第9話 ヤバい人間

「何だよ。お前ら」

 そう言ったのはドアチェーンを掛けた井原だった。

「あの、あたしたち探偵なんです。舞子さんの件でお伺いしました」あかねは淡々と喋る。

「今、聞くのかよ。後にしてくれないか?」

「いいですよ。いつにします?」

「いや、それとも、外で話をしようぜ。姉ちゃん一人かい?」

「いえ、助手もいます」

 真は、井原にはあかねの後ろに隠れてて、死角になっていたのか、真が姿を見せると、舌打ちした。

「何だよ。男かよ」そうボヤいた。

「外で話をします? 近くの喫茶店でもよろしいのであれば」

「奢ってくれるならいいぜ」

 時刻は正午前だった。

「まあ、全て話してくれるのであればいいですよ」

「よし、分かった。ちょっと、着替えてくる」

 と言って、ドアを閉めた。

「あいつ、酒臭かった」あかねは井原に聞こえないように小声で真を見た。

「二日酔いでしょうか?」

「かもね。でも、目が結構ヤバい奴だね」

「襲ってくるとか?」

「あいつが襲ってきたら、太刀打ちできないわ。そうじゃなくて、二日酔いの影響もあるけ

ど、薬物をやってても可笑しくないような気がする」

「一度捕まったんですよね?」

「覚せい剤は一回ハマってしまったら、続けざまにやってしまうもんなんだよ。舞子もそう

だったでしょ。多分、家の中に入らせないのは、もしかしたら注射器でも持ってるかもしれ

ないね」

 すると、ドアのチェーンの外れる音がして、井原が出てきた。

 菅が言っていた通り、大柄の人間だった。身長は百八十センチくらいだろうか。太ってい

るわけではないが、筋肉質で、服のサイズを間違っているんじゃないかというくらい、Tシ

ャツが窮屈そうだった。

 両手の甲から二の腕まで入れ墨が彫ってあった。完成度の高いもので、見る人にとっては芸術作品に見えるが、少なくとも真はそれが威嚇でしかなく、人を寄せ付けないものになっていた。

「行こうぜ」

 井原が言って、あかねは「店はこっちで決めます」と、井原よりも先頭で仕切った。

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