第23話 ゴリラ刑事登場
署に着いて、受付の窓口に婦警の方がいたので、あかねは婦警に、自分の名前と長柄刑事の名前を言った。
「長柄ですね、少々お待ちください」
横長い黒い椅子に座っていたら、数分後に長柄が現れた。
「あれ、刑事さんこの前の……」
あかねは思わず指を差した。
「おい、人に向かって指を差すな」
そう言ったのは以前、舞子の家宅捜査で立ち会ったゴリラ刑事だった。
「ごめん。いや、でも顔見知りの刑事さんだと分かんなかった」
「俺は何となく分かってたけどな。菅さんに男と女の子二人って聞いた時に、こないだの若い二人だなって思ったよ」
「ハハハ、まあ、あれから家宅捜査の方は進展があったの?」
「ああ、このスマホなんだがな」長柄は真剣な表情に変わった。「これは舞子のなんだが、ロックが掛かってあって、解除するのに時間がかかってな。それがやっと見れるようになったんだ。それで、通話記録やライン記録を確認したところ、いろんな人とのやり取りが出てきた」
「誰と?」
「まず、木本だ。彼は正式に彼氏と彼女の関係だから、あって当たり前だろう。次に井原だ。これも舞子の元カレで、ママさんに聞くと、良くやり取りをしていたということだから、その証言は当たってるし、井原も未練があったようだから、半ばストーカーのような電話だろう。
それから、クラブのママ、早乙女菖蒲だ。本名は上原聡子という名前なんだが、彼女との通話記録が何回かあった。経営者でもあるから、通話記録があっても可笑しくないのだが、不自然な点がある」
「通話記録が多いってこと?」あかねは言った。
「そうだ。回数が多いんだ。彼女は毎日ではないが、週四で働きに出かけている。つまり、その時には早乙女と会えるわけだ。それ以外のやり取りをするほど仲が良いわけでもないし、寧ろ仲が悪い」
「舞子と早乙女が、仲が悪いってことまで、調査してたの?」
「聞いてない。しかし、このラインの文章からは仲が良いとはいえない」そう胸を張って、長柄はスマホを二人に見せた。
『今度内村と会ったら、あたしを指名しないでと言え』
『知らないよ。向こうが勝手に惚れてんだから。どうやらあたしの勝ちのようだね』
『ふざけんなよ。次そんなこと言ったら、あんたクビだからね』
『あたしをクビにしてもいいの? あの人はここの経営者なんでしょ』
『何言ってんの、あんた』
『あたし知ってんのよ。あの人は大森組の人なんでしょ』
「このやり取りから、少なくとも慕っているとは思わない。寧ろ早乙女は舞子から弱みを握られてるように見える」
「確かに……。それで、内村っていう人は大森組の人なの?」
「多分な。ただ、本人に直接聞けるようなところじゃない」
「暴力団なんでしょ」
「もちろんそうだ。表では奇麗なオフィスビルではあるが、受付嬢に話をしても通してくれない」
「顔は知ってるの? その内村っていう人の?」
「舞子のスマホのカメラから、内村らしき人物が舞子と一緒に写っている姿があるんだが、この人物じゃないかなと、今は推測してるんだ」
その写真にはクラブの中でバースデーハットを被った、男女二人がソファに座っていて、机の上には大きなデコレーションケーキがあり、ピースして写真を撮っている。女性は篠原舞子で間違いない。男は見たところ五十代くらいの年配の男だった。笑顔だが、眉間に皺を寄せている部分からして、強面であった。
「一応、このことを早乙女に見せて、内村かどうかを判断してもらおうと思うんだが……」
「多分、ハッキリとした答えが出ないかもね」
あかねは腕を組んで言った。
「さっきのやり取りからしたら、シラを切る可能性はあるな。しかし、舞子の話が正しいとなると、早乙女と大森組は繋がっていることが確かだな。菅さんに聞いたら、大森組に早乙女がいたらしいじゃないか」
「そうだね。早乙女と大森組は関係がある。実際に本人が言ってたしね。それがクラブの経営者だとすると、何を持って経営をしたのか、早乙女は何故大森組と手を組んだのかも調べる必要があるね」
