第14話 仕返し
朝食になり、椎名も田中に起こされて一階に降りてきた。
「変な時間に寝たから、頭がクラクラする」
そう言って、彼は昨日座っていた場所に座った。
真と村瀬も、昨日と同じ場所に座った。
登坂は相変わらずチェアに座っている。
「さあ、食べましょう……」と、田中は朝食のサラダも机の上に置いた。
「全く、死人が二階にいるというのに、食欲がわくのかよ」登坂はふてくされながら、お茶を飲む。
「まあ、とにかく、朝食を取った後に下山して、110番をしてもらおう」
と言ったのは登坂だった。睡眠薬を仕掛けた人物からだろうか、不思議と登坂だけピンピンしているように真はそう見えた。
村瀬は立ち上がって、トイレの方に行った。
テレビはついている、朝のニュースだ。いろんな事件、天気予報が報道されているが、この家に一人殺されたことを報道に入れてほしいと不意に真は思った。
食事は黙々と食べた。いや、みんなどこなしか表情が暗い。まあ、無理もない。真はそう思いながら、村瀬が帰ってくるのを待っていた。
「皆さん、ホットミルク持ってきましたよ」
そう言ったのは村瀬だった。彼女はお盆を両手で慎重に運んでいた。
「おお、気が利くのう。有難いぞい」登坂はパンをかじっていた。
「やっぱり、パンには牛乳でしょ」
と、村瀬は正座をしながら、机の上にお盆を置いて、コップを六個取り出した。
「おじさまのコップはこれでしたよね?」村瀬はそう言って、登坂へ持っていった。
「おお、すまんすまん。お嬢ちゃんは車が故障してしまったし、しばらくは冒険を続けるのを休むのかのう?」
「まあ、そうね」村瀬は顎に人差し指を当てて言った。「取り合えず。東京に帰ってバイトでもしようかな」
「まあ、車の修理があるからのう」と、登坂は躊躇なく牛乳を飲んだ。
「何しろ、お金が掛かるもんね。いくら保険入ってても。あーあ、まさかこんな状況になるとは思わなかった。まこっちゃん車買って」そう言って、村瀬は真の隣に座る。
「え、何で僕が」
「こんな、か弱い少女が困ってるんだ。助けてよ」
と、村瀬は左手で自分の目を覆い隠し、泣いている姿を見せた。
すると、田中はクスクスと笑った。「村瀬さんは元気があるわね。何か私も元気が出てきたわ」
「そうですか? ありがとうございます」村瀬は嬉しそうに言って、「でも、本当にまこっちゃんには頼んでるんですよ。新車がいいな。いや、外車も捨てがたいな」
「そんなに話を広げないでくださいよ。それに、購入なんてしたくないし……」
村瀬は「えー、男のくせに」と、真の服を引っ張ったその先に、登坂を見ていた。彼は眠たそうに目を擦っている。
村瀬はニヤッと笑った。その表情に登坂も気づいて、
「お主……。やりおったのう」
と、村瀬と真に聞こえるくらいの声量で、睨みながら呟いた。
「ごちそうさま!」村瀬は手を合わせ、姿勢を正して大きな声で言った。
「え、もういいの? 村瀬さんが持ってきたミルクも半分くらい残ってるけど」田中は目を丸くした。
「ああ、いいのいいの。あたし、自分でおもてなしするのが好きだから、真、二階に行くよ。ほら、立って」
「え、うん」と、真は口に含んだパンを、無理やりホットミルクで喉に流して立ち上がった。
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