第7話 突然の眠気
真は脚立を戻して、一階に降りると、そこには大きなイチゴのショートケーキが一切れ、いや、二切れずつ置かれてあった。
「うわー、デザートもいただけるんですか」
真は目を輝かせて言った。甘いものには目がないのだ。
「そうよ。これは今日買ってきたの」
そう言って、田中はショートケーキを頬張る。
「お二人さんも、ケーキとコーヒー召し上がってくだされ」
登坂はそう言って、相変わらずリクライニングソファでコーヒーを啜った。
「爺さん、あんたはケーキいいのかよ」
「わしは甘いものが苦手での」
「そうか……。俺もそんなにお腹がいいけどな」
「それなら、野口君に上げて下され、彼も甘いものが好きなんじゃ」
「すみません」
体格の大きい野口は二、三回頭を下げて、頬ををかく。
「まあ、ちょっとだけなら、食べるぜ」
池田はそう言って、どっちなんだよと真は内心思った。
「それよりも、みんな、これ知ってるか?」
池田はさっき登坂が知らないと言っていた、“金の財宝場所”という本を机の上に置いた。
「知らないよね。野口君は」田中は言う。
「俺もこんな本は見たことない」
「俺もその本は知らないな……」
椎名はメガネのフレームの位置を直すように中指で押し上げた。
「椎名さん。あんたでさえも、知らないか……。実はこの本の中に、紙切れが入ってあって……」
池田は紙を広げて机の上に置く。
「鈴成村? 聞いたことないな……」
「冒険家さん、あんたも知らないか?」
村瀬は興味なさそうに手を横に振った。
「知らない、知らない。あたしも行ってみたいわ、その金が眠っている村」
「へえ、あんたも知らないなんて、もしかしたら、作り物の村かもしれないな。これ、多分金の隠し場所だと思うんだ」
と、池田は手書きの地図を指差す。
「“金の財宝場所”という本に紙切れが入ってあったら、普通そう考えるよな」
椎名は、フォークで刺したショートケーキを口に入れる。
「放火殺人事件は、未解決事件のままだ。確かに犯人もバカじゃないし、この村には潜んでいないとは思うが、身近にこんなことが起こってあんたたちはどう思うんだ」
池田はそう言うと、コーヒーを口に運ぶ。
「俺は、その事件は知ってるし、警察にもアリバイを聞かれたことがあるが、犯人は誰かもわからない。それに、田中さんの旦那さんは内部の人間と考えたとしても、それ以外の被害者は外部の人間だ。この村に用があったのかもわからない」椎名は言った。
「その洋館の家の持ち主は誰だったんだ?」
「わからない。元々住んでいない廃屋だったからな。前はお婆さんが一人住んでいたんだが、それは、もうかれこれ四十年前だ」
「と、なると、勝手に家を使っていたということか……」
「まあ、そうだろう」
椎名は立ち上がって、トイレの方に行った。
「野口さんはどう思いますか?」
「俺も、事情聴取を聞かれたけど、分からない。ただ、その事件があるのは知ってたけど、親が病院で入院してたし、それどころじゃなかったんだ」
「田中さんはさっきも言った通り、その洋館のことは知らなかった。その上、旦那さんの素行は知らなかったと行ってましたが、結構知らない方と会っていたんですか?」
「まあ、確かに夫は外交的な人だったので、市内の方に遊びに行ったりしてましたんで、誰かと過ごすということもありましたね」
田中はそう言って、立ち上がり、食べ終えたケーキとコーヒーを片付ける。
「登坂さんは……」と、後ろを振り返ると、彼はもう目を閉じてこっくりと眠りについている。
「こりゃ参ったな。お寝んねか……」
真は部屋に掛けてある時計を見た。
「もう、十一時ですね」
「あたしももう眠たくなってきた」
テレビばっかり見ていた村瀬は大きなあくびをして、立ち上がった。
「部屋って、確か二階でしたよね」
と、野口に行った。
「ああ、そうだ。一緒に行こう」
「よろしくお願いします」
そう言って、二人は階段を上がっていった。
「あれ、みんなはどこに行ったんじゃ?」
後ろから登坂の声がして、真が振り返ると、目を擦っていた。
「野口さんと村瀬さんは二階へ、田中さんは食器を洗って、椎名さんは……」
トイレから戻ってきた椎名があくびをした。
「もう、寝よう。俺、いつも九時に寝るんだ」
「私も、眠くなってきちゃった」
と、田中も皿を片付けると、リビングに戻ってきた。
「そうじゃな。お開きにするか……」
そう言って、登坂は重い腰を上げるために、杖を使った。
「僕らも寝ましょう、池田さん」
「そうだな」
池田もあくびを噛み殺していた。
「お前さんたちは明日の朝食も取ってから、帰ればいい」
登坂は二階の廊下で、真に言った。
「いいんですか?」
「ああ、みんなが帰ったら、わし一人じゃ。ロクなものはないがのう」
「ありがとうございます」
それだけ言って、真は自分の部屋のドアを開けて、そして閉めた。
中に入ると、ほのかに埃立った匂いがした。
しかし、眠い……。いつもは深夜回っても起きてるのに……。
疲れているのだろうか。朝から池田と二人でここまで来たのだ。無理はない。
真はTシャツの服のまま、ベッドに倒れるように眠った。
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