第5話 違和感……
「こんなにも、料理いただけるんですか」
真はテーブルにどんどん皿の上に乗ってある料理を見て驚く。
「そうよ。じゃんじゃん食べて」
田中はニコッと笑った。
「へえ、これ全部田中さんが作ったんですか?」
と、池田は片膝を立てながら言った。
「いえ、私と、野口君が作ったのよ。彼も料理が上手いから」
そう田中は野口に目配せすると、野口はペコリと頭を下げた。
「椎名さんは、料理はしないんですか?」
と、真。
「俺は、畑仕事だけでいっぱいなんだ。料理は女がやる仕事だ」
と、言い放って、また文庫本を開いた。
「こらこら、意地を張るもんではない。野口君は優しい子なんじゃ。わしは彼が生まれてからお世話になってるんじゃよ」
「でも、こんなにも、食べられるかな……」
真は目の前にある料理――。サラダ、スープ、鶏肉の照り焼き、ポテトや唐揚げもあった。
すると、田中は笑った。
「いいのよ。別に、本当はもっと来るはずだったもの」
「今日のパーティーは、たくさん来られるはずだったんですか?」
「そうよ。でも、登坂さんが言うには、みんな、いろいろと用事があるみたいで……」
「まあ、年々人が集まらなくなって来たわい」
登坂は後ろで小さく悲しそうに口を開いた。
「それだったら、俺たちが来たのは良かったんじゃないですか」
池田は屈託のない笑顔で言った。
「ちょっと、池田さん」
真は池田に注意したのだが、登坂は手を横に振った。
「いや、いいんじゃよ。確かにあんたの言う通り、村瀬さんも来てくれなかったら、たくさんの料理だけが残ってしまってたわけじゃ」
場の空気が白けてしまって、誰も喋る人がいなくなってしまっていた。
真は鶏肉の照り焼きにくらいついた。
「……美味しい」
「美味しいでしょ」田中は言った。「それは野口さんが焼いてくれたのよ」
「ありがとう」
と、野口は頭をかいた。
「本当だ、スーパーで売ってる照り焼きとは違う」
池田は美味しそうにガツガツ食べる。
登坂は不意に立ち上がった。
「すまんが、ちょっとトイレに行ってくる」
といって、足を引きずって、一階にあるトイレまで歩いていった。
「あの爺さん、あんなに足悪いのに、この家一人なんだよな」
池田は真に小声で言った。
「まあ、そうですね」
「ここの二階はどうなってるんだ。あの爺さん一人じゃあ、階段上がるのも大変だよな」
「今日、みんなで泊まるんですよ」
田中は言った。
「あ、そうなんですね。まあ、こんな夜だったら、帰るのも一苦労ですものね」
「私も、椎名さんも野口さんも車一台で三十分くらいかけて、毎年ここに来て泊まるんです」
「へえ、それはどうしてですか」
池田は落ち着きがなく、ご飯を口いっぱいにかき込む。
「まあ、簡単に言うと、登坂さんが心配で……。それに登坂さんも私たちと会って嬉しいし。それで、毎年のお盆があけたこの時期に集まろうってことになって……」
「それはいいことですよね。村人もどんどん市内へ行っていなくなるでしょう?」
「そうですね。今や、登坂さんがこの村を守るリーダーみたいな役割になって……」
「村長さんはいないんですか?」真が聞く。
「村長さんは元々、ここの村で育った方だったんですけど、五年前に他界してしまって……。それで、代わりに村長になったのが、その息子さんなんですけど、昔上京したらしいのに、仕事を起業したのが失敗したらしく、それで、こっちに戻ってきた方なんです。でも、村長の仕事もそれほどしてなくて、いつも家で引きこもっているらしいです」
「結構なダメ男だな」
そう言って、スープを飲み干す池田に、――お前もここに来るまでは、同じようなことしてただろうと真は突っ込みそうになった。
「皆さんお泊りということだったら、俺らの部屋もあるんですかね」
池田は笑って言った。
「ま、まあ、登坂さんに聞いてみた方が」
「用意するわい」
と、登坂はトイレを終えて、杖を突いてこちらに戻ってきた。
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