第11話 あかねの過去
井原と別れて、あかねは車に乗った時に、大きくため息をついた。
「いやあ、中々手強い相手だね」
「確かに、どこの暴力団か教えてくれなかったですもんね」真は井原といるとこんなにも緊張感があったのかと、今緩んでそう思った。
「そうじゃない。それもあるけど、あいつと話をしてると息が詰まりそうだ。真君合いの手を打ったり、ここは俺が言ってやるとか、そんなこと考えなかったの?」
「だって、あかねさんが先先あの人に聞くから」
あかねはしばらく真を見た。「ふーん、まあ、いいけど。あんたも事件解決したらこの記事を世に出すんでしょ」
「そうですけど……」
「じゃあ、男として守ってくれてもいいんじゃない?」
あかねは少し頬を膨らませながら怒った表情だった。あの、自由奔放なあかねがこんなことを言うのは初めてだった。前回の鳥取の事件でもそんなこと言わなかったのに……。
よっぽど、井原が怖かったのだろうか。
「やっぱり、大柄の人に問い詰めることは怖いですよね?」真は半ば真剣、半ばからかうように言った。
「うるさいよ、もう。出発するから」
「どこ行きます? さっきの話からだと、暴力団からもらったというところで止まってしまって、どこの暴力団かは分からないままですけど……」
あかねは車のキーを回し、エンジンを作動させ、発進した。「その暴力団の話は菅さんに話してからの方がいいと思う。井原は多分、暴力団じゃないけど、その先は何をしでかすか分からない反社会的の人たちだ。慎重に事を進めるべきだと思う」
「そうですね。出来れば菅さんも入れて三人で行動できればいいですけどね」
「人が多かった方が、いろんなことが進めるからね。着手金を貰う以上は一人でもやらなくちゃいけないけど……」
そこで、あかねは言葉を失った。妹のつむぎのことを考えたら、危険なことを手出しにはできないと考えてしまう。
「そういえば昨日聞こうと思ってたんですけど、あかねさんはどうして探偵なんてやろうと思ったんですか?」
「それは……。あたしとつむぎが、両親が分からないままだから、捜したい為の勉強料かな。それはつむぎにも話をしたよ」
「それで、妹さんは何と?」
「つむぎはお姉ちゃんが知りたいんだったらいいよって、受け入れてくれた。あの子はあんまり両親と会いたくないのかもしれないけど、あたしは違う。あたしは親に会って、今までどれだけ寂しい想いをしたか、辛かったかをぶちまけるんだ。ふざけるなってね」
あかねはいつしか感情的になっていった。
それ以上、真は何も言えなかった。自分は、兄弟はいないが、親も健在だし、何不自由なく過ごしてきた。学生時代は大人しく端っこにいつもいる存在だった。親にはたくさんの愛情をもらった。でも、卑怯なことが許せなかった。からかわれたことはあった。中学時代と高校時代だ。いつも喋らない自分に対して、彼らも日ごろのストレスを抱えているのか、それを発散するためにからかうのだ。
ふざけあっているのかと思っているのかもしれないけど、やられているほうはそんな気持ちにはなれなかった。
それが一年くらい続くと、後遺症が出てくる。対人恐怖症だ。
真は大学四年間必死で悩み続けた。それなりに努力をした。その為、いろんな人と何気ない会話はできるようになった。
しかし、全て完治までは行かなかった。悔しかった。虐めている奴が得していくことが。
その時に、未解決事件のテレビを観た。大学半ばで一人暮らしをしていたので、凄く怖い気持ちにさせられた。それと同時にたくさんの感情が入り混じって、それをほどくのに、一週間はかかった。
一番の感情は、憎さだった。犯人は今も捕まらず、平然と暮らしているのだと思ったら、刑を償うべきだと思っていた。
それと同時に、虐めてきた人間も、罪を償わなくてはいけない。
交わった時に、丁度就職時期だったので、高校の時に新聞部に所属して文章を書いていたことから、真はジャーナリストになろうと決意した。
両親には伝えていない。ライターをやっているとは言った。これは本当のことだ。しかし、そのライターも危険なものに足を運ぶ仕事だとは、知らないままだ。
そう自分の過去を深く思いに更けていると、あかねは言った。
「別に同情してくれとは思ってないからね。あたしたちは今の生活の方が幸せだから」
と、告げるも、真はそれ以上この話をすればするほど何も答えが見つからないと悟った。
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