第24話 拉致
「今日は、休みにしよう」
「なぜですか?」
「ん? たまにはいいじゃない。真君も相当今回の事件に疲れたでしょう?」
「まあ、そうですけど……」
「まあまあ、ゴリラ刑事さんの捜査であたしたちもどう動くか考えるから……」
そう言ってあかねと真は別れた。
真は電車を利用して、出版社の方に向かった。
しばらく、出版社の方に足を運んでいない。このことは橋田社長には伝えているので問題はないが、満田部長らはちゃんと今月のオカルト雑誌を完成させているのだろうか。
とはいえ、真もこの事件はまだ解決していない。ここで今の状態を載せると、大森組からあかねの事務所と同じように脅迫状を送り付けられるのではないのかと、思っていた。
真は後五分くらいで出版社にたどり着く前に、横道に入り、路地裏の誰もいないところにある自動販売機でコーヒーを購入し、ブルタブを開けた。
ここ数日、神経をすり減らしていた。一応、あかねと聞きまわった、事情聴取などは家に帰って、パソコンのワードを使って文章にして書いていた。その文章が、市販に出回るかまでは定かではないが、この事件に携わることなんて今までない。
それ以上に、刑事を間近で見たこともないのだ。
そういう意味では、ここはあかねにも感謝をしている。
スマートフォンをいじりながら、缶コーヒーを飲んでいる真に、突如後ろから、彼の顔に布のようなものを覆われた。
「んー」と、真は叫ぶが、次第に元気をなくして、眠りについた。
倒れる真に、彼を担ぎながら、泊まっていた黒いミニバンの後部座席に、真を投げ入れた。
その人物はフフと笑いながら、後部座席のドアを閉め、運転席に座り、車を走らせた。
あかねは、今日は店じまいと事務所を閉めて、ソファの上で昼寝をしていた。
すると、夕方に事務所の電話が鳴った。
何だよ全くもうと、目が覚めると、ソファから立ち上がって、咳ばらいを一回して電話を取った。
「お電話ありがとうございます。笹井探偵事務所です」と言った瞬間、思い切り寝起きの声だったので、しまったとあかねは動揺した。
「もしもし、あかね君か?」電話の相手はそう言った。
聞き覚えのある声だったので、あかねは安堵の表情を覚えた。
「何だ。菅さんか……。よかった」
「寝起きの声だな。寝てたのかい?」
「んー、まあね。今日は店じまいにしようと思って、休むことにしたんだ」そう言って、あかねは苦笑いをしながら頬を掻く。
「何なんだそれは。さすが自由人だな。それよりも、事件が進んだぞ」
「え、ホントに?」あかねはまだ気分が眠りについていたが、一気に高揚した。
「ああ、本当だ。前島が見たナンバープレートなんだが、あれは大森組の所有車だったらしい。車は山奥で見つかったんだが、車内はもちろん何も残ってはいなかった」
「証拠になるものを全部隠したってことだね」
「でも、俺たちは手あたり次第、所有者を当たってみたところ、大森組のチンピラが使っていたということだ」
「やるじゃん。警察」
「まあ、警察をなめちゃいかんぞ」
そう菅が胸を張って、互いに笑い合った。
「これで、大森組が誘拐も関与していたということになるよね。しかし、何でだろうね。動機が不十分だね」
「そうだな。動機が分かればという考えもあるが、誘拐された水沢と多分寺田も無事なのかが心配になるな」
「大森組に問い詰めないの? 証言がいるって」
「もちろん、問い詰めるさ。やってることは犯罪だからな。ただ、向こうも悪知恵の天才だ。証拠不十分で終わってしまう可能性もある」
「難しいところだよね。明日、菅さんはこっちに来てくれるの?」
「ああ、捜査が入り乱れてるからな。一つ一つほどいていかないといけない。まあ、核は大森組だ。すべて彼らの犯行からの捜査を踏み切るためにはどうすればいいか考えよう」
「そうだね。いよいよ終盤だね。何だか順調に進んでるよね」
「まあな。だが、ここからだな」
「分かった。連絡ありがとう。また、明日ね」
「じゃあ」
そう言って、二人とも電話を切った。
「可笑しいな……」
何度、ライン通話をしても、真は出てくれなかった。
いつもはすぐに出てくれるのに、変だなとあかねは思った。
メッセージを残す。大森組のことで進展があった。明日またそのことで事務所で話がしたいので、連絡ください。
そう送った。が、しばらく待っても既読にはならない。
あかねは苛立ちを見せていた。しかし、同時に心配の気持ちもあった。
取り合えず、後で返ってくるだろう。
そう思っていた瞬間、つむぎが帰ってきた。
「ただいま」
つむぎは言った。
「おかえり。って、あれ、電話しくれなかったの?」
「うん、何だか学校で過ごしてたら、バカバカしくなって。一人で返ってきた」
「ダメじゃん、真君呼ばないと。真君とは今連絡取れてないけど……」
「飯野さんも忙しいんでしょ。それだったら、お姉ちゃんが登校と下校に付き添ってよ」
「まあ」あかねは頬を掻いた。「分かったあたしが付き添いますよ。つむぎ様の為に」
「嫌ならいいけど」
そう言って、つむぎは洗面台の方に行って手を洗う。
「いえいえ、喜んで承知いたします。お嬢様」
「……ありがとう」
それだけ言って、つむぎはうがいをした。
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