第6話 一冊の本

「ここが、お前さんの部屋で、隣はあんたの部屋じゃ」

 登坂は二階の廊下で、池田と真に言った。

 池田は部屋を開けた。中はありがたいことにベッドも用意されてある。

「まるで、宿泊用に片付いてあるな」

「まあ、本来なら、もっと村人を呼ぶつもりじゃったからな」

 真も登坂に指示された部屋を開けた。こちらも宿泊用の部屋になっていて、奇麗に整理整頓してある。

「まこっちゃんの隣は誰の部屋だ?」

 池田は登坂に聞く。

「順番からして、奥がわしの部屋、田中さん、椎名さん、野口君、そして、お前さん二人じゃ」

「なるほど、すると、この向かいの部屋たちは、全く使うつもりがないということか……」

「そこは、わしの物置じゃよ」

「ちょっと、中に何が入っているのか、見せてもらえませんかね?」

 登坂は一瞬険悪な顔を見せたが、「いいぞ。どうぞお好きに」

 池田は真の向かいのドアを開けた。そこには棚の中に書物がぎっしりと入ってあった。

「これは、登坂さんの?」

 池田は登坂に聞く。

「ああ、そうじゃ」

 池田はぎっしり詰まっている書物を一つ手に取った。科学的な本であり、ぱらぱらとめくると小さい活字で難しい言葉が書かれてある。

「こういうのを読まれてるんですか?」

「まあな」

 真は棚の上を見た。奇麗に掃除が行き届いている。

「奇麗に掃除されてますね」

「まあ、わしは奇麗好きじゃからのう」

「それよりも、登坂さん。あの放火殺人事件のことを知っているのなら、俺ら二人に話をしてくれないですか?」

「放火殺人事件……。先程全て話したぞい?」

「その燃やされた洋館はどちらにあったんですか?」

「ああ、被害にあった建物は、ここの近くじゃった。まあ詳しい場所はこの洋館よりも、更に山奥の方にあるんだがの。今も、焼け跡があって、痛々しく残ってるわい」

「何故、放火にあったのか、その動機は知ってますか?」

「いや、わしは知らん……」

「その四人は金を持っていたという話はご存じですか?」

 それを聞くと、登坂は顔つきが変わった。

「確かに、金を所有していたらしいが、それがどうしたんじゃ?」明らかに冷静さをよそっている。

「その金に関係して、殺人を犯したという考え方になりませんか?」

 登坂は遠くを見ながら言った。

「……お前さんはジャーナリストじゃったな。悪いことは言わん。あんまり首を突っ込むことはしない方がいいぞい」

「何故です。ジャーナリスト関係なく、俺は登坂さんに聞いてるんです」

「……まあ、わしは犯人ではないから、その考え方にはわかりはせんがな……」

 そう言って、登坂は部屋を離れる。池田は言った。

「登坂さん、この部屋の出入りは勝手にしていいんですか?」

「ああ、構わん。好きにするがよい」

 そう遠くの方から声が聞こえ、登坂は階段を降りていった。

 池田は登坂が遠のいた後に真に言った。

「何か、あの爺さん、可笑しくねえか?」

「可笑しいとは?」

「何か隠してあるような。未解決事件なんてこのすぐ近くで、事件が起きたんだ。十三年間は長いけど、そのことについて考えたりしたこともある。いや、寧ろ、犯人が捕まっていない事件なのに、関心がないなんて、変な感じがするぜ」

「確かに、それが遠い場所ではなく、近いところですからね。それにしても、随分と奇麗に片付いてますね」

「さっき、言っただろう。あの爺さんはきれい好きなんだ」

 そう池田は本を手に取る。

「何か村のことが、分かればいいんだが……」

 真も本を手に取る。しかし、一番高いところは脚立がないと取れない。

 周りを見渡したのだが、椅子も何もない。

「他の部屋も見ません?」

「いや、俺はここでもう少しいるよ」

 池田は本に熱中していた。

 真は一人で探索するのが怖かったが、渋々、一人で他の部屋に行った。

 その隣の部屋は物置になっていた。さっきの部屋とは打って変わって、いろんなものが散々してあり、部屋が汚かった。

(わしはきれい好きじゃからのう)

 どこがだと思わず突っ込みたくなる。

 脚立もあった。真はこれを使えば一番上の本が取れると思った。後はガラクタだらけで、よくわからなかった。

 隣の部屋からは客室になっていた。本来なら何人も泊まりに来ると言っていたなと真は思い出した。

 もう一度、本がたくさんある部屋に入り、脚立を使って、真は一番高い棚の本を物色した。

 専門的な本が多数あり、どれも難しそうだったが、“金の財宝場所”という本に真は目を突いて取り出した。

 本を開けると、中に一枚折られた紙が入っていた。

 何だろう、真は紙を広げると、そこには、

『鈴成村』

 と、表され、手書きの地図らしい絵が書かれていた。

「それは、まさに金が眠っていた場所なんじゃないのか?」

 真はその声に驚いて、危うく脚立を倒しそうになった。

「池田さんビックリするじゃないですか?」

「いや、すまん。これは金の匂いがするぜ」

 真は脚立から降りて、池田に本と紙を手渡した。

「鈴成村……。聞いたことねえな」池田は顎に手を置いた。

「それが、きっと十三年前の何か手掛かりになるんじゃないでしょうか?」

「可能性はある。そして、この地図だと、この先に金が眠っていた可能性もある」

「そうですね……」

 すると、誰かが階段を上っていく音がする。真はまた驚いて、心臓の鼓動が高鳴った。

 現れたのは登坂だった。

「お主ら、田中さんがケーキを切ってるから、デザートも食べんか?」

「あ、分かりました。池田さんも食べましょう」

 と、真は登坂と池田を見る。

「ああ、分かった。と、その前に、爺さん」

「何じゃ」

「この本はあんたのものかい?」

 そう言って見せたのは、“金の財宝場所”という本だった。

「何じゃこれは……」登坂は池田に渡されて両手で受け取った。

「これは、わしのものではない……」

「へえ、一番高いところに置いてあるのに、あんたのものじゃない? そりゃ変だな」

 池田はほくそ笑んだ。

「知らん、本当じゃ」

「じゃあ、この紙切れも」

 池田は本の中に入っていた紙を登坂に渡した。彼はおもむろに紙を広げる。

「鈴成村? わしは、知らん」

「へえ、まあ、いいや。ちょっと、この本借りるぜ」

「好きにするがいい」

 そう言って、登坂は後ろを振り返った。

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