第28話 犯行の理由
「まあ、そういうことだから。人身売買は明後日の十日で……」
内村は立ち上がって、チンピラの工藤と打ち合わせをした後、部屋を出た。
真はしばらくタンスの中で息を殺していたが、もう聞こえなくなると、ようやくタンスを開けた。
暑い……。
来ている服がびっしょりと濡れるくらい、汗をかいていた。
しかし、内村の上に大森がいる。名前からして、大森が組長だろう。
この人身売買の件は大森が若頭であろう(勝手に真が思っている)内村を率いる子分たちに計画、そして誘拐という実行に移しているのだろう。
ただ、舞子に関しては内村とその内縁の妻、早乙女が互いの愛憎により決行したことで、この人身売買に関しても穴が開いてしまった。
つまり、以前から人身売買していたことが、舞子殺しで、大森組が行ったことだと判明してしまったのだ。
真は最後に内村が残した言葉、
人身売買は十日という言葉……。
しかし、どこで行われるというのだろうか……。
それが、分かり次第、全てが解決できるのではないだろうか。
真は金庫を見た。金庫は開けようとしても開かなかった。
特殊な金庫のようで、いろんなところにあちこちネジが付いている。
真はポケットからプラスドライバーを取り出した。
こいつの出番だな……。
そう思い、ドライバーでネジを回す。かなり頑丈にネジが固定されていて、一つのネジが外れるのに五分くらい掛かった。
手首が痛くなって、思わず真はプルプルと両手首を振る。
これは電動ドライバーが無いときついな……。
そう、青ざめた表情の中、二十分ほど掛けてようやく全て外れた。全身汗だくになっている。
金庫の蓋を外すと、今度はダイヤル式になっていて、暗証番号が必要だ。
ここまで来たのに、まだ手の込んだことをしなくてはいけないのか。
真は両手の平を尻の後ろに置いて、反り身の姿勢になった。
とはいえ、いつまでもここにいるわけにはいかない。
真は一度、適当にダイヤルを回してみた。しかし外れる音は無いし、開かなかった。
どうしたらいいんだ。何か手掛かりはないのか。
真は腕組みをして考えた。部屋は真っ暗だ。しかし、しばらくいたので周りに何があるかは分かっていた。
そうだ、あの時……。
内村が舞子と一緒に写真を撮っていた時に、内村のバースデーケーキが映っていった。あの時デコレーションケーキを内村が食べるのかと、真は内心バカにしていたのだ。
あの写真の日付が、三月九日だった。真は覚えていた。
ダイヤルに3と9を合わせた。しかし、反応はない。
次に0309と合わせると、ロックが外れる軽い音がした。
真は静かな部屋で、思わず息を漏らした。大きく深呼吸をする。
金庫を開けた。金目の物が入っているのかと思っていたが、中身はクリアホルダーが入ってあった。
そのクリアホルダーを開くと、人身売買に当たっての詳細と、日記のような記録が綴っている。そして、これからの予定も書かれてあった。
過去には何十人もの女性を人身売買しているようだ。それは全て成功であり、外国から多額のお金をもらっている。
そして、これからはやはり明後日の九月十日に行うと書かれていた。その時は、大森隆も同行し、中国からマフィアが貨物船を使って西京湾の彩り公園に二十一時で、人身売買を行う予定だ。
明後日の夜九時に西京湾!
真はそのことを脳に焼き付けた。
今回の誘拐は五人。全て女性と書かれていたということは、自分は別の目的――多分、事件を追っていたせいで捕まったか、早乙女の子のみだったか。どちらもあるとは思うが、六人となる。
真はこのことは胸しまうことにした。クリアホルダーを元に戻し、もう一度プラスドライバーで、丁寧にネジを固定させた。
そして、自分は捕まったふりをしたまま、二日後のマフィアとの交換まで、あかねに待機してもらおうと決意した。しかし、あかねたち警察に知らせる方法が分からなかった。
部屋は相変わらず静かだ。廊下も誰もいないだろう。真は静かに部屋を出た。
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