第30話 そして、見つかる

 翌日の朝になり、廊下が騒がしくなって、ドアが開いた。

「おい、お前……。どうして自由に行動出来てるんだ」

 開けた人物は二人いて、そのうちの一人の男が言った。

 立っていた真は一瞬で内村だとすぐに分かった。写真よりも実物の方が、顔が大きく見えた。がっちりした体格からはいかにもケンカが強そうだった。

「あ、すみません。実はどうしてもトイレが行きたくて、縛っていた紐をそこの椅子の脚で擦ったら、ちぎれまして……」

 真は頭を掻きながら言った。無論真面目な顔のままだ。

「何だと。お前、ふざけるな」

 内村が怒り狂って、真の近くまで来て、思わず顔を殴りそうになる。すると、横にいた早乙女が言った。

「ダメよ、あんた。彼は人形よ。顔が奇麗なほどお金になるんだから。ちょっとでも腫れが出来てしまうと、価値が下がるわよ。それを大森さんに知られたら……」

 内村はしばらく固まっていたが

「くそったれ」

 そう言って、内村は椅子を蹴り上げた。真は、顔は冷静だったが。身体がビクッと跳ね上がった。

「もちろん身体も痛めつけると、向こうでヤルときに分かってしまうわよ。そうすると、今後売買できなくなるから……」

 内村は激高した感情を表に出して、早乙女に向かって言った。

「お前が紐を緩くしたから、上手くくぐり抜けたんだ。こんなもの組長に見られたら、どうなるか分かってんのか」

 唾が早乙女の顔に飛ばしながら言った。真はそう思うくらい、大声だった。

「もう一回、括り付けましょ。そして、何もなかったようにしたらいいわ」

 早乙女は何故か持っていた、昨日と同じ紐を内村に渡した。


「これで、もう動けねえな」

 内村にくくられた紐は手と足を後ろで組み、まとめて括った。真はブリッジしているような体勢のまま、うつ伏せになった。

 手足はもちろん痛いが、背中も尋常じゃないくらい、激痛が走る。

 真は身体が硬い方だ。なので、内村に力づくで手足を近づけた時は骨が折れるんじゃないかと痛かった。

 それに、工藤もその後来て、二人係で真を縛り上げた。これで自分はトイレさえもいけない。真は悲観的になっていた。

「アハハハハ」と、内村は大きな声で笑った。「これで、お前はもう動けない。俺らがこうやって蹴りを入れられてもな」

 そう言って、内村は真の腹に思いっきり蹴り上げた。

「うっ」と真は一気に腹の部分に激痛が走った。思わず、胃液が吐きそうになって、せき込んだ。

「あんた、止めなって」早乙女は心配そうに見つめる。

「ハハハハハ」と、内村は何がおかしいのか、笑いが止まらなかった。「まあ、あと二日後にお前を売ってやる。お前を買いたいという野郎たちがいるからな」

 そう捨て台詞を言って、内村は去っていった。

 真は早乙女に言った。「二日後に何が行われるんだ」

「まあ、あんたは今日から人形よ。悪く思わないでね」早乙女はその問いを隠すように言った。

「他の誘拐された女性たちはどうなった?」

「ハハ、あんたには関係ないことね。まあ、お友達が出来たと言ったらいいかしら?」

「ということは、二人も売買を?」

「フフ、これ以上言っても意味がないでしょ。あんたのこれからの相手はオカマちゃんなんだから」

 そう言って早乙女が去っていき、工藤も同じように部屋を後にした。

 残された真は耐えるしかない。そう思っていた。

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