第25話 早乙女の本性
何だろう、この吐き気がする感じは……。
真は気分の悪さから、目が覚めた。
そこには六畳はある、洋室で生活臭のある部屋だった。
ソファや机があり、誰かの部屋だと悟った。
……う、動かない。
真は手足を紐で縛られ、しかも靴も開けないようにテープで止められていた。
まるで瀕死の魚のようにバタつかせるが、息が切れるも、鼻息でしか呼吸できない。
――どうなってるんだ。俺は……。
そう言えば、何かをかがされ急に眠くなって……。
その後に意識を失った。そして、今は、目は覚めているが、まだ頭がボーっとしている。
隣から話声が聞こえる。誰かがいるのだろうか。足音がこちらに迫ってきて、真は緊張が走った。
その人物はドアを開けて、真に姿を見せた。
「目が覚めたようだな」
その男が言った。真は見上げると、黒いスーツに黒いネクタイと、まるで喪服のように全身ダークの色をした男だった。
「フフフ、別にこのまま放置してもいいんだけどな……」
そう男は呟きながら、顎に手を置いている。目線は目が覚めた真だった。
男の手の方には入れ墨が彫られている。真はすぐに大森組の人物だと分かった。
すると、またドアが開き、今度は女が現れた。
その瞬間真は誰かすぐに分かった。あの早乙女だった。
「あら、目が覚めたようね、気分はどう?」そのトーンは昨日話をしたときは違って、どこか色っぽい声だった。
その声に真は寒気がした。
「いつまでも、口にテープで止めちゃあ、せっかくの可愛い顔が見れないじゃない」
そう言って、彼女は真に近づき、しゃがみ込んだ。気のせいだろうか、昨日よりもさらにきつい香水が鼻に着く。
「ちょっと、じっとしててね」と、わざと真の右耳もとにささやくように吐息が掛かった。タバコの臭いがした。
早乙女は優しくテープをはがしてくれたが、真にとっては恐怖でしかなかった。
「早乙女さんも相変わらず若い男が好きですね。このやり取りを内村さんが聞いてたらブチギレてますよ」
内村! 舞子の事件の鍵を握ってる男だ。真は聞き逃さなかった。
「うるさい。お前はさっさと、この部屋から出て行き!」
「へいへい」
そう言って、男は立ち去っていく。ちょっと待って、二人きりにしないで。
テープを全てはがしてくれたものの、その言葉を言えるような状態ではない。
ドアが絞められた音が聞こえたら、真は早乙女を見上げた。喋ろうとは思うが、怖くて喉の奥で空回りしている。
「痛かったわね。でも、もう大丈夫よ。私が付いてるから」
そう言って、真の顎を上げて、早乙女と見つめ合った。
「しかし、あなたは可愛いわね。目も大きくて。私昨日あなたを見た時からタイプだったわ。久々の一目惚れだわ」
そう言って、彼女は目を閉じて真と唇を交わそうとする。
ちょっと、待って……。これは何かの罰ゲームなんじゃないか。
俺のファーストキスだぞ。
そう頭が混乱している真。一生懸命首を振ってかわそうとするが。
「ダーメ。あなたは私の物」
そう言って、彼女は真の両頬に両手で挟みロックさせて。そのままキスをした。
ゔ~ん
真は泣きそうだった。しかも舌を絡ませてくる。激しいディープキスだ。
三十秒ほどそれが続いたであろうか。真にとっては体感時間が五分くらい掛かっているほどだった。
「本当に可愛いわね。ごちそうさま」
そう言って早乙女は真の顔を優しく置いた。真は気を失いそうだった。
「でも、あなたはこれから、もっとキスができるところに案内してあげるわ」
そう言って、早乙女は立ち上がった。
真は早乙女が出て行く前に色々と聞かないといけないことがある。自分の為にも、あかねの為にも。
「何故、僕を連れ去ったんだ?」
真は勇気を振り絞っていった。
すると、早乙女はようやく喋った真に対して後ろを振りかえった。
「アハハ、だから言ってるじゃない。可愛いから私が呼んだのよ。さっきの黒木に頼んで眠らせて、ここに呼んだのよ。私の物になる為、そして、もっと稼いでもらわなくちゃね」
「……どういう意味、これから僕はどこに行くんですか?」真は思わず声が裏返って敬語になってしまう。
「フフフ、ここがどこかわかるわよね。あなたたちが調査していた場所よ」
「大森組ですか?」
早乙女は笑いながらうなずく。「あなたたちがここまで大森組のことを調べてくるから、私が連れ去ったのよ。篠原舞子のこともそうよ」
「篠原舞子が大森組と覚せい剤で繋がっているのは知ってますが……」
「フン」と、早乙女は鼻を鳴らした。「舞子はね。私の内縁の夫を手玉に取ったのよ」
「それが、内村さんですか?」
「ハハハ、そうよ。今日も一人のゴリラみたいなおっさんが聞いてきたわ。私はそうよといったのよ。別に隠すつもりもないわ。何故なら、私にとって内村は未来を変えてくれた存在なんだから」
「未来を変えてくれた?」
「そうよ。落ちこぼれの私に対して、未来を変えてくれた。前に付き合ってた男に金をとられ、借金ばかり背負っていて水商売でしか働けない私に対して、内村が現れたのよ。その時は素敵な人だと思ったわ。優しくて頼もしくてガタイも良くて……。それで、私を全面的にバックアップもしてくれた」
