第12話 大森組
三日目の朝になり、また真は約束通り十時に探偵事務所を訪れると、そこには昨日と同じようにあかねと菅がいた。
「おはよう。どうやら、進展があったそうだね」菅は相変わらず爽やかな笑顔を見せた。
「まあ、そうですね。しかし、次からが難しいです」
「それはあかね君にも聞いたよ。結構面倒くさいところに行きついたようだな」
ソファに座り、真は菅と向かい合わせで座った。あかねはコップに入ったお茶を持ってきた。
「これ、真君の分」と、まあ、つむぎに比べれば雑だが、おもてなしをしてくれるのはありがたいと真は「ありがとうございます」と、受け取った。
「それで、そっちの誘拐事件はどうなの?」あかねは座って自分のお茶を飲んだ。
「まあ、警察一員捜査をしたが、これといった進展がなかった。何しろ証言が少ないからね」
「名前が確か、寺田さんだっけ?」
「そう、寺田由美だ。昨日も言ったように遊び歩いているところで、行方をくらましたということだ。証言としては新たに分かったのだが、彼女はホスト狂いをしていたそうだ」
「ホスト? また、そんな。結構お金使うんじゃない」
あかねは素っ頓狂な声を上げた。
「ああ、彼女は総額五百万円ほど貢いでいた、推しは“ライト”という二十歳のちょっと可愛らしい雰囲気の男に貢いでいたらしい」
「貢ぎ方ってあれだよね。シャンパンを頼んだりとか……」
「そうだ。まあ、ホストもアイドルみたいなもんだから、誰かが推しにシャンパンをつぎ込むと、それに負けじと更に、誰かが高いシャンパンを頼む。それの繰り返しだ」
「それによって愛情表現をしてるわけだね。気持ちはわかるけど……」
「あかね君もホストに行ったことあるのかい?」
「あたしはないよ。お金もないし、そんなことをするんだったら仕事してた方がまっしかな」
「まあ、あかね君は十代から男にはあまり興味がなかったもんな」
「そうだね。一回だけ学生時代に男子と付き合ったことがあったけど、あたしが何でもケンカっ早い性格だったから、その内“お前怖いよ”って逃げちゃった。あた̪しから見ると、あんたの弱弱しい性格が気に入らないんだけどと思ったけどね」
「ハハハ、あかね君らしいな。不誠実そうな男子を見ると、腹が立つんだろう」
「そうだよ。ムカつくんだよ。そう言ったずるい人間が……」
ずるい人間――自分はずるい人間だと思っていないのかと、真はあかねに対して思っていた。
「しかし、覚せい剤を渡したのが、反社会的暴力団だとは……。まあ、うすうす感じてたけどね」菅は手に持っていたグラスを飲み干した。
「その、覚せい剤を売りさばいている、この近くの暴力団って知らないの?」
「密売何てどこもやってるんじゃないかな。ただ、ある暴力団が、ここ三年前くらいから組として大きくなっていったって聞いてるけど……」
「それは、何て言う暴力団なの?」
「“大森組”というところなんだ。何をして大きくなったのかは知らないが、もしかしたらそこも覚せい剤を密売してるのかもしれない」
「大森組……。まあ、そのヤクザが井原の相手だった可能性は確かではないけど、密売はやってそうだね」
「舞子の殺された状況からもナイフは暴力団が使用している可能性はある。それと覚せい剤だったら、大森組を当たってみるのも間違いないな」
「その前に、井原に直接大森組を言ったら確かかもしれないね。それで顔色が変わったらビンゴっていうことで」あかねは右指をパチンと鳴らした。
「なるほど。その手もあるね。それで行こう」
二人は勝手に、今日の予定を解決して、真だけ置いてけぼりになっていた。
何だ! 俺はいるのかと、真は思い切りお茶を啜って音を出した。
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