第5話 お葬式

「あれ? 開かない?」


 陽が窓を伝ってこの部屋を照らし、扉の向こうから誰か人の声がしてくる。

 俺はベッドから起き上がりすぐさま魔法で服を取り替えいつもの金色のゴージャスな服に着替える。

 次に打ち付けていた木の板を取り除き扉が開く前に鞄に仕舞い込む。


「あ、開いた。ハンドルディ様。朝食をお持ちしました」

「あぁ。助かる。いただこう」


 俺はこの城のメイドから料理を受け取り、一人でだが優美で最高の食事を始める。


「この料理。まだ足りないな」


 見た目も味も良いが、俺が口に運ぶものとしてはまだ何か足りないと思い、俺は鞄からとある物を取り出す。

 

 それは食す宝石として有名なダイヤキノコである。

 ダイヤのように煌びやかな輝きを持っているが、食感は高級なキノコそのもので、大変貴重な食材である。

 それをパンにふりかければ、見た目が綺麗なだけな食事が豪華で綺麗なものへと質を上げ、より俺に相応しいものとなる。


「中々美味だった。メイドにも後で礼を言っておかねばな」


 食事が終わり、俺は軽い身支度を済ませば早速窓から飛び降り城下町へと向かおうとする。

 窓から地面への十メートル程の高さを落下している間に俺は浮遊魔法を自分にかけ、そのまま空を飛び城下町を上から散策する。


「あっ! ハンドルディさんだ!」


 町を歩いていた子供の一人が俺に気づき手を振る。その声により周りの人々も俺に気づく。


「邪悪龍を倒してくれてありがとー!」

「あんたはこの国の英雄だ!」


 俺が飛んだ道では歓声の嵐が舞起こり、町を騒がせながら自由気ままに浮遊する。

 数時間ほどこの愉悦を楽しんでいたあたりで、少し離れたところに武具を持っていないクリシアを見つける。

 武器を持っていないので休暇かと思ったが、昨日見た部下を数人引き連れていた。


 あいつこの俺の稽古というこの世界で最も名誉なことを差し置いておいて休暇とは、良い度胸してるじゃないか。


「おい!」


 俺はしょんぼりとしながら歩いている彼らの前に飛び降り格好良く着地してみせる。


「は、ハンドルディ殿!?」


 この世界では浮遊魔法が使えるのはごく少数だ。彼女もきっと見るのは初めてだろう。


「お前この俺に稽古を申し込んでおいて遊びに出かけるとは中々良い度胸じゃないか。それは俺を放ったらかしにしてまで……」

「遊びじゃない……葬式だ。この前の邪悪龍との戦いで燃やされて死んでしまった者の弔いに行ってきたところだ」


 彼女は物悲しげな表情を浮かべ、消え入りそうな声を出す。


「そうか。では今からは時間はあるな。ついて来い!」

「えっ!? 今から!?」

「何だ。またくだらない用でもあるのか?」

「いや今の私を見て今日はやめとこうとかそういうことは思わないのか!?」


 何を言っているんだこいつは。何で今のこいつに俺が躊躇う必要があるんだ。


「よく分からないが暇ということだな。ついて来い」

「くっ……分かった。おいお前達はもう解散してくれ」


 クリシアは部下を帰らせ、俺は早速俺専用の訓練場へと向かおうとする。


「ん? な、何で私の手を掴む?」


 彼女は顔を赤くしながらも俺の手を掴み返してくれる。


「しっかり掴んでおけよ。落ちる間抜けを助けるほど俺は優しくないぞ」


 俺はもう一度浮遊魔法を使い一気に急上昇する。


「あばばばばばば!!」


 俺に比べ貧弱なクリシアは空気抵抗に耐えられず息を上手く吸い込めず奇声を上げ美しい風貌が台無しになってしまう。

 そんな中俺は鞄から一つの石を取り出しそれを更に上へとぶん投げる。そしてそれによって生じた漆黒のゲートに飛び入っていく。

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