵調査など、ありとあらゆる任務に就く。
さらにこの部隊の指揮はこの少年が持っているため他の部署からの横やりは、一切受けない、救助活動は行うが俺達の救助はされない、など危ない部署でもあった。
また、部署はこじんまりした部屋のため、ここに重要部署があるとは認知されていないらしい。
なので、防衛局の中でも御伽噺のようなものだった。
しかし、この組織自体は防衛局の最高司令である御用家、剣崎最高指令より許可をもらったものであった。
「将来的にはもう少し人数を確保しよう、と思ってるんだけどね。いろいろ問題だらけでね。この前の試験を一通り見たけど、みんな全然基準に達してないから期待してないかな。」
少年、甲斐田悠一の言葉には落胆の色合いが多く、どこから切り込めばいいのかわからなった。
とりあえず、気になったことを口にすることにした。
「あ、あの。どうして俺なんですか? 茅野知里の方が適任かと思ったんですが………。」
「知里? 誰? 昨日いた? うーん、思い出せないなあ。」
どうやら、記憶にないらしい。
「あのカラフルな色合いの———。」
「ああ、刺激的な見た目の人ね!」
刺激的………。
否定できない。
「それに知里は、俺らの代ではトップの成績で―——。」
「このコロニー基準の成績なんて意味ないよ。ここは『MOTHER AI』の実験場だもん。」
「………実験場?」
なぜか、少年の言葉は足元が崩れるような浮遊感に苛まれているように感じてきた。
その言葉が本当なら、ここに住んでいる人は………。
「▽●※××……ΣE。」
いまだに何を言っているのかわからないが、顔を曇らせていることがわかった。
名前 北条蒔苗。
性別 不明 ※おそらく女性。
言語 不明 翻訳機能を持っているがバグっている。
魔法特性 行動からおそらく身体強化系。
暫定的な情報を絞ってみたが、いまだにブラックボックスだ。
なにより昨日の試験会場に俺よりも来て早い段階で合格しているところを見ると、実力は折り紙付きだろう。
「ま、いっか。ああ、なぜ、知里さんではなく健吾くんなのかだったね。」
本題に再び入り直そうとする甲斐田氏の言葉を聞きたいような聞きたくないような―。
「結論からいうと、弱いから。」
実にシンプルだが、納得がいかなかった。
普通なら、『強いから』ではないだろうか?
「正確に言えば、弱いように設計されているから。」
「それならなおさら知里は魔法特性が特殊で実践もあります。それに比べて、俺は………魔法が使えません。」
その言葉におかしな要素などなかったのに、甲斐田氏は笑い出した。
「ハハハハハ! 本当に言ってるの? 君が魔法を使えない? ハハハハハ!」
「………事実ですので。」
あまりにも笑う姿が少し癪に障り、言葉に棘が出てしまった。
これでは、社会人失格だ。
が、相手は気にしたそぶりなく、まるで喜劇でも見ているかのようにお面白そうにこちらを見ていた。
そして、少年が虚空に向けて言葉を発した。
「『MOTHER AI』、実験として対照実験をするのはいいけど、それぞれの魔法特性にあった教育をしないと真価が発揮できないことを知らないのかな? ほんと、AIだけあって実にシンプルな判断しか下せない低レベルのポンコツだね。」
どうやら、彼はこのコロニーの統括AIに思うところがあるようだ。
だが、そろそろ苛めた方がいいだろう。
「甲斐田………隊長。そのくらいで。」
「ああ、自分のことは悠一でいいよ。爺さんのファミリーネームは受け取ったけど、どうにも馴染めなくてね。」
その言葉を聞いて目の前にいる彼が超人から人間味のある人の印象に変わった。
本当に些細なことだが、実に親しみやすさを感じた。
こんな人でも名前で一喜一憂するのだ、と。
「それじゃあ、各員初任務を言い渡す。」
急な切り口だったため、思考が遅れたが心を引き締める。
ここが他の部署と違って、過酷極める任務を受ける場所ならその任務は死が隣り合わせだ。本当は嫌だが、心して聞くしかない。
北条さんも息をのむ気配がした。
その気配をよそに、
「はい、これ。」
そういって手渡されたのは紙切れだった。
そこには、かわいい文字で
おつかい
と、書かれていた。
「行ってらっしゃい。ついでに防衛局の探索もしておいで。」
初任務はこうしておつかいとなった。
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