「それで、クラブもママとして働けたということですか?」
「ええ、そうよ。私が店を開いたということでね。それでいて後ろ盾には大森組が付いてる。何不自由もなかったわ。あの女が来るまでね」
「それが篠原舞子ですか?」
「ええ、そうよ。彼女は覚せい剤で大森組と繋がっていた。物凄く知っていたわけではないけどね。私もそれに知らないまま、彼女を雇ったのよ。別に知ってたからとしても、私と同じ落ちこぼれの人間だったから、同情して雇ってたかもしれない。どちらにしても、あの女は大人しく暗い子に見えたけど、自信が付くたびに変化していくのね。特にあいつは」
篠原舞子――承認欲求が強い彼女はそうやって自信がつくと、本来の姿になっていく。そうだったのか……。
「内村はああいった、ちょっと弱く何か病んでいる女性が好きだったみたいね。私にもそうだったけど。でも、どんどん彼女の魅力に魅了されていった。力もあるし頼りがいもあるそんな人間だったのに、愛想のいい女にはまんまと騙される。最初は私も尊敬出来て、内縁の夫だから、優しさから舞子と親しくしてるのかなと我慢したわ。しかし、のちにプライベートでも付き合いがあったことが分かったわ」
「舞子さんの殺害に至ったのは早乙女さん、あなたですか?」
「フフ、惜しいけど違うわ。私たち大森組という暴力団は目的の為だったら手段を択ばないヤクザなのよ。お金や怨恨もそう。内村が舞子とプライベートも遊んでいると知っていた私はそれを問い詰めた。だけど、内村と私は似たり寄ったりで、私も別のホストの子とできていたのよ」
「それは……」真は唖然とした。
「そうよ。舞子が殺される前の一か月前に殺害された男の子よ。あの子も可愛かったけどね。内村とそのことでケンカをして、先に誠意を見せろという話になったわ。まあ、私は内村とその子をどっち取るかと言えば、悔しいけど内村の方よ」
「それで、その子の殺害に至ったってわけですか?」
「そうよ。思い切り証拠もなくしてね。誰からも分からないようにさせたわ。でも、その後に内村がやった舞子への殺人事件はいくつものミスを犯したわ」
「スマホの件ですか?」
「そうよ。あいつは私が決別できないことをいいことに、舞子のスマホがわからないだとか、言ってさ。それで、殺害した後に、組の方に帰っていったわ。
焦った私は、舞子のポシェットから鍵を盗み、彼女の自宅でスマホを探したけど見つからず。もしかしたら、クラブのロッカーにあるかもしれないと、断念したわ。早く引き上げないと、警察に見られたら、自分だけが捕まってしまうと思ったからね。まあ、あなたたちもそのことを。もう調べ上げられたんでしょ」
「なぜ、そこまで知ってるんですか?」
「アハハハハ、女の勘よ。私に事情聴取をしてきたときに、大分つかめてきてるんだなと思ったわ。私は怒りの腹いせに、あのあかねという子の事務所に手紙を入れてやったわ」
「それが、あの文章ですか? でも、そんなことしたらすぐに犯人が分かってしまいますよ」
「分かってもいいの。それが大森組と繋がっている人物だと知ってたなら」
大森組と繋がっていたら、警察も中々動けないと思っての行動だったのかと真は思った。
「後は、警察がどこまで大森組を捕まえてくれるかね。アハハハ、どうするかな」
その顔は狂気に満ちた彼女の顔だった。真は身震いをした。
「僕は大森組の為に稼ぐというのは?」
「ああ、忘れてたわね」と、早乙女は言って、また真の顔に近づけるためにしゃがみ込んだ・
「近々、人身売買が行われるのよ。外国とね。そこで、いろんな男、そしてオカマが買いに行くの。あなたなんてオカマちゃんなんか凄い額で買えるんじゃないかしら。四十後半の女でも好きになっちゃうくらいだから」
そう言って、また早乙女は真と接吻しあった。今度は一分くらい舌を交えての濃厚に絡ませた。
真は目を閉じてされるがままだった。これがつむぎだったら……。あかねだったら……。許されるけど。こんなおばさんにされるなんて……。真はつむぎの顔をイメージしながら、つむぎとディープキスをやっていると思っていたが、どうしてもタバコの味のせいでイメージが出来なかった。
ようやく唇を離した時は、真は力を無くした。
「まあ、こんなに可愛い子だから、もったいないけど」
そう言って、早乙女は真の頭をポンポンと軽く叩いた。
「あの、誘拐された二人の女性たちも人身売買にされるのか?」真は感情的になりながら怒鳴った。
「そうよ」早乙女は立ち上がった。「まあ、警察が知ってるのが二人だけで、本当はもっといるけどね。家でした若い子なんて、深夜にごまんといるからからね。まあ、エサ与えたらみんなついていく。ウチは儲けがいいの。アハハハハ」
そう高笑いを部屋全体に響きわたらせながら、彼女はようやく部屋を立ち去った。
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