第16話 うたた寝

 署に着くまで捕まった、田井は車で、「自分はどうなるのか」「仕事はできるのか」などを運転する菅に聞いていた。

「覚せい剤は初犯だったら、物凄く重圧にはなりません。しかし、犯罪には変わりはありません。もちろん仕事はできません。あなたは罪を背負ってるんです。きっちり反省してください」

 すると、田井は「会社には内密にできませんか」と、何かと自分の身を守ることを言っていた。真は、気持ちは分けるけど……と、思う反面。大人げないと腕を組んでいた。

「田井さん。気持ちは分かりますが、今はこの事実を受け止めてください」

 それ以上、田井は何かを言おうとしたが、黙ってうつむいていていた。信号が赤になった時に車から逃げてしまうのではないかと、隣の真はヒヤヒヤしていたが、田井は覚悟したのか、逃げる様子はなく、しかし、唇をかみしめて悔しさを滲ませていた。

 署に着くと、四人とも降りた。受付まで行くと、菅が真とあかねに言った。

「ちょっと、ここで待ってくれ」

 そう言って、菅と田井は二人奥の扉を開けていった。

 残された二人は受付の長椅子で座った、

「しかし、これで大森組が覚せい剤を、転売をしているというのが確信できたね」あかねはぽつんと言った。

「そうですね。殺された舞子さんが大森組との関係性もつかめましたね」真は前かがみになりながら、あかねに言った。

「だけど、また謎が残ったね」

「何がですか?」

「ほら、舞子が勤めてたクラブのママさんの件だよ。菅さんが言うには、あの人が大森組に入っていったって言ってたでしょ」

「ああ」

 真は双眼鏡を持ってみたわけではなかったので、その分そのことに関して忘れていた。

「あの、ママさんも現地で働いている姿を見たことはないけど、怪しいのは変わりないね」

「ママさんが大森組に関係あることは分かりましたよね」

「それを何故菅さんには言わなかったのか、それが不自然なんだよね」

「言えないんじゃないんですか? だって、自分が暴力団との関係を持っているということを普通隠すんじゃないでしょうか。それに、舞子さんが使っていた覚せい剤が、大森組と関連するものだともママさんは知らないかもしれません」

 あかねは顎に手を置いて考えた、「……そうだね。その為にも洗い出す必要性があるな」

「ごめんごめん、待たせてしまって……」

 菅が右手を上げて、謝るポーズを取った。

「いいよ、別に。それよりも先程の人、凄く先のことを思い悩んでいたね。それくらいだったらやらなきゃいいのに」

 あかねは立ち上がった。真も続けて立ち上がる。

「まあ、バレなきゃ何とかなると思ってと思うし、本人も止めたくても止められないのが薬物だ。どこかで捕まってほしいと願っていたかもしれないな」

「でも、捕まったら、会社がとか人生がとか言ってたじゃん」あかねは手を腰に当てて不服そうな顔を面に出した。

「捕まったら捕まって、失うものが怖くなるんだ。それまではそのことが嫌だったのに関わらずな。本当に色々あるもんだよ」

「これから、どうするの?」

「今日はもう、辺りが暗くなってきたから、捜査は終了しよう。帰り送ってくよ」


 署から出て、あかねの探偵事務所まで送るまで、あかねは菅と話をした。

「そう言えばさ、初日にあたし、舞子の死体現場を捜査したときに、顔の黒くて言葉遣いが悪い警部に遭遇したけど、あれは誰?」

「ああ、黒岩警部のことかな。あの人は警部補を十何年も勤めて警部になったんだ。結構、上下関係が厳しいというか、警部になった途端に下の者に扱い方がひどいね」

「あいつが警部だったら、結構腹が立つんじゃないの」

「まあ、俺たちには結構扱い悪いね。あかねちゃんは黒岩警部と話が合わなさそうだね」菅は前を見ながら、笑って運転している。

「あの野郎。菅さんの名前を出しても、現場を荒らしたくないから捜査に入れてくれないんだよ。ふざけてるよね」

「やっぱり、あの人の中で探偵と警察を線引きしてるんじゃないかな。それに、君らも若いから“若い人間”ということで、遊びに来てると判断したんじゃない?」

「本当にむかつくよね、真君?」

 と、あかねは後ろの後部座席に座っている真を見たのだが、彼は疲れていて、眠りについていた。

「あ、寝てるじゃん」

 菅はバックミラーで真を確認した。「疲れてるんだろう。そっとしてあげよう。彼はこの後出版社に帰るんだろう?」

「どうなんかな。真君の出版社適当だからな。昨日も電話で部長か誰かに伝えて帰ったんじゃない?」

「先日は、君らの未解決事件で雑誌が売れたよね」

「まあ、真君はあたしの助手だからね」

「いつかは助手として雇うのかい?」

 本気で聞いてくる菅に、あかねは突如笑い出した。

「助手は冗談だよ。でも、本当にあたしが切羽詰まった時や、大変な時に助手が欲しいよね」

「助手? 彼でいいんじゃない?」

「真君は出版社に勤務してるジャーナリストじゃん? そんな、助手までやるかな?」

「分からない。でも、君はあんまり男性の助手を雇いたくないんだろう」

「そうだね。菅さんは家庭を持ってるし、いいんだけども。男を雇ったら、あたしやつむぎを女の目で見るでしょ。特につむぎはただでさえモテるのに……」

「男子生徒から結構告白されるのかい?」

「そうだよ。こないだなんか、あたしがそのコクってきた男子を持ってきたフライパンで殴りかかろうとしたからね。そしたら逃げていった」

「まあ、つむぎちゃんは美人だし、おしとやかだからな。真君が好きになってしまったらどうするんだい?」

「絶対に、コロス」

 すると、菅は笑い出した。

「菅さん。あたし本気だよ」

 そうムキになるあかねに対して、笑いが止まらない菅は、ようやく肩で息をした。

「ごめんごめん。あかね君がそれほどまでつむぎちゃん想いだからね」

「あたしにとってつむぎは目を入れてもいたくない妹なんだ」

 真は薄目を開けながら、後ろでそれを聞いていた。

 ……自分はあかねに殺されるとばかりに、やっぱりつむぎとの恋愛は諦めなくてはいけないのかと、内心気持ちが揺れ動いていた。

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