「この内村という人物は結婚してたのかな。そこそこいい年齢だ。子供もいても可笑しくないだろう」
「まあね。そこは難しいところだね。結婚指輪もしてないから……」
「早乙女は結婚してたのかな?」長柄は顔をしかめる。
「早乙女は、どうなんだろう……」
あかねは記憶をたどるのだが、覚えていない。すると、真は、早乙女がタバコに火をつけた時にきらりと光る指輪を思い出した。
「早乙女さんは指輪をしてましたよ」
「お、すると、彼女は結婚してるということだ。しかし、旦那はこの事実を知ってるのかな?」
「さあ。そもそも、旦那って誰か分からないし?」
「うーん、早乙女に聞いてみるしかないな。早乙女には一回事情聴取したんだろう?」
あかねは真を見た。あたしは早乙女が嫌いだから、あんたが言ってという合図だ。
「僕らは事情聴取をしました。しかし、聞けたのは、早乙女さんが大森組と関係を持っていることと、その理由が用心棒の為ということですね」
「用心棒か……。なくはないが、それで、内村を客と称して、ナンバーワンの舞子の横で相手をするという交換か……。でも、何で、舞子と内村があの話になったんだ?」
「うーん、舞子は内村が自分のところに来て、勝利を飾ってるやり取りだったよね。嫌がってる素振りはなかったということだと、また変だよね」と、あかね。
「大森組と繋がって、高い覚せい剤を無料で欲しかったんじゃないですか?」真が言った。
「それだったら、早乙女がキレる意味がないじゃない……」
「まあ、真実はこのスマホのやり取りを見せるということだな。ちょっと早乙女に聞いてみよう。君たちは、今日はどこかに行くのかい?」
「まだ決まってないけど。菅さんが調査してる、誘拐事件はどうなったの?」
「あれは、前島という誘拐者の目撃した彼氏が、色々と証言してくれたよ。黒いミニバンが止まって、全身黒のスーツでサングラスを掛けた男二人が水沢を無理やり拉致し、車に乗り込ませたようだ。前島は光栄にも目が良かったから、車のナンバーも見ていたようだ」
「それが分かると、どこの車かも分かるね」
「ああ、ナンバーは335だ。これだけでも特定は可能だろう。誘拐犯も見落としてしまったようだな」
「あと、舞子のスマホも盗まれていないということも犯人のミスだよね」
「いや、ミスはもっとしてるよ」
と、長柄はニヤッと笑った。
「どういう事?」
「犯人は舞子を刺殺した後、色々とスマホを探したんじゃないかと思うんだ。実際にウエストポーチが無くなっている。しかし、そこにはスマホはなかった。焦った犯人は手に入れた舞子の鍵で彼女の自宅を訪れた。そこでスマホを探したのだが、なかなか見つからなかった……」
「そこまで妄想してたの? 刑事さん。それで、スマホはどこにあったの?」
「ちゃんと家にあったさ。ただ、犯人も動揺してたんだろうな。色々捜してもないと思って諦めたんだ」
「なぜ、諦めたんだろうね」
と、ここで沈黙が流れた。
「しかしだ。舞子の部屋に彼女の髪ではない。別の人間の髪の毛のクズが落ちてあったんだ」
「え、やるじゃん。刑事さん。それで、その妄想に陥ったの?」
「まあな。鑑識に回してるんだが、鑑識も忙しいからね。中々、仕事が進まない」
「じゃあ、まだ誰かは分からないってこと?」
「そうだ。それが判明したら、そいつが犯人だ」
人差し指を立てて、ポーズを決めている長柄に、あかねは笑った。
「面白いね、刑事さん。取り合えず、その件は鑑識の結果が出るまでだね。問題は大森組だね。取り合えず、その内村っていう人が大森組にいるか確認した方がいいね」
「まあ、確認はすることには越したことはないが、君たちは今日そっちに行くのかい?」
「そうね」あかねは少し考えて、「多分」
「まあ、あまり無理をしない方がいい。大森組に下手に乗り込むと顔を覚えられたら困る。あんまりことを荒げない方がいいぞ」
「そうだね……」
あかねは、今日はどうするのか判断が付かないままだった
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