第31話 計画の時
そして、二日後の夕方に、真はようやく紐を解いて解放された。部屋の中はもちろん尿の臭いと糞の臭いだった。
「くせえな」と工藤に言われながら、真はお前たちのせいだと強く思っていた。
トイレを使った真は、新しいボクサーパンツを貰った。工藤が「それに履き替えろ」と言われた。汚れているからだろう。パンツ一丁になったまま、真はトイレを出た。
その後、真は両手首だけをひもで縛られ、工藤に連れていかれた。
そのまま車に乗る。後部座席の真ん中だ。真の左右にはサングラスにスーツの知らないチンピラ二人が同席した。
運転席には工藤、助手席には内村が座っていた。
西京湾に着いたときは、夜の八時になっていた。
他の車も何台か止まった。そう言えば、西京湾の立ち入り禁止のバリケードテープがなかったなと真は思った。
他の車に寺田と水沢の二人の女性もいるのだろうか。いたとしたら、二人はどんな気持ちなのだろうか。この人身売買の話は聞いているのだろうか。
貨物船が来て、中国のマフィアたちから引き取られ、その帰りに速攻で男たちから犯されるのだろうか。
自分は早乙女が言っていた、そっち系の人に船で犯されるのだろうか。
そう考えると、怖くなった。本当に警察は来てくれるのだろうか。
これまでの事件をやっているのだ。警察も黙ってはいないだろう。
ただ、あかねは本当に伝言をしてくれているのだろうか。例えあかねが言ったとしても、警察は動いてくれるのだろうか。
言っても、年齢も二十三と二十一だ。菅からしたら自分の子供のように思い、結局動かない可能性もあるのではないのか。
あかねも菅を半分くらいしか信用していないような発言をしていた。もしかしたら、当てにならないと思っているのではないのか。
真は不安でしかなかった。何らかの事柄があって、警察の出動が遅れたら、大森組は逮捕されるだろうけど、中国マフィアに行き渡ってしまったら、捜査が難航してしまう。
真は辺りを見た。横にはチンピラ二人がまるで人形のように正面を見ている。その為、真が確認できるのは前のフロントガラスからしか視界が見えない。
……八時半になった。
「ちょっと、俺、トイレ行ってくるわ」と、内村が助手席から降りた。
向こうの車からも人が降りてくる。内村がその人物と話をしている。男だが誰かは分からなかったが、頭がスキンヘッドで、少し背を丸めた、年齢が六十ぐらいの人物なのを見て、恐らくアレが大森なのではないかと真は推測した。内村が何回かその人物に頭を下げている。
二人はトイレの方に向かっていったようだ。他の人物はトイレを我慢しているのか。いや、我慢も忘れるくらい緊張が張り詰めているのか。
運転席の工藤は何度も自分の腕時計を確認する。だが、エンジンを掛けている車にはもちろんデジタル時計はついている。
八時五十分になり、内村は戻ってきた。工藤は双眼鏡を手にして海辺の方を見る。
「もうすぐ、来る頃何ですけどねえ」と、双眼鏡を当てて工藤は言った。
「あいつらは本当に時間通りに来るのかよ。前の時は遅れてきたじゃねえか」内村は貧乏ゆすりを始めた。
「上手く、マウントを取ってるんですよ。調子に乗ってますぜ」
それから、二人は喋らなくなった。
相変わらず、静かである。警察はどこかに潜んでいるのだろうか。いたとしたらそうするだろう。
もしかしたら、内村と大森らしき人物は警察に見張られてないか確認してトイレに行ったのではないのか。二十分掛けて戻ってきたなんて、可笑しくないか。
大森の方はどう思っているのだろう。このまま続行するつもりなのだろうか。
真は、車内はエアコンをガンガン利かせているのに、額から汗が止まらなかった。早く貨物船が来て欲しい裏側に、来たら自分は拉致されるといった微妙な気分に陥っていた。
そのストレスに耐えられなくて、思わず吐きそうになる。
と、その時、工藤が指を差して言った。
「やっと来ましたぜ」
全員一斉に指を差した方向を見る。ほのかにではあるが、黒い貨物船が見えるような――気がする。
「おい、お前ら降りるぞ」
内村が言って、真を含む五人は降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます